国として目指す農業の方向性を知るために。『食料・農業・農村白書』を読むススメ

国として目指す農業の方向性を知るために。『食料・農業・農村白書』を読むススメ

『食料・農業・農村白書』は年に一度公表される年次報告のことです。その情報量の多さについ読む手を遠ざけたくなるところですが、ここにはその年度に実施された施策と翌年度以降の方針が記されているので、農業の「今」と「未来」を理解するにはうってつけなんです!

 

 

『食料・農業・農村白書』とは何か

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まず農業白書とは

1961年に制定された農業基本法に基づく「農業の動向に関する年次報告」のこと。1999年,農業基本法に代わり食料・農業・農村基本法が成立したことに伴い,食料・農業・農村白書となった。農業白書は,農業の生産性動向など他産業との比較や,農業従事者の生活水準などに焦点をあてた「農業の動向」と,「政府が農業に関して講じた施策」の 2部構成となっており,農政審議会の審議を経て,国会に提出された。

出典元:ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典

を指します。

国会に提出されるものは全文約500ページ、概要でも約40ページとかなり分厚いですが、農林水産省では「はじめて食料・農業・農村白書をお読みになる方へ」が用意されています。

はじめて読む人は……

はじめて食料・農業・農村白書をお読みになる方へ」のページには、2021年現在、農業者、消費者、学生、ビジネスパーソンと対象者ごとに分けられたページが用意されています。「ターゲット向けページ」の先には小難しい文章が並んでいる……なんてことはなく、上記ページの概要文にもあるように“興味を持っていただけそうな項目”や“読んでいただきたい項目”の内容が簡潔にまとめられています。

例えば「農業者」のページでピックアップされている項目には

  • 農業のデジタル変革の取り組み。行政手続きを効率化する「オンライン申請」について
  • 農作業死亡事故者数半減を目指すための取り組み
  • GAP(Good Agricultural Practices:農業生産工程管理)認証の導入効果について
  • スマート農業機械の導入効果について
  • 農福連携について

が挙げられています。

上記で興味のある項目を見つけた方は、ぜひ農業者の方はこちらのページをご覧ください。

個人的には対象者として該当しないページも目を通すことをおすすめします。例えば消費者の方はこちらには、国内外で拡大する有機食品市場について、日本で生産された有機食品(お茶やしょうゆ、味噌など)の輸出が伸びているとあります。これは「販売」「流通」面の話題ではありますが、今後の「生産」のヒントになるかもしれません。市場が拡大しているから有機栽培に転換すべき、という話では決してありませんが、今盛り上がっている話題を知ることは、生産・販売を続ける上で重要なことなのではないでしょうか。

 

 

令和2年度の白書にはどんなことが書かれている?

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令和2年度の白書は、7つのトピックと新型コロナウイルスに関連する特集、そして食料の供給について、農業の発展について、農村の振興、災害に関する内容の全4章で構成されています。

令和2年度版で注目を集めているのは、

  • 農林水産物・食品の輸出
  • みどりの食料システム戦略
  • 農業・食関連産業でのデジタル変革の推進

です。

「トピックス1 農林水産物・食品の輸出の新たな戦略」について

日本政府の輸出額目標(2025年に2兆円、2030年までに5兆円)を達成するために、“海外で評価される日本の強みがあり、輸出拡大余地の大きい27品目”が設定されました。またそれら品目ごとに、海外の市場動向などをふまえた上で、ターゲット国や地域が特定され、輸出目標や販売手段などが明確化されました。

農作物(田畑にて栽培される植物全般)では、果樹や野菜、コメなどが挙げられています。果樹、野菜は甘くて美味しく、見た目が良い点が日本の強みとして挙げられており、コメは日本食の普及とともに輸出の拡大が可能ではないかと期待されています。

トピックス1 農林水産物・食品の輸出の新たな戦略

「トピックス2 みどりの食料システム戦略」について

「みどりの食料システム戦略」は持続可能な食料システムの実現を目指して策定されたものです。2050年までに目指す姿には“農林水産業のCO2ゼロエミッション化の実現”が掲げられています。

ゼロエミッションとは

1994年に国連大学が提唱した考え方で、あらゆる廃棄物を原材料などとして有効活用することにより、廃棄物を一切出さない資源循環型の社会システムをいう。狭義には、生産活動から出る廃棄物のうち最終処分(埋め立て処分)する量をゼロにすることを指す。

引用元:環境用語集:「ゼロエミッション」|EICネット

を意味します。

具体的な目標には“輸入原料や化石燃料を原料とした化学肥料の使用量を30%低減”があります。他にも化学肥料の使用量を50%低減や有機農業の面積割合を25%拡大などが挙げられており、脱炭素化・環境負荷低減への方向性が示されています。

トピックス2 みどりの食料システム戦略~食料・農林水産業の生産力向上と持続性の両立をイノベーションで実現~

「トピックス4 農業・食関連産業でのデジタル変革の推進」について

このトピックで紹介されているのは、現在、農業・食関連産業でどんなデジタル技術が活用されているか、デジタル変革がどう進められていくかについて記されています。

今後期待されるのは農村地域や流通・消費の場面でのデジタル変革です。現時点でも鳥獣被害対策などにデジタル技術が活用され、対策の効率化などが進みつつありますが、まだまだ限定であることは否めません。

白書に掲載されているデジタル変革の内容の中で、個人的に注目したのが「農林水産省共通申請サービス(eMAFF)」です。これは農業経営に関連する申請や補助金等の行政手続きを、農業者等が自身のスマートフォンやタブレット、パソコンからオンラインで手続きできるサービスです。eMAFFを活用すれば、窓口に足を運ぶ必要がなくなり、申請の負担を軽減することができます。

2020年4月から一部手続きでオンライン申請の受付を開始。2021年11月18日現在、eMAFFを利用登録者数は3,138人、現在公開されている手続き数(各制度と補助金・交付金の手続きを全て含んだ数)は984件となっています。

トピックス4 農業・食関連産業でのデジタル変革の推進

eMAFFのトップページはこちら → ポータル|農林水産省共通申請サービス

 

 

気になる内容だけ読みたい場合にはキーワード検索がおすすめ

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冒頭でも申し上げましたが、白書は全文で約500ページ、概要でも約40ページ。ホームページを見ると、各項目ごとにページ(PDFファイル)が分けられているものの、ページのタイトルから興味のある項目がどれか探すのは少し大変です。

そこで気になる内容だけ読みたい場合には、「令和2年度 食料・農業・農村白書(令和3年5月25日公表)」のトップページにある「キーワード検索」をクリックしてください。白書の内容をキーワードで検索できます。

「色々なことに興味がありすぎて、キーワードが浮かばない」なんて時には、検索ボックスの下に記載されている【よく検索されるキーワード】を活用してみましょう。「輸出」「GAP」「食品ロス」「SDGs」などが挙げられています。

 

参考文献

  1. 令和2年度 食料・農業・農村白書(令和3年5月25日公表):農林水産省
  2. はじめて食料・農業・農村白書をお読みになる方へ:農林水産省
  3. オンライン「eMAFF」で各種申請が可能に 4月から 農水省|ニュース|農政 JAcom 農業協同組合新聞

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