農林水産省のデータによると、日本の農業従事者人口は減少し続けています。
しかし近年「新規就農者の数は増加傾向にある」ということをご存知でしたか?平成29年新規就農者調査によると、49歳以下の新規就農者の数は、4年連続で2万人を超えているとのことです。なお「新規自営業就農者」と「新規雇用就農者」のデータには、
【49歳以下、44歳以下、新規学卒就農者】の数が記載されています。平成29年度のデータと、その5年前、10年前のデータを比較してみましょう。
平成29年度 | 新規学卒就農者 | 44歳以下 | 49歳以下 | 計 |
新規自営業就農者 | 1520 | 8400 | 10090 | 41520 |
新規雇用就農者 | 1920 | 7180 | 7960 | 10520 |
平成24年度 | 新規学卒 | 39歳以下 | 40〜59歳 | 60歳以上 | 計 |
新規自営業 | 1330 | 8160 | 8720 | 28100 | 44980 |
新規雇用 | 1410 | 5330 | 2410 | 760 | 8490 |
平成19年度 | 新規学卒 | 39歳以下 | 40〜59歳 | 60歳以上 | 計 |
新規自営業 | 2250 | 9640 | 20050 | 34730 | 64420 |
新規雇用 | 1020 | 4140 | 2280 | 880 | 7290 |
新規学卒就農者数だけに着目すると、
・新規自営業就農者の場合、全体の3.4%(H19)→2.9%(H24)→3.6%(H29)
・新規雇用就農者の場合、全体の13.9%(H19)→16.6%(H24)→18%(H29)
と増加傾向にあるのがわかります。今、若者が農業を選ぶ理由について調べてみました。
若者が農業を選ぶ理由
<農業への参入しやすさ>
要因のひとつとして挙げられているのが、農業参入のしやすさです。今までの農業は、人の労働力がメインで行われてきました。そのため「長年の経験と勘」が農業経営を進めるうえで必要不可欠であり、そのハードルの高さから、若手は参入しにくかったはずです。
しかし現代では、農林水産省が推進している「スマート農業」の存在で、従来の農作業のような重労働からの解放や、作業内容、作物の生産管理の自動化が進んでいます。今まで「長年の経験と勘」で支えられてきた農業の技術や知識がデータ化されたことにより、農業に携わったことのない人たちも参入しやすくなりました。
<就職難や生活の変化>
就職や生活スタイルの変化も要因と言えるのではないでしょうか。昨今は「就学氷河期」と言われた時代に比べると、就職しやすい環境にあると思います。しかし、いざ会社に入社できたとしても、一度の離職によって、正社員として再び雇用されることや転職が困難という現状があります。
また「ブラック企業」などの表現にもある通り、低賃金で長時間の労働を強いられる・人間関係などが原因で、精神的に消耗させられる若者が増えている傾向にあります。そのような現状から、大量生産・大量消費が日常と化している都会の生活から、田舎に暮らし、必要十分な生活を送りたいと考える若者も増えていると聞きます。
<手厚い支援制度も後押し>
加えて、農業従事者の人口減を打破すべく、日本政府は新規就農者に対する手厚い支援制度を用意しています。今まで農業は、初期投資がかかる・はじめのうちは稼げないなど、就農に対してネガティブな考えが働いてしまうような難点が挙げられていました。
しかし各自治体で用意されている支援事業を活用することで、最低限の資金で就農できる機会ができました。給料が発生する研修制度や住まいの提供などを用意している自治体もあります。
農業の働き方にも変化が
例えば冒頭で紹介した新規就農者人口ですが、「新規雇用就農者」の数が増加していることに注目してください。就農は自営業だけではありません。雇用就農者の利点は、安定した収入や福利厚生制度なのではないでしょうか。一般企業並みの雇用条件や社会保険を整える求人も多く、従来の農業従事者の働き方は変化しつつあります。
それから世間では「副業解禁」が普及し始めていますよね。収入の全てを農業に特化するのではなく、「半農半X」と呼ばれる「半分農業で稼ぎ、半分他の職業で稼ぐ」生き方も広まりつつあります。
また「スマート農業」の存在により、「休暇」が取れるようになったことも大きな変化です。農業は生き物を相手にする生業ですから、今までは休みがないのが当たり前のように考えられていました。しかし「スマート農業」の技術の中でも、栽培環境をモニタリングし、そのデータをスマホなどの端末で確認できるクラウドサービスを活用すれば、遠隔地でも農作業を行うことができます。あるクラウドサービスを活用している農家さんからは「日帰りなら夫婦で旅行も楽しめる」という意見も挙げられています。「農作物が第一!」という生産者さんの場合には、自分から休暇をとろうとしない人もいるかもしれませんが、クラウドサービスがあることによって、想定外の出来事が起きても対応しやすいのはありがたいですよね。
若者が農家へ転身する際に注意すべきこと
ここまで、若者が農業を選びやすくなった理由について紹介してきましたが、最後に、農家を志す場合に注意すべきことを紹介します。
<初期費用のことは頭に入れておこう>
手厚い支援制度を利用すれば、初期費用の負担を軽くすることは可能ですが、それでも「農業を始める上でかかる費用」のことは頭に入れて起きましょう。どのような栽培方法で育てるかによっても、農地そのものや機材の価格は変わります。大規模な圃場を用意する場合には、大型農機も必要になるでしょう。トラクターなどの機器を揃える費用は約500万円~1200万円かかると言われています。設備を用意する栽培の場合には、各設備費に約800万円~1000万円ぐらいかかると考えられます。
もちろん近年では、農業機器のレンタルやリースサービスなども豊富に取り揃えられているようですが、農業を始める前に「農業を始めるにあたり考えられる収支」について算出する必要があります。
<技術を学ぶ姿勢を忘れずに>
「スマート農業」の普及により、農業経験がない人でも農業に参入しやすくなりました。だからといって、技術を一切学ぶことなく農業を始めるのは危ういのではないかと考えます。どんなにAIやロボット技術が発展したとしても、万が一病害虫などの被害や天候変化による被害を受けたとき、原因を理解できていなければ、また次も同じ過ちを犯す可能性があります。自治体で開催されている研修や勉強会などに参加し、技術を学ぶ姿勢は忘れないようにしてください。
<支援制度をチェックしておこう>
例えば「青年就農給付金制度」は、1年で150万円給付される制度です。給付期間は、研修期間2年と営農期間5年の合わせて7年間です。もちろん制度を利用するためには条件があります。支援制度を事前に確認し、活用できそうな制度を利用して、金銭的な負担を解消しましょう。