近年、小さな農地で農業を行う人も少なくありませんが、トラクターなどの大型機械を導入して農作業を行う農家さんも多いことでしょう。
しかし大型機械を使った農作業中の事故で死亡する人の割合が年々増えていると言われています。高所作業など事故の危険性を伴う作業が多い建設業と「就業人口10万人当たりの死者数」を比較すると、なんと農作業事故の方が2倍を超えるとのこと! この原因のひとつには、日本の農業が抱える問題である「高齢化」も関わっていると言います。
というのも、死亡事故全体の81.4%を占めているのが「65歳以上の高齢者による事故」とのこと。
なぜ農作業事故は発生してしまうのでしょうか。本記事では、農作業事故が発生する原因と予防策について紹介していきます。
意外と多い農作業事故。死亡事故の事例も
農林水産省がまとめた「農作業死亡事故の発生件数」によると、平成28年に発生した農作業死亡事故は312件。「前年より26件減った」とありますが、それでも決して少ない数ではありません。この発生要因ですが、
・農業機械作業によるもの 217件
・農業用施設作業によるもの 14件
・農業機械・施設以外の作業によるもの 81件
となっており、農業機械作業によるものがほとんどです。
農業機械事故で、事故が発生しやすい農業機械を挙げると、
・トラクター
・農業用トラックなどの運搬車
・歩行型トラクター
となり、事故原因は主に
・機械の転倒など
・機械の挟まり・巻き込まれ事故
などが挙げられます。
なお農業用施設作業での事故原因としては「施設の高所作業中の転落」などが挙げられ、機械・施設以外の事故には「熱中症」や「ほ場からの転落等」が挙げられます。日頃から注意していれば事故を防げるかもしれない内容もあれば、近年の異常気象の影響による予期せぬタイミングで起こる事故も考えられます。
以下では農業機械を利用することで起こりうる事故の事例と、対策について紹介していきます。
<トラクターによる事故>
「修理点検中」や「機材の取り替え作業中」に起こることが多いと言われています。その原因には「作業時以外に、ブレーキの連結ロックをかけなかった」などが多く挙げられます。片側だけブレーキがかかっており、それが要因で転倒してしまうといった事故も発生しています。機械を動かすことに慣れてきた頃に発生するであろう内容がほとんどですから、十分すぎる確認・注意が重要だと言えます。
<耕運機による事故>
「バック運転時」に事故が発生することが多いと言われています。バック時には、後方確認が必須です。壁や木に激突する、足元にあるものに引っかかり転倒するなどの事故が発生しています。また後方確認を怠ったゆえ、崖から転落した事例もあると聞きます。こちらも、作業前の十分すぎる確認・注意が事故防止に重要だと言えます。
<草刈機による事故>
草刈機による事故は、その使用場所の環境によって生じる事故が多いと言います。傾斜面などで草刈機を使う際、その不安定な姿勢が原因でアキレス腱を断裂する、バランスを崩し傾斜面から転落するなどが報告されています。傾斜面など不安定な場所で作業する場合には、体を安定させられるようスパイクシューズなどを履く必要がありますし、作業場の環境を整えるのも大切です。また草刈りを行う現場に、回転する刃に巻き込まれると危険な「空き缶」「番線」などのゴミが放置されていないか、事前にチェックすることも重要です。
農作業事故が発生する原因
農作業事故が発生する原因ですが、単純に「これ」と言える原因はなく、実際にはさまざまな原因が組み合わさって事故が発生します。例えば機能性の高い農業機械を用意したとしても、重量や体積が大きすぎて高齢者には使いこなせない場合、事故の発生原因となってしまいことがあります。ですが、ここでは具体的な発生原因をいくつか紹介していきます。ただしそれ1つが原因なのではなく、使う人と機械のミスマッチ、使う場所と機械のミスマッチなど、複数の原因が重なって生じることを理解していただけると幸いです。
<環境要因>
草刈機で発生する事故の事例について先述しました。そこでは「傾斜地での作業でバランスを崩し、転倒」「不安定な状態で作業したことによるアキレス腱断裂」という事例を紹介したのですが、日本は耕作地の約6割が傾斜地と言われるほど、平坦な農地が少ないです。そのため、安定した姿勢を保って農作業ができる場所自体が少ないと言えます。事故を起こさないために、傾斜地に小階段を設けるなどして安定した姿勢を保てるように工夫している農地もありますが、環境も事故発生要因のひとつです。
<老朽化した機械を買い換えられない>
農業機械は研究・開発が行われ、毎年新しい機能が搭載された農業機械が数多く発表されています。とはいえ、農業機械は決して安い買い物ではありません。農業機械そのものに新たな安全装置が装備されても、その機械を購入することはそう簡単にできるものではないのです。そのため整備・点検を真面目に行っていても、金銭的な理由から大規模な整備、買い替えに踏み切れない場合もあるのです。
<過重労働>
理由はさまざまですが、例えば兼業農家の中には他の仕事に追われ、ゆとりある農作業ができず、そのため「過重労働」とも言える農作業を行う人もいるようです。「大雨など天候不順が近づいているにも関わらず、農作業を片付けようと無理に作業をしてしまう」、「手元が見えなくなる時間まで農作業を続けてしまう」などが挙げられます。しかしそれは農作業事故の原因のひとつとして挙げられます。心身に負荷の大きい環境下での農作業は、事故が発生しやすいので要注意です。
<高齢者による事故>
日本の農業が抱える課題のひとつが「農業従事者の高齢化」です。高齢者はどうしても
・体力低下
・危険予知の低下
・判断力の低下
・反応速度の低下
などが目立ちます。これらの能力低下は、事故発生の原因となります。高齢者でも活用できるような農業機械も発表されていますが、自分の体力低下を自覚していない高齢者と農業機械のミスマッチが起きれば、事故の起こりやすさもグンと上がってしまうのが現状です。
私たち農業従事者が、農作業事故を発生させない意識を高めるためには、すでに発生している事例を参考に「対策」を練ることでしょう。「自分は事故を起こさない」と過度な自信を持つことは危険です。常に起こりうる事態を想定し、予防に徹することが重要ですよ!