令和5(2023)年4月14日、農林水産省は新型コロナウイルス(以下、新型コロナ)感染拡大の影響による野菜、果物の需要の変化を把握するための調査結果を公表しました。
本記事では、2020年7月に公開したコラム記事「アフターコロナで農業はどう変わるのか。世界と日本の今後について」の内容と比較しながら、新型コロナの影響が3年の間にどんな変化を及ぼしたのか、アフターコロナの農業において考えられる変化について紹介していきます。
アンケート結果から見る今後のキーワード
家庭需要の伸びている品目等について産地への情報提供と、国産野菜・果物の消費拡大施策の検討のための基礎資料とすることを目的に実施されたこのアンケートは、消費者、小売業者、卸売・仲卸業者のそれぞれに向けて実施されました。
消費者向けの結果から見えること
全国の20歳以上の男女2,098名を対象にアンケートが実施されました。新型コロナの影響による野菜・果物を食べる頻度の変化については、いずれも「変わらない」が8割以上を占めていますが、「増加した」(「増加した」+「少し増加した」)の回答は野菜で16%、果物で14%となりました。
「増加した」と回答した人の摂取が増えた野菜として上位にあがったのは(複数回答)、ブロッコリー(47%)、トマト(45%)、キャベツ(39%)、しめじ・なめこ(36%)、豆類(35%)などで、調査結果資料には、普段よく食べている野菜に比べ、健康を意識した野菜があげられていることが記されています。
健康を意識した野菜があげられていることから「機能性表示」に、より注目が集まるのではないでしょうか。
機能性表示は食品の機能性(「おなかの調子を整える」や「脂肪の吸収を穏やかにする」など)を表示するもので、機能性表示食品制度は「国の定めるルールに基づき、事業者が食品の安全性と機能性に関する科学的根拠などの必要な事項を、販売前に消費者庁長官に届け出れば、機能性を表示することができる制度」です(出典元:機能性表示食品について|消費者庁)。野菜・果物における機能性表示食品は令和5年8月16日現在、156件あります。
消費者の健康志向にひもづく野菜の需要があることから、機能性表示の届け出を出すことで、作物の付加価値、売上の向上に期待が高まります。
一方、果物は普段よく食べている果物と同様の果物が上位を占める結果となっています。
関連記事:今さら聞けない「機能性表示食品」について。市場成長が期待される機能性表示食品とは
小売業者&卸売・仲卸業者向けの結果から見えること
小売業者向けアンケート結果より、新型コロナの影響が最も大きかったのは野菜・果物ともに消費者ニーズの変化とあります。野菜に関しては8事業者中8者が、果物に関しては8事業者中7者が、消費者ニーズの変化を感じたと回答しています。消費者ニーズの変化には、
- 健康志向から「国産商品」「オーガニック商品」の需要増加
- 節約志向から「バナナ」の需要増加
- 簡便化志向から「カットフルーツ」の需要増加
などがあげられています。
次に影響が大きいとしてあげられたのは販売方法の変化です。野菜・果物ともに8事業者中7者が販売方法が変化したと回答しています。新型コロナの影響で買い物頻度が減少したことで、ネットスーパーなどの利用が増えたことや、大容量パックの需要やまとめ買いが増えたことなどがあげられています。
新型コロナの拡大前と終息後に消費者ニーズが変化するかという問いについて「変化する」と回答したのは野菜・果物ともに8事業者中4者であり、国産商品やネットスーパーなどの利用といった需要は今後も続くと考えられています。
卸売・仲卸業者向けアンケート結果からも、同様の結果が得られています。
たとえば新型コロナの感染拡大に伴い、野菜・果物に関する実需者や消費者ニーズの変化を感じたかという問いに、野菜に関しては10事業者中9者が、果物に関しては10事業者中7者が「変化を感じた」と回答しています。野菜においては、新型コロナの影響で家庭での食事が増え、労力や時間の短縮として「カット野菜」「冷凍野菜」「惣菜・弁当」の需要増加が感じられたとあります。
また産地の供給内容の変化に関する問いで「変化した」と回答した事業者からは「輸入野菜の減少や価格高騰により、加工向け野菜の国内産の需要が伸びている」といった回答があげられています。
2020年7月に公開したコラム記事「アフターコロナで農業はどう変わるのか。世界と日本の今後について」にも、営業制限や営業自粛などの制約条件が、インターネット通販やクラウドファンディングなどの活用を加速させるのではと書きました。また輸入制限措置により輸入作物が減少することで、国産の価値が高まることが期待されるとも書いています。
農林水産省のアンケート結果から、2020年に推測された通りの出来事が起きていることがわかります。ただ、2022年からは新型コロナのみならず、2022年2月24日に始まったロシア連邦によるウクライナへの軍事侵攻も、輸入作物の減少や価格高騰に影響を及ぼしています。また国産への需要増加が見込まれるとはいえ、農業従事者の高齢化による後継者不足や労力不足の問題により供給の増加は加速しているとはいえません。
需要の変化のみならず、需要に対応できる生産現場の変化にも注目が集まります。
参考文献