近年、世界各国で地球環境問題について注目が集まっています。地球環境を脅かすとされる「5大環境問題」には
- 地球温暖化
- 海洋汚染
- 水質汚染
- 大気汚染
- 森林破壊
が挙げられます。
この課題解決に向けて、農業や農村分野での貢献が求められているということを知っていますか?本記事では、農業と環境の関係について紹介していきます。
大気汚染が環境の質を低下させる
まずは環境問題による植物への影響についてご紹介します。
Current Agriculture Research Journalに掲載されているレビュー論文『Effect of Air Pollution on Chlorophyll Content of Leaves』では、大気汚染が植物に与える影響について報告されています。
まず結論から申し上げると、大気汚染度の高い場所で生育した植物の葉の光合成色素が、汚染されていない場所や汚染度の低い場所に比べて減少していたことがわかっています。光合成色素の濃度が低下すると、植物の生産性や種子の発芽、葉柄の長さなどに影響を与えます。
インドセンダン、マンゴー、キョウチクトウなどの樹木を用い、光合成色素であるクロロフィルa、クロロフィルb、カロテノイドをそれぞれ定量化して、汚染度合いの違う場所ではどのような変化が見られるか、実験が行われました。
用いられた樹木の葉のカロテノイド量には大きな変化はありませんでしたが、汚染度の高い場所、特に工業地帯に生育している樹木では総クロロフィル量、クロロフィルaおよびクロロフィルbの減少が見られました。
結論の一文には「産業による大気汚染や自動車の排気ガスが、環境の質を低下させる原因となっていることは明らかです」とまとめられています。
密接に関係している農業と環境
農林水産省の白書情報より『トピックス ~環境問題と食料・農業・農村~』にはこう記載されています。
食生活、効率性等を優先した一部の食品製造、流通、農業生産活動等が環境に負荷を与えている一方で、環境の変化が農業生産面にも影響を与えること
農業や農村、食料分野での生産活動と地球環境問題は、どちらか一方にだけ影響を与えているのではなく、相互に影響を与えるものです。環境負荷を与えるような農業生産の継続は、それによって生じた環境変化により農業生産が維持できなくなる可能性を高めることにつながります。近年よく耳にする「持続可能な農業」の目的は、このような点を配慮したものといえます。
水田稲作を中心とした日本の農業は本来持続可能な農業ですが、かつて、農産物の外観を重視する傾向や生産性向上に偏った農業生産活動により、化学肥料や化学農薬の多用や不適切な使用などが行われ、環境への悪影響が懸念される面がありました。近年において環境問題への取り組みの注目度が高まっているように感じられますが、実は1992(平成4)年以降から環境保全機能の向上に配慮した持続的な農業である「環境保全型農業」を定着させるための取り組みが行われています。その成果については以下のように記載されています。
環境保全型農業の取組の増加に伴い、特に、単位農地面積(10a)当たりの農薬出荷量は、平成20(2008)年には平成4(1992)年に比べ7割程度に減少しています。
農業がもたらす環境への影響
そもそも農業は環境に対してどのような影響をもたらしているのでしょうか。
「環境」に対してプラス面といえるのは「生物多様性の保全」と考えます。そのほか、農業生産活動のプラス面には
- 食料の供給
- 水源の涵養
- 国土の保全
- 良好な景観の形成
- 文化の継承
などが挙げられますが、これらは「環境」に対する影響というよりは、その地域に暮らす人々や国民の生活に対するプラス面といった印象です。とはいえ、水田や畑の土壌が水を吸収しやすいことで、雨水が時間をかけて下流に流されていくことは洪水の発生を防止や軽減につながりますし、水田などに利用される水や雨水の多くが地下に浸透することで、下流の地域ではその地下水を生活用水や工業用水に利用できるなど、生活に欠かせないメリットはたくさんあります。
ただし、物質循環※に貢献する農業のありかたを理解せず、生産活動の効率性や食生活等を優先して、環境に負荷を与える生産活動を行うと、環境に対して農業がマイナスに働きかけることになります。
※炭素,窒素やリンなどの元素や水などの物質の自然環境中での流れをさす。(引用元:ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典)
環境保全型農業の事例
平成25年6月11日に公表された、農林水産省の『平成24年度 食料・農業・農村白書』には「事例:多面的機能の発揮に向けた取組」と題し、環境保全型農業を実施した事例が紹介されています。
岩手県奥州市では、環境に配慮した排水路を整備を行なったところ、ドジョウやトウヨシノボリといった生物の個体数が増加しただけでなく、整備前に確認されなかった生物の種が確認されるなど「生物多様性の保全」が実現されています。
埼玉県西部の三富新田と長野県高山村では、落ち葉堆肥や村内の生ゴミや家畜ふん尿を利用した堆肥を活用し、資源の再利用を通じて循環型農業を実施しています。
環境保全型農業に取り組んでみたいと感じた方は、ぜひ一度農林水産省ホームページの「環境保全型農業関連情報」をチェックしてみてください。環境保全型農業に関連する施策情報やイベント・セミナー情報、また環境に配慮した営農活動を支援する「環境保全型農業直接支払交付金」についても記載されています。
参考文献