農林水産省『2020年農林業センサス』によると、個人経営体の基幹的農業従事者は年々減少しています。2010年にはその数は205.1万人でしたが、2015年には175.6万人、そして2020年には136.3 万人となっています。2025年の農林業センサスでは、さらに減少することが予想されます。
また年代別に見ると、70歳以上の占める割合が51.06%と半数を超えています。この先、70歳以上の基幹的農業従事者がリタイアすると、農業現場を支える人材が不足し、将来にわたる農業生産の継続が危ぶまれる事態が生じかねません。
若年層の新規就農者の定着を望むも……
日本政府は40代以下の農業従事者数を拡大することを目標としていますが、厳しい現実が続いています。政府が掲げる40代以下の農業従事者数の目標は40万人ですが、令和2年度時点で22.7万人です。また新規就農者数は平成27年をピークに減少傾向にあるうえ、農業法人で働く「雇用就農者」においては1/3が離農しているといわれています。
期待高まるアプリの活用
そんな中、パート・アルバイトとして農作業に従事する人の数は増加傾向にあります。
そこで注目を集めているのが、スマートフォンののアプリを活用した求人サイトの開設です。これまで農業で働くことに関心を抱く人への「入り口」は中長期の募集が中心となっており、ややクローズなものとなっていました。
しかしアプリを活用した求人サイトでは、繁忙期のみの短期的な募集も可能です。
また農業で働くことに関心がある人にとっては、現代において馴染みのあるスマートフォンのアプリを通じて応募できるという気軽さや、短期的に始められる点やアプリによっては作業内容を事前に共有できるという点から、農業者と応募者のミスマッチが生じにくいといった利点があります。
給与のネット決済を活用すれば、農業者は現金を用意する手間が省け、応募者はすぐに収入を得ることができる、といった利点もあります。
アプリの活用は、基幹的農業従事者数の増加につながるとは言い難いものかもしれません。ですが、スマートフォンやアプリといった、現代では欠かすことのできない技術を活用することで、労働力不足を補う人材確保につなげることはできます。
全農が提唱する「91農業」という取り組み
労働力不足を解消するために、JA全農は民間企業と提携して労働力支援を推進しています。そんな全農が労働力支援と併せて提唱しているのが「91農業」です。
91農業は、多様な人材が各々のライフスタイルに併せて農業に関わることを促すものです。たとえば、本業が休みの日に1日、副業として農業を行う「9本業1農業」や、子育てする中でパートとして農業に携わる「9育児1農業」、旅行の日程の1日を使って農業に携わる「9旅行1農業」などがあげられます。先述したアプリ活用による労働力確保も、91農業の形のひとつといえます。
これもまた基幹的農業従事者数の増加には直接つながらないと捉えられるかもしれません。しかし農業で働くことへのハードルを下げた「91農業」での農業参加をきっかけに、本格的に農業を始める人がいないとは言い切れません。
現代ではこのような農業への参加が、労働力不足解消への取り組みとして活用されています。
そのほかの取り組みとして
農林水産省が公開する「農業の労働力不足解消に向けた企業の取組を紹介」という資料では、労働力不足を解消する対策として、農業従事者によるYouTube配信やセミナーの開催といった認知活動が取り上げられています。
取り組み事例は「認知活動」以外にもあります。たとえば中国四国農政局による「柑橘類の物流におけるモーダルシフトの推進」という報告は、農業従事者の労働力不足ではなく、農産物を運ぶ物流業界の人材不足を解消する取り組みといえますが、人材不足と物流で発生する温室効果ガスの排出削減の課題を解決するために、トラック輸送から鉄道や船舶輸送へ転換する(モーダルシフト)ことで、物流の合理化を図っています。
合理化といえば、「スマート農業の導入」も労働力不足を解消する対策のひとつといえます。
少子高齢化に歯止めが効かず、今後も農業分野における労働力不足が懸念される昨今、革新的な解決策の登場に期待したいところです。
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参考文献