2020年4月27日の日本農業新聞より、新型コロナウイルスの影響で農業関係の技能実習生の来日の見通しが立たず、人材が確保できずにいる農家の存在が明らかになっています。
前々から言われてきていることですが、日本の農業は、農業従事者の高齢化や後継者不足などにより深刻な人手不足が課題となっています。外国からの技能実習生は、そんな人手不足な日本の農業を支えてくれる存在です。
しかし技能実習生に関する報道で目に止まるのは、彼らが置かれている劣悪な労働環境や人権侵害などの話題。農林水産省は外国人研修・技能実習制度について“開発途上国の「人づくり」に一層協力するため”と記していますが、彼らの労働力だけをいい様に扱う人たちの存在が、彼らを苦しめています。
そこで本記事では、技能実習制度を適切に活用するために知っておいてほしいことについてまとめます。
技能実習制度とは
厚生労働省の「外国人技能実習制度の現状、課題等について」という資料には、技能実習の目的は“技能移転を通じた開発途上国への国際協力”と書かれています。実習生が日本で技術や知識を学び、自国に戻った際、経済発展を支える人になれるよう協力することが本来の目的です。
実習生は受け入れ先となる企業や農協等で、最長1年間の研修を受けます。その後、研修成果の評価等の要件を満たすと、技能実習生として、研修期間と合わせて最長で5年間、日本に在留することができます。
技能実習生の数は平成29年6月末には251,721人おり、年々増加傾向にあります。技能実習制度の受け入れ職種は全部で77種あり、最も受入人数が多いのは機械・金属関係ですが、
- 機械・金属関係
- 建設関係
- 食品製造関係
に並んで多いのが、農業関係職種です。
技能実習制度の現状
技能実習制度は本来、日本の技術を途上国から来た実習生に与えるためのものです。しかしその目的を十分に理解せず、彼らを労働力として期待する人たちの中には、彼らを不当に扱う人もいます。
全産業の実習実施機関への監督指導状況(平成28年度)によれば、実習実施機関に5,672件の監督指導を行ったところ、労働基準関係法令違反が4,004件に認められたとあります。この違反は実習実施機関に認められたものであり、実習生だけでなく日本人労働者に係る違反も含むものではありますが、法令違反が7割を超えている、という現状が浮き彫りになりました。
農林水産省のHPには、2006年時点での研修生・実習生を受け入れる機関の不正行為認定機関数の推移、不正行為の内容が示されています。2006年の時点で、受入人数が増加する一方、不正行為認定件数も増加している、とありました。また認定された不正行為と平成28年度の全産業での違反事項、実習生からの申告事項には、労働時間や賃金の支払いに関する項目が共通しています。
認定された不正行為
1申請とは異なる機関での研修生等の受け入れ
2研修生の「所定時間外作業」(研修生に対し、禁止されている時間や休日に作業を行わせた場合)
3研修・技能実習計画との齟齬
4虚偽の申請書類・監査報告書等の提出
5労働関係法規違反(最低賃金法、労働基準法等の違反)
平成28年度実習実施機関に認められた違反事項
①労働時間
②使用する機械に対して講ずべき措置などの安全基準
③割増賃金の支払
技能実習生から労働基準監督機関への労働基準関係法令違反の是正を求めた申告事項
①賃金・割増賃金の不払
②約定賃金額が最低賃金額未満
③解雇手続の不備
農業者が求めているものの現状
ただ、冒頭でも述べたとおり、日本の農業は深刻な人手不足に陥っています。「技能実習生を受け入れることで、経営が成り立つ」場もあり、制度本来の目的と実際の状態がかけ離れていると指摘されても、彼らをいち労働者として活用せざる得ない現状があります。
平成29年11月から、それまで最長3年間だった研修・実習期間が、3年間の満了後に2年間延長可能となり、最長5年に拡張されました。しかしその拡大の背景には、生産現場からの「技術を覚えた頃に帰国してしまう」「技術が未熟な研修生の指導に時間がとられてしまう」などといった、制度本来の趣旨を理解できていないように思える声が目につきます。
今後の課題と忘れてはならないこと
もちろん、すべての実習実施機関がブラック企業化しているわけではありません。
しかし実習生に対する不正行為の問題は海外でも取り上げられており、アメリカの人身取引報告書では、日本の技能実習生に対する人権保護が十分ではないことが指摘されています。
実習実施機関の中には、制度の目的に沿って彼らを受け入れながらも、農作業に携わる人材として彼らを扱う、技能実習生とWIN-WINの関係にある農業経営者もいます。けれど、海外からも指摘されている技能実習生への人権的配慮がなされなければ、外国人材を確保する間口は今後狭まることでしょう。
また技能実習制度、外国人材を適切に活用するために重要なのが、労働生産性の向上です。労働生産性の低下は賃金の低下につながります。このことは賃金の不払いなどの不正行為につながるだけではありません。外国人材を求めているのは日本だけではありません。そのため、日本と他国の労働環境、賃金を比べたときに日本を選ぶメリットを感じなければ、実習生の数は減っていくことでしょう。
人手不足の現状から、安定した労働力の確保を求め、実習生を労働力として期待することもあるかと思います。ですが、技能実習制度の目的が「研修生・技能実習生が我が国で修得した農業技術を母国で活用できるようにすること」であることを忘れてはなりません。
参考文献