少子高齢化に伴い、日本では人手不足が深刻化しています。農業分野では、担い手の育成と確保のため、さまざまな新規就農対策(補助金や税制等の支援措置)や収益を増やすことを目的に「6次産業化」が推進されているものの、現状は芳しくないようです。
大規模な農業法人の登場により、農業生産の効率化も図られていますが、中山間地が多い日本では農地の集約化が難しいという課題もあります。
そんな中、日本農業新聞(2020年5月2日)の記事に
後継者がいない農家や商店、飲食店など、世襲ではなく第三者の移住者らにバトンタッチする仕組みを若者たちが提案し始めた。
引用元:日本農業新聞 -[新型コロナ] オンライン協議、合宿型スクール…若者が考案 心も一緒に第三者継承 地域と対話丁寧に
とありました。
そこで本記事では、人手不足や担い手不足などの課題解決に期待されるキーワード「継業」と、後継者を求める人と継業希望者をつなげる「場」について紹介していきます。
継業とは
継業とは農山村にすでにあるなりわいの経営基盤を引き継ぎつつ、移住者のヨソモノ視点で地域資源の再価値化と再活性化を目指すことである。
後継者がいないために事業をたたむ事例が多い中、その「なりわい」を身内や従業員ではなく、第三者が引き継ぐことを「継業」といいます。
継業は事業を引き継いでもらう前任者にも、引き継ぐ第三者にもメリットがあります。前任者は事業をたたむ必要がなくなり、引き継ぐ第三者はその事業の設備や顧客をそのまま引き継ぐことで、新規開業に伴う自己資金等の負担を減らすことができます。またその事業が残り続けることは、地域や地域の人々にとってもメリットといえます。
継業をつなげる「場」
日本農業新聞に取り上げられていたのは、事業承継プロジェクト「BIZIONARY」と「ニホン継業バンク」です。
「BIZIONARY」と「ニホン継業バンク」では、後継者がいない事業者と、継業希望者や事業に関心のある移住希望者をインターネット上でつないでいます。「ニホン継業バンク」のHPで「仕事で探す」にカーソルを合わせ「農林漁業」をクリックすると、農林漁業の後継者を求める事業者を調べることができます。
また「BIZIONARY」では、ただつなげるだけで終わらせるのではなく、現地で合宿型の勉強会を開き、事業者と継業希望者、そして地域の人々とともに、継業プランを話し合い、個人対個人ではなく地域全体で理解を深めていくのが特徴です。
「ニホン継業バンク」で農林漁業の後継者を求める事業者は、2020年7月8日の時点で3事業者でしたが、運営する浅井克俊氏は日本農業新聞でこうコメントしています。
「継業が進めば地域の景色が変わる。各地で空き家バンクがあるが、継業バンクも定着させたい」
引用元:日本農業新聞 – [新型コロナ] オンライン協議、合宿型スクール…若者が考案 心も一緒に第三者継承 地域と対話丁寧に
今後「継業」の考え方が普及すれば、継業希望者を求める農林漁業の事業者の数も増えていくのではないでしょうか。
各県でも独自の取り組みが…
また各県の移住定住ポータルサイトにも「継業」や「農林漁業」に関する情報が紹介されています。
和歌山県公式移住ポータルサイト「わかやまLIFE」では「しごとを探す」の項目から「継業」できる事業を探すことができます。2020年7月時点では「継業したい」と「農林水産業したい」は分かれており、「農林水産業したい」には農業研修等の問い合わせ先が掲載され、「継業したい」の内容に農林水産業に関する内容はありません。
熊本県移住定住ポータルサイト「KUMAMOTO LIFE」では「しごとのコト」をクリックすると、「創業・起業・継業」と「農業・林業・漁業」の項目があります。どちらも「ニホン継業バンク」のように、直接事業者とつながる形式にはなっていないものの、相談窓口などの情報が掲載されています。
人手不足による課題を解決するために、農地を集約し、大規模化することで生産効率をあげる、IoT・ICT技術等を活用することで省力化をはかるなど、さまざまな策が挙げられていますが、第三者による「継業」にも期待が高まります。
参考文献