今一度、病気が発生しやすい環境を知り、植物病害から農作物を守る

今一度、病気が発生しやすい環境を知り、植物病害から農作物を守る

一般社団法人 日本植物防疫協会『農薬概説2021』(日本植物防疫協会、2021年)に、こんな1文があります。

植物は、そこに病原体(主因)がいればいつでも必ず病気になるとは限らず、植物の素質(素因)と気象その他の環境要因(誘因)が揃ってはじめて成立する。すなわち、病気は主因・素因・誘因の3者が揃ってはじめて起こり、その程度はこれらの相互作用によって決まる。

引用元:一般社団法人 日本植物防疫協会『農薬概説2021』p.183(日本植物防疫協会、2021年)

本記事では病気の発生に深くかかわる環境要因に着目し、病害が発生しやすい主因である病原体が活動しやすい環境についてまとめました。

 

 

病気が発生しやすい環境

今一度、病気が発生しやすい環境を知り、植物病害から農作物を守る|画像1

 

気温

まず、一般的に日照が多い条件では植物は健康に育ちます。よって日照が不足した条件では、植物が軟弱に育ちやすく、病気への抵抗性も弱まります。

また、病原菌の種類によって、それぞれに適した気温がありますし、温度は植物自身の病気への抵抗性に影響を及ぼします。

たとえば、ナス科などに発生する青枯病は25〜30℃に発病しやすい一方、ムギ類の雪腐病は積雪下で起こります。

イネいもち病菌の生育適温は28〜30℃ですが、この病気が発生する適温は25℃以下です。また、イネの場合、最低気温が17℃以下になるような環境下では、イネがケイ酸を吸収しにくくなり、病気に罹りやすくなります。

イネいもち病の発生適温は25℃以下と記しましたが、育苗中に発生する苗腐敗症や苗立枯細菌病は30℃以上になると多く発生します。

ほかに、べと病は冷涼多湿な環境で発生しますが、ウリ科の黒点根腐病などは高温多湿な環境で多く発生します。

湿度

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湿度は病原体の胞子形成や植物への侵入に影響する環境要因です。一般的には糸状菌の胞子形成と侵入には高い湿度が必要になることから、高い湿度状態を好む病原体が多いです。

湿度が高くなると葉面上などに露が生じます。露などの一定時間生じる水滴によって病原体の分生子は発芽しやすくなり、また付着器の形成によって病原体が植物に侵入しやすくなります。

たとえば、細菌やピシウム属菌も多湿環境を好みます。一方で、うどんこ病は上記に比べると低湿度な環境を好みます。とはいえ、基本的には病原細菌が侵入・増殖しやすくなる多湿環境は避けた方がよいといえます。

雨・風・雪

雨は、病原体を飛散させ、植物への侵入を容易にする原因となります。雨によって病原体の分生子が飛散するだけでなく、「湿度」で紹介したように作物表面を濡らす雨粒が発芽や付着器の形成、植物への侵入を許すことになります。

たとえば、炭疽病菌は粘性が高いため、後述する風だけでは分生子が飛散しません。雨を伴うことで炭疽病菌は飛散します。またイネ白葉枯病やカンキツかいよう病などは雨と風をもたらす台風によって発病が促進されます。

土壌病害のうち、ピシウム属菌などによる病気は、病原菌等を含んだ土壌が降雨によって流出することで、これまで被害がなかった畑に広がることがあります。

先でも少し触れたように、風もまた病原体を飛散させます。風は遠方に飛散させるだけでなく、病原体が植物に侵入しやすくなる原因でもあります。強い風によって葉が互いに擦れると茎葉に傷がつきます。傷口が生じると病原体が侵入しやすくなってしまいます。

雪は、積雪下で消耗したムギ類などが0℃以下でも生育する雪腐病菌の被害に遭います。また霜も植物の生育に悪影響を及ぼします。

土壌条件

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土壌伝染性の病害は土壌の温度や湿度、pHなどに大きく影響されます。たとえば、ピシウム属菌や疫病菌などは遊走子が土壌中の水分を遊泳するため、土壌水分が高いと発病が多くなります。

アブラナ科の根こぶ病は酸性土壌を好み、土壌のpHが5.7で激しく発病しますが、pH7.8では発病しません。一方、ジャガイモのそうか病は中性から弱アルカリ性のやや乾燥した土壌を好むため、pH5.2以下では発病しません。

肥料の多施用も病害を発生しやすくする要因の1つです。一般的に窒素肥料を多施用すると発病が助長される傾向があります。肥料を過剰に与えると植物は萎凋し、場合によっては枯れてしまいます。

なぜ枯れてしまうかというと、過剰な肥料が植物の根と土中の肥料の間の浸透圧に影響を及ぼすからです。土の中の濃い肥料を薄めるために根から水分が流出してしまい、根がしなびてしまうことで、萎凋、枯死につながってしまいます。

弱った植物は当然、病気への抵抗性も弱まることから、病害虫による被害が発生しやすくなります。

このような植物の病害発生につながる環境になっていないか、確認、改善することが大切です。

 

参考文献

  • 夏秋啓子『農学基礎シリーズ 植物病理学の基礎』(農文協、2021年)
  • 米山伸吾他『新版 仕組みを知って上手に防除 病気・害虫の出方と農薬選び』(農文協、2022年)
  • 一般社団法人 日本植物防疫協会『農薬概説2021』(日本植物防疫協会、2021年)

参照サイト

(2024年6月18日閲覧)

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