「地球温暖化」という環境問題を耳にしたことのない人はいないはずです。「地球温暖化」とは、大気中に含まれる二酸化炭素など「温室効果」をもたらす気体「温室効果ガス」によって、地球全体の気温が上昇する現象を指します。地球全体の気温が上昇すると、
- 氷河の融解などが原因で海面が上昇
- 気候変動が生じることで異常気象が頻発
など、自然生態系だけでなく、わたしたちの生活にも悪影響を及ぼす可能性があります。それはもちろん、農業においてもです。
そこで本記事では、日本における「地球温暖化」の現状と、地球温暖化対策、地球温暖化を逆手にとった農業の成功例などを紹介していきます。
日本の温暖化の現状
日本の温室効果ガス排出量の現状です。2017年度(平成29年度)の温室効果ガス排出量は、12億9,200万トンで、前年度(13億800万トン)と比べて1.2%減少する結果となりました。
なお、2013年度(14 億 1,000 万トン)と比較すると8.4%減少。2005年度(13 億 8,200 万トン)と比較すると6.5%減少しています。2013年度以降、5年連続で減少しているのが現状です。
2017年度からおよそ10年前、2006年の日本は、世界の人口から見て2%しか人口がないにも関わらず、世界で5番目に多い温室効果ガス排出国でした。
2013年度から5年連続で減少しているのは喜ばしいことではありますが、過去のデータを見ると、2007年〜2009年にかけて減少した温室効果ガスが、2009年〜2013年には再び増加しています。2017年以降の排出量が再び増加しないことを願うばかりです。
なお気象庁は、2018年の「世界と日本の年平均気温」について発表しています。世界の年平均気温偏差※は+0.30℃。これは統計を開始した1891年以降で4番目に高い数値と言われています。
一方、日本の年平均気温偏差は+0.68℃。これは統計を開始した1898年以降、6番目に高い数値です。1990年代以降、高温となる年が増えています。気象庁が示すグラフ(リンク貼る)を見ると、偏差の振り幅も大きいのですが、長期的に見ると、やはり変化傾向としては高温化が進んでいることがわかります。
※1981~2010年の30年平均値を基準値とし、年平均気温から基準値を差し引いた値を指す
温暖化が与える農作物への影響
野菜においては、
- 生育不良
- 結球不良
- 着色不良
- 着花・着果不良
- 収穫期の前進あるいは遅延
などが挙げられます。施設栽培されているなすやトマトは、夏場の高温によって生育不良、着色不良に陥ることがあります。いちごの場合には、花芽の分化が遅れるといった問題が発生します。
花きの場合は、
- 退色
- 奇形の発生
- 開花期の前進あるいは遅延
などが発生します。高温は花きの品質に多大な影響を与えてしまいます。
果樹の場合は、
- 着色不良
- 発芽不良
- 収穫期の前進あるいは遅延
が挙げられます。特に「生産地の北上」は、地球温暖化によって顕著に現れた問題です。
例えば、リンゴは年平均気温が6〜14℃の冷涼な地でよく育ちます。年間の降水量が少なく、昼夜に温度差のある地域が適しています。長野県は青森県に次ぐリンゴの生産地なのですが、地球温暖化の影響により冷涼な地域がなくなっていくと、長野県産のリンゴの生産は難しくなります。
またイネは、昼の温度が35℃、夜の温度が30℃を超えると「高温障害」が発生しやすいと言われていますが、近年の夏場は、地域によっては35℃を優に超えるところも。また高温は、イネの害虫であるカメムシが発生する原因でもあります。
考えられる温暖化対策
農業従事者ができる地球温暖化対策には、主に
- 農業機械の省エネ化
- 施設園芸の省エネ化
が挙げられます。農業機械や施設園芸で必要とするエネルギーを省力化することで「温室効果ガス」削減につながります。例えば施設園芸において、燃油に依存しない加温技術を取り入れることができれば、二酸化炭素等の排出を抑えることができます。太陽熱や地中熱など、まだあまり取り入れられていないエネルギー供給技術が開発されれば、燃油使用量はグンと減るはずです。
また地球温暖化対策に目を向けつつ、変化する気候に「適応」することも重要視されています。農研機構・農業環境変動研究センターの白戸康人統括監は、農業の基礎中の基礎「土づくり」に着目しています。堆肥や緑肥を投入により肥沃になった土壌で農産物を育てれば、生産性が高まり、気候変動も緩和できるのではと指摘します。
持続可能な手法に重きを置くことで、農家の活動にも無理のない方法で、地球温暖化を緩和できるのではないでしょうか。
温暖化を逆手に取った成功例
わたしたちの生活にも悪影響を及ぼす可能性もある「地球温暖化」ですが、良い側面もあります。
地球温暖化が進むことで、大気中の水蒸気量が増えます。それに伴って降水量の増加が考えられるのですが、農産物の成長には恩恵を与えると言えるのではないでしょうか。もちろん集中豪雨のように一気に降ってしまうと悪影響かもしれませんが、農作物にとって、豊富な雨は決して悪いものではないはずです。
また高温になることを逆手にとり、施設栽培において室内を高温に調整することで、今まで日本で育てられなかった熱帯地域の農産物を栽培できるかもしれません。
近年では、高温耐性をもった野菜や果樹の品種改良が行われています。愛媛県では、温州みかんが高温障害の被害にあったことを受けて、高温に強いブラッドオレンジ「タロッコ」の導入をはじめました。すると温暖化の影響によって冬に-3℃以下になる頻度が減ったため、寒害が少なくなり、「タロッコ」の完熟生産ができるようになりました。
埼玉県は高温耐性のコメを開発しています。「彩のきずな」は、平成15年に農業技術研究センターで交配が行われ、9年もの歳月をかけて育成された高温耐性種です。加えて、一般財団法人日本穀物検定協会が実施した「平成29年産米の食味ランキング」において、最高ランクの評価「特A」を獲得し、味にも高い評価があります。
参考文献