生分解性マルチとは、土壌中の微生物によって分解されるマルチのことです。収穫後の作物残さとともにすき込むと、微生物の働きにより水と炭酸ガスに分解されるため、従来のポリマルチを処分するためにはぎ取る作業を省略できます。
生分解性マルチのメリット
生分解性マルチは従来のポリマルチに比べると高価格帯の商品です。ですが、地温の調節や雑草の発生防止など、従来のマルチと同様の機能をもちながら、従来のマルチにはない特徴で注目を集めています。
廃棄物処理の手間が省ける
従来のマルチは使用後に産業廃棄物として処理することが義務付けられています。そのため、収穫前にマルチをはぎ取り、廃棄物として処理する必要が生じます。しかしその過程は労力を必要とします。はがす前にはマルチ表面の作物残さを取り除く仕事がありますし、はがした後もマルチについた根や土をできるだけ取り除いて乾かす作業や指定された形態に梱包する作業もあります。
生分解性マルチは、微生物によって分解される樹脂を配合して作られているため、特例で、土中にすき込むことができます。よって、はがして処分する作業は不要です。
また最終的にすき込むことから、フィルムが破れても問題ありません。そのため、生分解性マルチを張ったままの土壌に軽トラックを乗り入れたり、機械収穫を行ったりすることも可能です。
人件費や労働力の確保が必要となる大規模経営体ほど、省力化のメリットは大きいといえるでしょう。
環境面・将来性にも魅力あり
プラスチックのリサイクル方法は、「マテリアルリサイクル」、「ケミカルリサイクル」、「サーマルリサイクル」の3つに分類することができます。従来のマルチフィルムは、施用後どんなに手間をかけて根や土を取り除いても完全には除去されず、結局のところ「サーマルリサイクル」すなわち熱回収以外の再生利用は難しいというのが現状です。
なお、これまで一部のプラスチック廃棄物は中国などの処理を引き受けてくれる国々へ輸出されていましたが、これらの国々が受け入れを制限したり、汚れたプラスチックの輸出を規制する条約の発効により、国内で処理されるプラスチックの量は増加しています。
一方、生分解性マルチは、土壌中にすき込むことで自然に分解されるわけですから、排気プラスチックの処理が不要になります。原料樹脂が植物由来であれば、「カーボンニュートラル」(温室効果ガス排出量から吸収量と除去量を差し引いた合計をゼロにする)にもつながります。
マルチをはいだり、処分に手間をかけたりする必要がなくなるので、人件費の削減や栽培管理以外の作業に対する精神的負担の軽減が期待されます。
使用上の注意
マルチとして利用した後、そのまま土壌にすき込めるのが生分解性マルチの魅力といえますが、その特徴から使用する際に注意しなければならないこともあります。
気象や土壌条件などの影響で分解速度が変わる
まず土壌中で分解されるスピードが気象や土壌条件などの影響を受けるという点に注意が必要です。
たとえば高温条件(晴天下での気温上昇など)や多湿条件(降雨など)下では、急激に分解が進んでしまい、マルチとしての機能を果たせなくなる場合があります。ほかに農薬等の影響で分解が進むこともあります。特に線虫駆除剤は生分解性マルチの分解が進みやすいといわれています。
一方で低温、乾燥といった条件下では半年経っても分解が進まないということもあります。
保管はできない
それから、生分解性マルチは水分や温度などの影響で加水分解されます。そのため長い期間保管していると、加水分解や劣化が進み、マルチとしての強度や機能が低下してしまうため、長期保管には向いていません。
しっかりすき込む必要あり
処理方法についても注意点があります。生分解性マルチの土壌中へのすき込みは、産業廃棄物の処理(中間処理)に該当するため、廃棄物処理法に基づく処理基準を守る必要があり、それにおいて、生分解性マルチが周辺に飛散しないようにしっかりすき込むことが求められます。
もし、すき込みが不十分であったり、上記で紹介した条件によって分解が進まず、地表に分解されていないマルチが目視できるような状況にあったりすると、自治体から不適正な処理として指導を受ける可能性があります。
生分解されないものに注意
言わずもがなですが、従来のポリマルチはすき込んではいけません。産業廃棄物として適正な回収・処理を行ってください。また、生分解性マルチと銘打っている製品であっても、非分解性物質を含む製品には注意してください。非分解性物質を含む場合には、産業廃棄物として回収・処理を行う必要があります。
生分解性と安全性に関する識別標準として「グリーンプラ識別表示制度」が設けられているので、グリーンプラ製品と認定され、そのシンボルマークがついた製品を選ぶことをおすすめします。
改良進む生分解性マルチ
生分解性マルチは改良が進められています。
先述した通り、生分解性マルチは保存性の悪さや強度、気象などの条件によって分解速度が変わってしまうという点がデメリットとされています。そこで生分解性マルチ自体の耐久性をあげてマルチの機能を発揮している最中は分解されにくくし、マルチ使用後には分解を促進する「酵素」をスプレーするなど、分解速度をコントロールする研究が進められています。
これが実用化されれば、保管しやすく、使用中にマルチの機能を損なう可能性が減り、農家が望んだタイミングで分解させることができます。
今後、より一層実用しやすい生分解性マルチが登場することに期待が高まります。
参照サイト
- 生分解性マルチフィルム普及マニュアル
- 野菜の生産に生分解性プラスチック製農業資材を使い
- 人と環境を助ける生分解性マルチ 生分解性マルチフィルム とは…
- 生分解性プラスチック – 環境技術解説
- 生分解性マルチの特性と利用法
(2024年5月15日閲覧)