本記事では、2021年3月に農林水産省が発表した「農業DX構想」についてご紹介していきます。
DXとは
まずDXとは「デジタル‐トランスフォーメーション(digital transformation)」の略称で、意味は以下の通り。
IT(情報技術)が社会のあらゆる領域に浸透することによってもたらされる変革。2004年にスウェーデンのE=ストルターマンが提唱した概念で、ビジネス分野だけでなく、広く産業構造や社会基盤にまで影響が及ぶとされる。デジタル変革。DX。
出典元:小学館 デジタル大辞泉
よく耳にする「デジタル化」と「DX」は状態が異なります。「本」を例に、DXの具体例をご紹介します。本は従来、紙の書籍として販売されて来ました。それが文章や画像をデータ化した「電子書籍」が登場していますが、これが「デジタル化」です。DXは、このデジタル化によって生まれた新たなサービスや仕組みを指します。本でいえば、電子書籍を購入した人の購入データを分析して他の商品をおすすめする機能やサブスクリプションサービス※などがDXに当たります。
※サブスクリプション 1 商品の予約支払い。雑誌などの定期購読。2 ⇒定額制(出典元:小学館 デジタル大辞泉)
農業DX構想
日本の農業は、農業者の高齢化やそれに伴う後継者不足、労働力不足が進んでいます。
農林水産省が取りまとめた「農業DX構想」の目的には、デジタル技術を活用することで効率の高い農業経営を実現することが掲げられています。
また先で挙げた、本の購入履歴から分析するおすすめ機能のように、消費者のニーズを汲み取り、その需要に対応した農産物等を提供できるような農業の実現も掲げています。これが可能になれば、少人数でも効率よく大規模な生産が行えるようになること、多様な消費者ニーズに対応できることや高齢者・新規就農者による高品質・安定生産などが期待されています。
農業DX構想の現状
コロナ禍において、農業分野に限らず、国全体でデジタル化が遅れていることが明らかになりました。
デジタル技術の活用は進められていますが、まだまだ限定的です。例えば……
- 生産現場 スマート農業の現場実証は進んでいる
→実際にデータを活用した農業を行っている経営体は全体の2割弱
→関連記事:農業へのICT活用はまだまだ目新しい?!農業従事者のICT活用率は少ないのが現状。 - 農村地域
→インターネットを用いて、地域課題の解決を図る取り組みが行われている地域もあるが、限定的 - 流通・消費者
→農業分野では、物流の効率化にデジタル技術を活用する取り組みは限定的 - 行政事務
→現時点では、ほとんどの行政手続き(申請や審査など)が紙媒体・手作業で行われている
行政手続きに関しては、農林水産省共通申請サービス(eMAFF)がすでに立ち上げられています。これまで申請者は窓口に足を運ぶ必要があり、農林水産省の内部でも紙媒体・手作業、書面・押印・対面を前提とした業務が行われ、双方に負担がありましたが、eMAFFによって窓口が一本化され、申請者もオンライン上で申請が可能になり、負担の軽減が期待されます。
農業DX構想の課題と今後
スマート農業の推進やeMAFFが立ち上げられているとはいえ、先で紹介した通り、生産現場等では実証段階のものが多く、即座に導入が可能となる状態にはなっていません。また関連する分野の環境整備も必要になってきます。
例えば、センサーやドローン、スマート農業機械等の導入自体は、社会全体でインターネットやスマートフォンがある程度普及していることもあり、そこまで高いハードルにはならないはずです。しかしセンサーやスマート農機等の遠隔操作に必要となる通信環境の整備が整っていなければ、せっかく機器本体を導入したとしても、それを動かすのに必要な通信速度等が足りておらず、結果的に導入のハードルが高くなってしまいます。
他にも、上記機器等から得られるデータを分析して、栽培や経営の効率化に活かすソフトウェアやサービスもありますが、それらの情報は紙媒体で処理されることが依然として多い状況です。
農林水産省はこの構想の実現までの時間軸として、2030年を展望しています。上記のような課題を考えると、農業分野に限らず、あらゆる分野でデジタル技術の活用を進める必要が生じるはずです。デジタル化の加速化が期待されます。
最後に、「農業DX構想」が描くあ辛い未来について紹介します。
農林水産省が公開する「農業DX構想」のページには、参考資料として「食卓と農の風景2030」が掲載されています。冒頭にもありますが、農業DX構想が実現した場合の食や農の未来が小説風に書き下ろされています。DXが進むことでどのように便利になっていくのかが想像しやすいと思います。自身の農業経営に関係する、活かせそうなDXのイメージはないか、ぜひ読んでみてください。
参考文献