漬物製造許可制について。許可制となった背景や課題点、必要な設備や申請方法について

漬物製造許可制について。許可制となった背景や課題点、必要な設備や申請方法について

2021年6月に施行された改正食品衛生法によって、漬物の製造が新たに「営業許可制」の対象となりました。それまで許可が不要だった漬物製造業者は、保健所から営業許可を取得することが義務付けられています。

2024年5月末までは経過措置として許可なしでも製造・販売が可能となっていましたが、同年6月1日から許可を持たない業者は製造・販売ができなくなりました。このことは、日本の伝統食である漬物業界に大きな影響を及ぼすとしてさまざまなメディアで話題にあがっています。

本記事では、漬物製造許可制が導入された背景や現状の課題、そして許可制になったことで用意する必要が生じた設備の概要や許可の申請方法について解説していきます。

 

 

許可制となった背景

漬物製造許可制について。許可制となった背景や課題点、必要な設備や申請方法について|画像1

 

漬物製造が許可制に移行した背景には、2012年に発生した集団食中毒事件が深く関係しています。

北海道の食品会社が製造した白菜の浅漬けが原因で、腸管出血性大腸菌O-157による中毒が発生し、約170人が被害を受け、8人が死亡するという痛ましい事故が起こりました。この事件をきっかけに、漬物製造に関する衛生基準の見直しが求められ、最終的に2018年に改正された食品衛生法で漬物製造が許可制の対象となりました。

なお、この食中毒事件では浅漬けが主な原因でした。すべての漬物が一括して許可制の対象となりましたが、浅漬けが非加熱殺菌である一方、ぬか漬けやみそ漬けは加熱殺菌が行われていますし、塩漬けやかす漬けは保存性が高いものです。

食中毒を引き起こしにくいとされる漬物も一括りに許可制の対象となったことに疑問が残る方もいるかもしれませんが、改正法が施行される前には、浅漬けと他の漬物の区別について有識者による議論が行われています。しかしながら、最終的にはこのように結論づけられました。

その後の厚労省の検討で、漬物は製造工程などを問わず、ひとくくりに営業許可制の対象となった。厚労省の担当者は「昔と違い、さまざまな漬物が出てきた。消費者の健康志向で、塩漬けでも減塩の商品も出てきた。浅漬けと他の区別を試みたが、明確な線引きが難しかった」と明かす。

引用元:「農家の漬物」もう食べられない? 生産者の心を折る「許可制」6月から 地域の食文化を守る道はないのか:東京新聞 TOKYO Web

また、改正された食品衛生法で漬物製造が許可制の対象となった際、それと同時にすべての食品関連事業者にHACCP(Hazard Analysis and Critical Control Point)に基づく衛生管理が義務化されました。HACCPとは、食品製造の各工程において危害要因を特定し、それを予防または除去するための管理システムです。

繰り返しになりますが、2018年の食品衛生法改正により、漬物の製造・販売には保健所からの営業許可が必要となりました。それまでは、地域ごとの条例に基づく届け出制が多く、製造・販売は比較的自由に行われていました。しかし、食中毒防止や消費者の健康を守るという目的から、漬物の製造は厳格に管理されるようになったのです。

 

 

課題点

漬物製造許可制について。許可制となった背景や課題点、必要な設備や申請方法について|画像2

 

食中毒防止や消費者の健康を守るという目的は、食品を製造・販売するうえでとても重要なことですが、許可制になったことで多くの課題が浮上しています。その一つが、小規模事業者や農家への影響です。特に、家族経営の農家や副業として漬物を製造する人々にとっては、大きな負担となっています。

加えて、先で紹介したHACCPに基づく衛生基準に対応するためには、製造施設の大規模な改修が求められ、多額の資金が必要となります。

実際、多くの漬物製造者がこれらの負担に耐えられず、廃業を決断している現状があります。後述する参考文献に記載したNHKのニュース東京新聞の記事で取り上げられているように、漬物を製造する農家の多くが廃業を余儀なくされることで、手作りの漬物が消滅する可能性が懸念されています。また、農家の高齢化も相まって、漬物製造業全体が縮小傾向にあります。

 

 

許可制に対応するには、どのような設備が必要か

漬物製造許可制について。許可制となった背景や課題点、必要な設備や申請方法について|画像3

 

漬物製造施設は厳しい衛生基準を満たす必要があります。たとえば、次のような設備が求められます。

専用の作業場の設置

漬物を製造するためには、台所など日常の生活空間とは分離された専用の作業場が必要です。この作業場は、汚染を防ぐために加工場と住宅を完全に区分することが求められています。

衛生的な水回り設備

指で触れないレバー式や自動式の蛇口が設置されていることが求められています。また、素材を洗浄するための専用シンクの導入、手洗い専用の場を設ける必要があります。

換気設備の設置

結露やカビの発生を防ぐために、換気設備が整備されている必要があります。これにより、作業場内の衛生環境を維持します。

なお、上記3つは求められる設備の一部に過ぎません。そして、これらの基準を満たすためには、これまで漬物を製造していた場所では不十分な場合が多く、改修が必要となります。この改修費用が、小規模事業者や農家にとっては大きなハードルとなります。100万円以上の費用がかかる場合も少なくないといわれています。

 

 

許可の申請方法

漬物製造許可制について。許可制となった背景や課題点、必要な設備や申請方法について|画像4

 

最後に、漬物製造許可を取得するために、一般的な許可申請の手順を記載します。

事前相談

保健所に、電話やメール、直接訪問などで事前相談を行います。保健所へは、製造場所の図面や製造商品の一覧を提出します。これは現在の製造場所が基準に適合しているかを確認するためです。

申請書類の提出

保健所へ必要な書類の提出と手数料を納付します。申請書類として、営業許可申請書、図面、本人確認書類、食品衛生責任者の資格証明書、申請手数料などを提出します。必要に応じて、水質検査結果などを提出することもあります。

製造場所の確認検査

先で提出した書類に不備がなければ、確認検査の日程調整が行われます。製造場所が完成していた場合には、書類を提出してから確認検査が行われます。書類提出から確認検査までにかかる期間は、保健所にてお問い合わせください。

確認検査では、保健所職員が実際に製造場所を訪問し、基準に合っているかを確認します。冷蔵庫の配置や手洗い場の給排水、トイレの設置などがチェックされます。

許可の発行

確認検査で不備がなければ、その日に営業許可が発行されます。許可証の受け取りは検査後から数週間程度かかるとされています。また、許可取得後は5年ごとに更新手続きが必要です。

 

 

漬物業界の今後に注目集まる

漬物製造許可制について。許可制となった背景や課題点、必要な設備や申請方法について|画像5

 

漬物製造許可制の導入は、日本の伝統食である「漬物」の製造・販売に大きな変化をもたらすものといえます。特に、小規模事業者や高齢の農家にとっては、設備投資や許可申請の手続きが大きな負担となり、廃業を決断するケースも少なくありません。一方で、消費者の安全を守るための衛生基準の強化は必要不可欠です。今後、漬物業界がどのようにこの新しい基準に対応していくのか、注目されるところです。

 

参照サイト

(2024年9月15日閲覧)

コラムカテゴリの最新記事