“危険な産業”と呼ばれることもある農業。農作業中にはさまざまな事故のリスクが潜んでいます。農林水産省が取りまとめた平成30年1月1日から12月31日までの農作業死亡事故の資料によると、農作業による死亡者の数は274人。前年より30人減少しているとありますが、事故の区分や年齢階層別に見た事故の内容を見ると、危険に満ちた農作業の一面を知ることになります。
そこで本記事では、農業で起こる事故の事例をご紹介していきます。農作業を安全に行うための対策もあわせてご紹介していきますので、参考にしていただけると幸いです。
農作業中に起こる事故の例
平成30年の農作業事故死亡者数は274人。事故の区分は以下の通りです。
事故区分別では農業機械作業によるものが164人(59.9%)、農業用施設作業によるものが13人(4.7%)、機械・施設以外の作業によるものが97人(35.4%)となっています。
農業機械作業によるもの
事故の原因となった農業機械には、
- 乗用型トラクター
- 歩行型トラクター
- 農用運搬車
- 動力防除機
- 動力刈払機など
が挙げられていました。
最も多いのは乗用型トラクターで、機械の転落・転倒によるものが多く挙げられています。実際にあった事例には、田んぼ近くの坂道をトラクターで運転中、脇に外れてしまいトラクターごと転落、トラクターの下敷きとなり死亡するケースが挙げられています。
その他、歩行型トラクターでは機械に挟まれたり、回転部等に巻き込まれたことによる事故、農用運搬車では機械の転落・転倒が挙げられています。
農業用施設作業によるもの
最も多いのは、作業舎の屋根など、高いところからの墜落・転落事故です。
- 機械・施設以外の作業によるもの
最も多いのは熱中症で、その他には
- 稲わら焼却中等の火傷
- ほ道、道路からの転落
- 木などの高いところからの転落など
が挙げられています。
年齢階層別に事故を見ると…
死亡事故全体の86.5%(237人)は65歳以上の高齢者による事故によるものです。
農作業を安全に行うための対策
2020年5月のNHKニュースの記事には、事故発生の背景についてこう書かれていました。
農地に潜むさまざまな“ミスマッチ”が死亡事故を引き起こす可能性があることがわかってきました。平地が少ない日本では田畑の耕作面積をできるだけ広げてきた結果、幅の狭い農道やあぜ道が多くできました。そして生産効率を高めるために長年、進められたトラクターの大型化。いま農家の平均年齢は67歳と急速に高齢化が進んでいます。
事故の原因の大半は
- 機械や施設そのものの状態
- 圃場など作業環境
- 作業や管理方法
- ヒューマンエラーや年齢など、作業を行うその人自身
によるものです。
まず前提として、「過信しない」「ヒヤリ・ハット※事例を認知する」ことが大切です。
※危険な目に遭いそうになって、ひやりとしたり、はっとしたりすること。重大な事故に発展したかもしれない危険な出来事。(出典元:小学館 デジタル大辞泉)
農業機械・農業用施設作業への対策
最近の農業機械は、回転部等に巻き込まれたり挟まれたりする前に安全装置が作動するものが登場するなど、安全性は上がっています。とはいえ、機械の買い替えにはコストがかかるため、最新式ではない農業機械を使い続けている人も少なくありません。
安全性の高い機械への買い替えが難しい場合にできることは、「圃場などの作業環境」や「作業や管理方法」を整える、見直すことです。
例えば、トラクターなどの機械が旋回しやすいよう広めにスペースをとる、障害物となりそうなものにはポールを立てるなどあらかじめ目印をつけておくなど。
また当たり前のことではありますが、機械を運転する際にはシートベルトやヘルメットを着用する、高いところで作業する際は作業に適した衣服、靴を着用する、定期的に点検や整備を行い、安全性が確保できないものや古いものは積極的に買い換えることが大切です。
熱中症対策について
機械・施設以外の作業による死亡事故で最も多いのが熱中症。
- 日中の気温の高い時間帯は作業を行わない
- 作業前・作業中、こまめな水分補給、休憩をとる
- 単独作業を避ける
- 高温多湿の環境を避ける
ことが重要です。
特に高齢になると、気温の上昇やのどの渇きを感じにくくなるものです。気づかないうちに体調が悪くなることほど怖いものはありません。自分の身を守るため、気温の高い時間帯の作業を避け、無理をせず、意識的に水分補給、休息をとってください。
熱中症を予防するため、帽子や汗を吸う速乾性の衣服を着用する、クーラーや送風機などを活用することも大切ですよ!
参考文献