2023年の食のトレンド予測について
アメリカのグロサリー・ストアチェーン「ホールフーズ・マーケット」のトレンド協議会は、2023年に予想される食品トレンドのトップ10を発表しました。トレンド協議会は、アメリカの農業従事者、地域や世界で働くバイヤー、料理の専門家など、50人以上のチームメンバーによって構成されており、毎年発表されているトレンド予測は数十年にわたる商品調達の経験と専門知識、消費者の志向研究などに基づいてまとめ上げられたものです。
本記事では、野菜や果樹に着目し、今後注目を集めそうなキーワードを抜粋しています。
Yaupon(ヤポン、ヤポンノキ)
アメリカ南東部に自生するヒイラギ科の植物で、北米で唯一、カフェインを含む植物として知られています。アメリカ先住民はこの植物をハーブティーとして淹れ、儀式の際に飲んでいました。
「ブラックドリンク」と呼ばれていたヤポンは近年、アメリカ独自のお茶として復活しつつあります。
植物性パスタに使用される野菜
ひよこ豆のパスタやカリフラワーのニョッキ、「ズードル」と呼ばれるズッキーニを細長くスライスして作ったフェイク・パスタなど、野菜を使ったパスタが注目されています。野菜や果物の摂取量を増やすことができる植物性パスタは、ダイエットのための代用品を探している人やもっと野菜を取り入れたい人、単に新しい製品を試してみたい人のニーズに応える製品になると期待されています。
植物性パスタに使用される野菜として名が挙がっていたのが金糸瓜(そうめんかぼちゃ)、ハートオブパーム(ヤシの芯を意味する、ヤシの芽の内側の部分から摂れる野菜)、グリーンバナナ(黄色に熟す前の緑色をしたバナナ)です。
デーツ
デーツは「ナツメヤシ」の実で、 中近東諸国では代表的な果実として多くの人々に日常的に食べられている果物です。デーツはそのまま食べるだけでなく、ペーストやシロップにしたり、ケチャップに混ぜたりとさまざまな用途に用いることができます。
アボカドオイル
アボカドオイルは、アボカドの果肉から抽出された食用油です。生油としても調理用油としても使用されます。高いオレイン酸含有量と発煙点の高さが人気の理由といわれています。スナック菓子やマヨネーズ、調理済み食品などにおいて、キャノーラ油や紅花油などの他の油に代わって、アボカドオイルが定着していくのではないかと予測されています。
昆布
本記事でピックアップしているテーマ(野菜や果樹)からは外れますが、日本ではおなじみの海産物が2023年のトレンド予測に入っています。
気候変動の課題を抱える現代において、昆布はそのままの形で大気中の炭素を吸収できることから、昆布の養殖はこれまで以上に重要なものとなっています。昆布は添加栄養素を必要としない上、成長が早く、栄養価も高いのが魅力です。
ちなみに2022年のトレンド予測は?!
野菜や果樹に関する昨年のトレンドキーワードには、
- ゆず
- ハイビスカス
- ひまわりの種
- モリンガ
- ターメリック
が挙げられます。
ゆずは日本では馴染み深い果樹ですが、2022年トレンド予測の一文には「日本や韓国、中国で栽培されているあまり知られていない柑橘類」として紹介されています。料理界で活用されるようになり、食料品売り場の中でも外でも注目を集めるだろうと予測されていました。
ハイビスカスはハーブティーとして長く利用されてきましたが、その甘く酸っぱい風味と明るいピンクの色合いを活かした商品利用が注目されていました。
アグリテック分野の2023年トレンド予測
インドおよび世界の農業業界で起きている変革に焦点を当てたニュースポータルサイト「Agriculture Post」は「2023年の農業を形成するトップテクノロジー・トレンド」を公開しています。2023年により注目を集める、発展が期待されるトレンドキーワードを以下にまとめます。
アグリテックの発展を支える衛星データ
衛星データは、より広く、より効率的に、利用できるようになりました。衛星データがあれば、農家は気温や土壌温度、土壌養分、炭素排出量、水分量、現地の気象状況などさまざまな情報にアクセスでき、作物の栽培をより確実かつ効率的に行えるようになります。
また、カーボンニュートラルやカーボンクレジットの購入など、企業の環境・社会・ガバナンス(ESG)目標の追跡と達成、森林破壊や森林再生のレベル、水域の存在と質などの監視にも役立ちます。
拡大するクラウドコンピューティングの影響
クラウドコンピューティングとは、インターネットなどのネットワーク経由で、クラウドサービス事業者の提供するコンピューター機能を利用する仕組みのことを指します。
農業分野の多くの企業は、特定の事業分野における新機軸や知的財産の開発に注力するよりも、基本的な技術インフラの構築に多くの時間とリソースを費やしています。しかしクラウドコンピューティングによって、農業関連企業は膨大な量のデータや複数の技術的解決策を単一のプラットフォームで効率的に管理できるようになりました。
データのセキュリティとプライバシーに関する懸念が解消されつつある今、アグリテック企業による新しいアプリケーションと開発の中心は農業クラウドになると予測されています。
高速5Gネットワーク
5G技術の導入は、意思決定、生産プロセス、工場運営の改善により、多くの産業に革命をもたらしています。農業分野でも、低遅延、ネットワーク容量の増加、信頼性の高い高速データ転送により、この先進技術から大きな恩恵を受けています。5Gでは、接続された農場から画像、動画、3Dモデル、天候、地形情報などの大量のデータを迅速かつ容易に転送することができ、時間の節約や人工知能・機械学習のモデリング精度の向上が期待されます。例えば、接続された農場内の多数のカメラからのデータは、従来のネットワークでは何日もかかっていた作業をワンクリックで転送することができます。全体として、5Gは農家や企業にとって農業のデジタル化を加速させるのに役立つと予測されます。
アグリ・エコシステムの統合
農業のエコシステムは複雑で、種子メーカーや農業・食品加工会社、技術提供者、政府など、さまざまな関係者(以下、ステークホルダー)が含まれています。これらのステークホルダーは互いに独立して運営されていることが多く、新機軸の開発や協同活動が制限されることがあります。しかし、食糧不安、気候リスク、サプライチェーンの混乱といった問題に対処するために、農業分野においてもデジタル化の傾向が見られます。その結果、2023年にはステークホルダー間の協同活動が活発化することが予測されます。
日本のトレンド調査
農業専門紙「日本農業新聞」は、“業者の傾向を把握して消費実態に合わせた農業生産につなげる目的で”「農畜産物トレンド調査」を実施しています。2023年1月5日、「農畜産物トレンド調査」の2023年度版が公開されました。
なお、2022年度版は以下の通りです。
- 持続可能性
- 安全・安心
- ネット取引・宅配
- 安定(価格・数量)
- 健康(機能性)
- 地産地消・国産志向
- 新型コロナ対応
- 物流
- 簡便・時短
値頃感(節約志向)
2022年度農畜産物トレンド調査から知る注目キーワード。過去のトレンド調査結果と比べてみると…… | 農業メディア│Think and Grow ricci
そして、2023年度は以下の通りです。
1 | 適正価格(コスト転嫁) |
2 | 物流 |
3 | 持続可能性(環境配慮) |
4 | 安定供給 |
5 | 国産志向・地産地消 値頃感(節約志向) |
7 | ネット取引・宅配 |
8 | 安心・安全 |
9 | 簡便・時短 新型コロナの対応 |
1位となった「適正価格(値上げ・コスト転嫁)」は新たに加わったキーワードです。複数回答可能のキーワードの中で最多の65%を占めています。資材高による生産現場の現状を表すキーワードともいえます。
2位の「物流」は、前年は8位でした。2024年からトラックドライバーの労働製薬が強まることから上位にランクインしたのではないかと考えられます。
3位の「持続可能性(環境配慮)」は、前年のトップに続く上位入りを果たしました。社会への浸透が感じられますね。
参考文献