2020年1月7日の日本農業新聞にて「2020年の販売キーワード」が発表されました。日本農業新聞が行っている「農畜産物トレンド調査」は、スーパーや生協、卸売業者などの販売担当者計169社を対象に、野菜、果実、米、食肉、牛乳・乳製品、花きの6部門で実施されているアンケート調査です。
本記事では、どんな「2020年の販売キーワード」に着目すべきか考えていきます。
トレンドキーワードをヒントに今後を考える
「2020年の販売キーワードトップ10」は以下の通りです。
<農畜産物の販売キーワードトップ10(複数回答)>
- 物流
- 安定(価格・数量)
- 安全・安心
- 気象
- 東京五輪
- 簡単・時短
- おいしさ
- 健康(機能性)
- 輸出・インバウンド
- 値頃感(節約志向)
物流
「物流」は今年で13回目となる「農畜産物トレンド調査」に新たに加わったキーワードなのですが、回答率49%の最多キーワードとなりました。農業界に限らず、人手不足が深刻化している昨今。ドライバー不足やそれら要因に伴う物流費の上昇を課題視する声が上がっています。
生産物を消費者に供給するためには「物流」は必要不可欠です。しかし物流コストが上昇している以上、今後そのコストを生産地や実需で共有せざる得なくなることでしょう。「業界の垣根を越えた対応が必要」(花き卸)という声も上がっています。
人手不足を解決する手立てとして、自動運転やドローンなど技術開発や活用に期待が高まります。
また「地産地消」もより注目を集めるのではないでしょうか。
生産地から消費地までの距離が短くなると、輸送コストの削減につながるだけでなく、鮮度や地場農産物をアピールする商品力もつきます。また消費者との物理的距離だけでなく、心理的な距離も近づくと考えられ、地場農産物の消費拡大につながります。
「物流」はどちらかというとネガティブなキーワードではありますが、
- 業界の垣根を越えて課題解決に取り組む方法
- 「地産地消」によって生産地と消費地の距離を短くする方法
ともに2020年以降の農業の在り方に大きな影響を与えることでしょう。
安定、気象
「安定」は価格や数量を意味するキーワードとしてランクインしています。また近年、気象災害が多発していることもあり、農畜産物の共有に関わるキーワードとして「気象」もランクインしています。
猛暑や台風、集中豪雨や暖冬の影響などで、生産物の安定的な供給が難しくなりつつあるため、今後は気候変動に対応した新品種の開発が進むと考えられます。大手種苗メーカーからも、気候変動に強い品種が次々に開発、販売されています。栽培方法で対応するだけでなく、栽培品種を変えるという選択肢も用意しておくといいかもしれません。
また気候に左右されないメリットがある「植物工場」の進展も期待できます。経営面で黒字化の難しさが課題視される植物工場ですが、今後、気候変動によって安定供給が難しくなったとき、需要が高まるかもしれません。
東京五輪、輸出・インバウンド
2020年8月に開催の東京五輪・パラリンピックに関連するキーワードがランクインしています。「日本の食をアピールする好機会」と前向きな声が上がっています。
日本の食を積極的に輸出するためには、食品安全・環境保全・労働安全などへの取り組んでいる証明を求められることがあります。そこで重視されているのが
- GAP 農業生産工程管理
- HACCP 危害分析重要管理点
- トレーサビリティ 生産・流通履歴の追跡
などの実践です。これらの実践は、国内外への販路拡大につながるだけでなく、経営改善やリスク管理などにもつながります。ただし、2018年6月の時点では、グローバルGAPを取得した国内農家は632経営体、国内全体の農家の1%にも及ばないと言われています。
国外需要は東京五輪で盛り上がると考えられていますが、大事なのは東京五輪「後」でしょう。世界への販路拡大を目指すのであれば、GAP等の取得は外せません。
部門別売れ筋傾向をヒントに今後を考える
日本農業新聞に掲載されていた「部門別売れ筋傾向」から「果実」に着目しました。
果実 高級感と値頃感の二極化が進む。相次ぐ貿易協定により輸入品と競合が激化している。
2019年12月30日で TPP(環太平洋連携協定)の発効から1年となりました。関税の削減・撤廃により、食肉や果実などの輸入品の競争力が強まっています。中でも果実は関税の撤廃により価格が下がったため、消費者に受けています。
2020年4月以降、関税の削減率は3年目水準に下がります。今後も輸入量は増えていくはずです。「貿易の自由化」は生産者にとって大打撃かもしれませんが、消費者にとっては「手頃な価格で手に入ること」は魅力的に映ります。となると、価格競争で外国産と立ち向かうのは現実的ではありません。
消費者が求めたくなる生産物をつくるために、「付加価値を高める」などの対抗策が求められています。「価格」で選ぶ消費者には響かないこともあるかもしれませんが、消費者の購買基準は決して「価格」だけではありません。
今後の「生産」には、外国産にはない価値を生み出すことも求められていくのではないでしょうか。
参考文献