これからの農業。「100ha時代」とは何か。大規模農業に期待されるもの

これからの農業。「100ha時代」とは何か。大規模農業に期待されるもの

2020年5月13日(水)〜15日(金)にインテックス大阪にて開催予定だった『第4回 関西農業Week』(新型コロナウイルスの影響で来年2月に開催延期を決定)で、あるセミナーに「100ha時代」というキーワードが掲げられていました。

「100ha時代」とは、「100ha規模の経営を行う大規模な経営体が農業を行う時代」を指しているものと思われます。

農業者の高齢化により、農業の担い手の減少や後継者不足、耕作放棄地の増加などが、現代の日本の農業の問題として掲げられてきました。しかし近年、大規模農家や法人経営による農地集積が進展しつつあります。中小規模農家と大規模農家がともに存在する状況が続いていた日本の農業が変わりゆくタイミングなのかもしれません。

 

 

小規模農家の減少は、ピンチでもチャンスでもある?!

これからの農業。「100ha時代」とは何か。大規模農業に期待されるもの|画像1

 

新たな農業のビジネスモデルを経済・IT・農政の視点から掘り下げた書籍『2025年 日本の農業ビジネス』では、2015年には138万戸だった農家数が、10年後にはほぼ半分、15年後には3割にも満たない数にまで減少するのではないかと予測しています。

しかしその一方で、各農家1戸あたりの農産物販売額を

  • 1000万円未満 小規模
    (この中で300万円未満、300〜1000万円未満に区分している。なお300万円未満が85%を占める)
  • 1000万〜5000万円未満 中規模
  • 5000万円以上 大規模

に分類し、その規模別に予測を当てはめると、当初の予測通り、小規模農家は減少していくが、大規模農家・経営体が増えていくといいます(参考文献1 4〜6ページ)。

上記書籍で推測された年次をさかのぼることにはなりますが、実際に農林水産省がまとめたデータを見ると、20ha未満の経営体が耕作する面積と20ha以上の経営体が耕作する面積の推移から、農地集積の進展、農業の大規模化が進む様子がみてとれます。

単位:万ha

20ha未満の経営体が耕作する面積 20ha以上の経営体が耕作する面積
平成2年 398 65
平成12年 380 79
平成22年 368 119

 

『2025年 日本の農業ビジネス』では、大規模農家・経営体が増えることで、大規模農家の総販売額が全体に占めるシェアも増えるため、戸数、販売額ともに減少傾向にある小規模農家の損失分を、大規模農家・経営体が補えるのではないかと記されていました。

小規模農家が減少する分、大型農業・経営体が増加する、または一部の農家が大規模化するという未来は、従来の農業のあり方が変わる「チャンス」と捉えることができるかもしれません。

農林水産省の「都府県における大規模農家の動向と特徴」では、上記より慎重な見方をしています。経営耕地面積規模別の推定平均販売金額の動向が記されているのですが、ここでは大規模経営体のほうが平均販売金額の減少幅が大きくなっています。

推定平均販売額(万円)

2006年 2010年
15〜20ha 2457 2348(4.5%減)
20〜25ha 3240 2847(12.2%減)
25〜30ha 3541 3351(5.4%減)
30〜40ha 4339 3647(16%減)
40〜50ha 4970 4380(11.9%減)
50ha以上 5287 6007(13.6%増)

引用元:都府県における大規模農家の動向と特徴 農林水産省 38〜39ページ

 

そんな中「50ha以上」だけは推定平均販売額が増加しています。その要因には、農地の面積規模が大きくなるにしたがって、

  • 稲以外の作付面積の割合が高くなっていること
  • 農業生産関連事業への取組割合が上昇していること

が挙げられます。

経営規模拡大と農業生産関連事業への積極的な取り組みは、減少傾向にある販売金額を維持する対応策なのです。

 

 

大規模農業に期待されているもの

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『日本は世界5位の農業大国 大嘘だらけの食料自給率』の著者・浅川芳裕氏は、“少数精鋭の農家が日本人の食を支えている”と書いています。

面積30a以上、または農産物の年間販売金額が50万円以上の約200万戸の販売農家のうち、

  • 売上1000万円以上の農家は7%
  • 売上1億円以上の農場・農業法人は0.25%

しかいません。しかし彼らは、全農業生産額8兆円のうち6割と15%を産出しています

もちろん、中山間地域の多い日本において大規模化への課題は多々あります。また2019年12月23日に行われた農林水産省の食料・農業・農村政策審議会企画部会の会合では、大規模化の進展と同時に、小規模経営体や兼業農家等、多様な農業を後押しすべきという意見があがりました。

とはいえ、実際に大規模経営体は増加傾向にあり、高い生産額を示していますから、「100ha時代」が到来する可能性は高いと言えるのではないでしょうか。「100ha時代」というキーワードに、今後も注目です。

 

参考文献

  1. 21世紀政策研究所編, 『2025年 日本の農業ビジネス』, 2017年3月20日, 株式会社講談社
  2. (1)農業構造の変化 農林水産省
  3. 都府県における大規模農家の動向と特徴 農林水産省
  4. 浅川芳裕, 『日本は世界5位の農業大国 大嘘だらけの食料自給率』,2013年4月1日, 株式会社講談社
  5. 基本計画 多様な農業後押し 小規模を再評価 農水省が課題整理 日本農業新聞

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