農業者の高齢化や減少が課題視される中で、新規就農者の数は増えつつあります。農業法人が増え、自営業だけでなく雇用される形で就農する人が増えたのも一つの要因です。しかし新規就農者数が増加傾向にある一方で、就農後の離農率の高さが明らかとなってきました。
古いデータにはなりますが、農林水産省が2013年に出した「新規就農者調査」によると、新規就農者の3割が「生活が安定しない」などを理由に5年以内に離農していると言います。
全国新規就農相談センターの調査によると、新規就農を志す人たちの就農理由には「経営の指揮が取れるから」「やり方次第で儲かるから」といった前向きな言葉が挙げられたようですが、その一方で就農後の農業所得については「生計が成り立っていない」という回答が多く挙げられたり、「業務内容が合わない」「想定と違っていた」という理由で離農する人も少なくありません。
これから新規就農を考えるのであれば、理想と現実の大きなギャップに後々打ち砕かれないためにも、まずは「農業体験」をしてほしいものです。いきなり農業を始めるのではなく「体験」することで、農業に関する興味がよりいっそう膨らむか、農業経営の適性があるかどうかを知ることができます。
新規就農者に対する埼玉県の動き
本記事では、新規就農者に対する埼玉県のアプローチについていくつか紹介していきます。
就農相談窓口
埼玉県で就農を考えている人のための情報提供の場、相談窓口があります。相談窓口で相談する際には、あらかじめ相談内容をまとめておくとより適切なアドバイスを受け取ることができます。
休日就農相談
さいたま市内では、平日に仕事がある人が就農や移住に関する相談ができるよう「休日相談」が開催されています。予約制ではありますが、埼玉県で行う農業の概要や農業を学ぶことができる研修機関など、農業に関する基礎的な情報を提供してくれます。
ただしHPには“田舎暮らしや自給的ではなく、担い手として本格的に農業を始めませんか?”とあったので、担い手として本格的に農業を始めたいと考えている人向けかもしれません。
農業に興味を抱いたばかりの人は、後述するグリーン・ツーリズムなど、体験することを目的としたイベントから参加することをおすすめします。
就農支援セミナー
- 就農したい人
- 農業法人に就職したい人
に向けたセミナーも開催されています。埼玉県の就農に関するポイントを、県の職員や農林公社職員がセミナー形式で説明してくれるものです。希望者には「個別就農相談」もあります。
新・農業人フェア
埼玉県は東京で開催される「新・農業人フェア」という日本最大級の農業イベントに参加しています。
新・農業人フェアでは、全国の都道府県就農相談センターや農業法人等による合同説明会や相談会が開催されます。
- 農業法人就職ブース
- 農業研修生ブース
- 農業学校ブース
- ご当地農業相談ブース
など、さまざまなブースがあるので、埼玉県での就農を考えている人に限らず、就農を考え始めた人は一度足を運んでみてはいかがでしょうか。
移住情報サイトも要チェック
「埼玉ではじめる農ある暮らし」という移住情報サイトも覗いてみてください。「農ある暮らしをはじめよう」をテーマに、新規就農者だけでなく「6次産業に携わりたい人」や「プライベートとして農業を楽しみたい人」のための情報を提供しています。
まずは農業体験を〜埼玉県の事例〜
埼玉県農業大学校
農業や農業関連産業の担い手を養成している「埼玉県農業大学校」。生産技術を教えるだけでなく、加工、流通、販売、消費まで学ぶことができるのが特徴です。
課程は2年と1年があり、専攻もさまざまです。
<2年課程>
- 野菜学科
施設栽培専攻(アクリル温室等を利用した果菜類など)
露地栽培専攻(露地及びビニールハウスを利用した露地野菜など) - 水田複合学科
水田複合専攻(水稲、小麦、大豆の栽培技術、食品衛生管理など) - 花植木学科
花き専攻(施設を利用した鉢物・花壇苗類・切り花の栽培技術や経営など)
植木造園専攻(緑化に必要な植木の生産・管理技術、造園設計施工など) - 酪農学科
酪農専攻(酪農経営の全般について)
<1年課程>
- 短期農業学科 短期野菜専攻
野菜全般(露地・施設)の栽培技術、流通・販売方法、農業経営など
短期農業学科 有機農業専攻
有機農業の基礎であるたい肥づくりと農薬や化学肥料を用いない野菜栽培技術について
見沼田んぼ就農予備校
(公社)埼玉県農林公社が実施している就農予備校です。
- 入門
就農を考えているが農業研修の経験がない人向け - 初級
入門コースを終え、または農業研修を受講したことがある人向け - 中級
基礎的な農業技術はすでに獲得している人向け
と、研修生の技術レベルに応じたコースが用意されています。
グリーン・ツーリズム埼玉
「農業大学校や就農予備校に通う前に、まずは農業について触れてみたい」そんな人はグリーン・ツーリズムに参加するのがおすすめです。埼玉県が実施している「グリーン・ツーリズム埼玉」では、あらゆる形で農業に触れることができます。
HPの「目的から探す」→「体験する」を選ぶと、埼玉県で実施されているさまざまな体験イベントが表示されます。埼玉県内の地図とともに、どのような内容が体験できるかを知ることができます。
「埼玉県での就農に興味はあるけれど、農業知識も浅く、自信がない」という場合には、「埼玉ではじめる農ある暮らし」で農業に関する知識を集めたり、「グリーン・ツーリズム埼玉」で農業体験を始めてみましょう。
そのあと、本格的に農業に携わりたい気持ちが高まったら、「新・農業人フェア」や「就農支援セミナー」に参加して話を聞いてみたり、農業大学校や就農予備校への進学を考えることをおすすめします。
参考文献