農業気象災害まとめ。風害や塩害など気象災害の種類と対策法について

農業気象災害まとめ。風害や塩害など気象災害の種類と対策法について

日本では毎年のように気象災害が発生しています。本記事では、農業への影響も大きい気象災害について、どのようなものがあるのか、またそれらの対策法についてまとめていきます。

 

 

農業気象災害の種類

農業気象災害まとめ。風害や塩害など気象災害の種類と対策法について|画像1

 

農林水産省が公開する「これまでの災害情報」には、以下の気象災害がまとめられています。

災害種類別被害状況
台風 / 大雨等 / 地震・津波 / 低温・降雪等 / 冷害 / 火山災害 / 林野火災発生情報/

引用元:これまでの災害情報:農林水産省

農林水産省作成の「昭和39年から令和元年までの主な災害と被害額の一覧」には、主な気象災害とそれらによる被害額がまとめられています。被害額が高額になっている年は、地震災害または火山災害が発生しています。地震災害と火山災害を除く以下の気象災害、

  • 台風・低気圧(台風による豪雨被害は台風に含まれる)
  • 豪雨・長雨
  • 冷害・低温
  • 突風・降雹
  • 干ばつ
  • 凍霜害
  • その他

に分類して被害額をまとめると、まず昭和39(1964)年から令和元(2019)年、56年間の被害総額はおよそ23兆3000億円であり、年平均ではおよそ4,160億円となっています。地震災害と火山災害を除く農業気象災害で、最も被害額が大きかったのは平成5(1993)年の北日本の冷害、西日本の豪雨によるもので1兆8,300億円にものぼります。その他、1兆円規模の災害には、

  • 昭和55(1980)年と昭和56(1981)年の北日本の冷害
  • 平成3(1991)年の台風17号・19号
  • 平成16(2004)年の台風(10個もの台風が上陸した年)

が挙げられます。

近年、「SDGs」などの取り組みを通じて、世界各国で環境問題への関心が高まっていますが、今後も異常な高気温・低気温、大雨や日照不足など、通常とは異なる気象(異常気象)の発生は予想されます。そのため、農業気象災害は高頻度で発生することでしょう。

 

 

農業気象災害への対策法まとめ

農業気象災害まとめ。風害や塩害など気象災害の種類と対策法について|画像2

 

本記事では、農業生産への影響が大きいものとして以下の災害を取り上げていきます。

  • 台風
  • 大雨
  • 低温・降雪等
  • 風害
  • 塩害

台風

温室・ハウス栽培の場合は、まず日常的に温室やハウスの基礎や鉄骨部分を確認し、必要があれば補修を行うことが大切です。日常の開閉で傷みやすい出入り口や強度低下につながる基礎(コンクリート)のひびや鉄骨(パイプ部分)のサビはこまめに確認しておきましょう。

事前対策には、被害が予想される場所の補強や除去等が挙げられます。

例えば大雨が予想される際には、露地栽培の場合は圃場周辺の排水性の確保、温室・ハウス栽培の場合は樋(とい・屋根の降雨を排水するために軒先に設けられた溝または管)の詰まりがないか確認し、清掃しておきます。樋の詰まりを放置してしまうと、大雨が降った際、樋からあふれた雨水がハウス内へ侵入してしまいます。

強風が予想される場合には、出入り口等の補強したり、天窓や換気扇を密閉して固定することで風が入り込むのを防ぎます。圃場周辺の資材が風で飛んでいかないよう、片付けたり、結束・固定等を行うことも、被害拡大を防ぐためには大切な作業です。

大雨

台風被害で予想される大雨と同様、露地栽培の場合も温室・ハウス栽培の場合も、排水性の確保が重要です。また収穫間近の葉菜類、果菜類がある場合には、早めに収穫しておきましょう。病害予防のための殺菌剤散布も、大雨被害の事前対策として挙げられています。

低温(夏期)

気温による害だけでなく、長雨や日照不足も伴うため、総合的に対策をとる必要があります。低温が予想される場合には、マルチやトンネルなどを利用して気温、地温を高める対策が挙げられます。長雨対策には圃場の排水性の確保が、日照不足等による生育遅延や生理障害、病害発生の対策には、追肥や殺菌剤の予防散布等が挙げられます。

夏期の低温が予想される場合には、事前に圃場への堆肥の投入や緑肥作物の作付けなど、有機物を圃場に供給する土作りに努めるのも大切です。

霜害・ひょう害

露地栽培の霜害対策では、あらかじめ被覆資材等を準備しておくことが重要です。なお、神奈川県ホームページが公開する「農業気象災害の技術対策」によると、作物に直接被覆資材が接する「直がけ」は逆効果となる恐れがある、とあります。支柱を設置して浮かせてかける「浮きがけ(浮かせがけ)」で対策しましょう。

ひょう害対策の場合も 「浮きがけ」が推奨されています。温室・ハウス栽培では、ハウス内の作物がひょうによる打撃を受けないよう、展張(耐久フィルムなどをハウス屋根面や側面に伸ばしながら展開していくこと)することが推奨されています。ただし、この作業は風の影響を受けやすいため、この作業ができる天候かどうかを確認する必要が生じます。余裕をもって準備する必要があります。

風害(潮風害)

事前対策には「強風を受けにくい環境づくり」が重要です。作付けを行う際は、強風を受けにくい圃場を選ぶ、防風垣や防風網を設置するなどが挙げられます。また作付け前に、防風垣や防風網を点検し、修繕すること、トンネル被覆資材が風でばたつかないよう固定バンドで締め直したり、すそを埋めたりするなどの作業も重要です。

潮風害の場合、水稲では出穂期や登熟初期に影響を受けやすいため、被害の回避・軽減の実用的な手段としては、栽培品種の多様化や栽培時期の移動等による出穂期や登熟期の分散が挙げられます。

山本晴彦『近年の農業気象災害の特徴と自然災害の動向』(農業および園芸92巻9号、2017年)に記載されている事例では、大区画水田に作期が異なる7品種を栽培し、田植機1台で4〜6月まで移植、8月下旬〜10月下旬までコンバイン1台で収穫することで繁忙期の作業を分散させつつも、多品種かつ作期が異なる栽培体系により気象災害のリスクを避けています(ただしこれらの方法は、作付け規模が広くないと現実的に難しいことも指摘されています)。

塩害

塩害は、海水の塩分を含んだ暴風により発生します。塩分を含んだ風に当てられた植物の葉や枝は枯れてしまいます。また塩分を含んだ雨水が土に浸透すると、土の塩分濃度が上がり、浸透圧の関係で植物は水分を吸収しにくくなります。

そのため事前対策としては、塩分を含んだ風や雨を植物に当てないことが重要です。風に当たらないところに移動する、防風垣や防風網を準備するなどの対応を行いましょう。

本記事の参考文献である神奈川県ホームページの「農業気象災害の技術対策」には、各種農業気象災害の技術対策マニュアルがまとめられています。また気象庁の「農業気象」には、営農活動に役立つ気象情報が公開されているのでチェックしてみてください。

日頃から気象情報を確認し、気象災害への備えをしっかりと行いましょう!

 

参考文献

  1. これまでの災害情報:農林水産省
  2. 近年の農業気象災害の特徴と自然災害の動向 – AgriKnowledge
  3. 農業気象災害の技術対策 – 神奈川県ホームページ
  4. シート展張って?|草刈機・刈払機なら農機具のアグリズ!
  5. 台風による植物の塩害対策とアフターケア – ウェザーニュース
  6. 気象庁|農業気象

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