日本の農業は、長年にわたり多くの課題に直面していますが、特に深刻なのが「人手不足」です。農業従事者の高齢化が進み、就業人口は急激に減少しています。2005年には農業従事者は335万人でしたが、2020年には167万人にまで減少し、その平均年齢も63.2歳から66歳を超えるまでに高齢化しています。
高齢化の進行、そして農業の担い手不足が進む傾向は、農業経営の持続可能性に大きな影響を及ぼします。特に、収穫期に労力が不足することは農業経営にとって障害となります。
農業の人手不足は、単なる労働力の問題にとどまらず、農業の未来そのものに関わる重大な課題です。この問題に取り組むためには、農業の現場で新しい技術を活用するだけでなく、農業を取り巻く社会全体での支援が欠かせません。
就業人口減少の原因
この問題の背景には、地方における人口減少、高齢化や農業分野の労働条件などが影響してます。
地方での人口減少と高齢化は、農業就業人口の減少に大きな影響を与えています。特に過疎地域では、若者が都市部に流出し、現地で農業を続けるための労働力を確保することが困難になっています。また、高齢化が進んだ地域では、農業を続けることが体力的に難しく、世代交代が進まないことも課題です。これらの理由から、農業の後継者不足は深刻化しています。
加えて、労働条件の厳しさや農業ならではの不安定な仕事量も一因とされています。農業の多くの作業は季節的なものであるうえ、天候や季節に左右されます。春の植え付け時期や秋の収穫時期は忙しく、特に収穫時期には長時間労働となる場合もあります。一方で、冬などの閑散期には作業が少なくなります。
この仕事量の不安定さや、年間を通じて安定した収入を確保しにくいこと、また農業労働に従事する初心者や未経験者に対する賃金の低さなどの背景も、若い世代の農業就労意欲を減退させる要因と考えられています。
もちろん近年では、農業をビジネスとして捉え、創意工夫を凝らした取り組みを行う新規就農者も増えつつあります。しかし、農業ビジネスは製品開発やマーケティング、販売戦略など、多岐にわたるスキルが求められ、一人でこなすのが困難に感じられる場合もあります。
これらの課題に対処するために、農業に特化した支援や農業教育の強化、農業経営の専門家の育成などの対策が求められます。
人手不足解消のためにできること
日本の農業が直面する最大の課題の一つである「人手不足」を解消するため、労働条件の改善や外国人労働者の受け入れなど、多方面からのアプローチが求められています。
労働時間の短縮と合理化
若い世代の就業意欲が薄れる原因である労働時間の問題の解決には、ITツールなどの活用による作業の合理化、労働分担の明確化などが挙げられます。
スマート農業への期待感
ICT技術を駆使し、ドローンや自動運転トラクタを用いた作業の自動化やAIによる収穫予測は労働力不足を補うだけでなく、効率的で安定した農業生産を実現します。また、これらの技術を活用により、農業経営の「見える化」が進めば、データ分析に基づいた生産計画が立てやすくなるので、コスト削減にもつながります。
近年では、スマート農業技術を活用して農薬散布作業を代行したり、自動収穫ロボットそのものを販売するのではなくサービスとして提供する事業など、新しい農業支援サービスも広がっています。このようなサービスは人材不足に悩む生産現場のニーズに応えるだけでなく、スマート農機等の導入コストの低減にもつながると期待されています。
安定した収入が見込める契約形態の提供
賃金面での改善も必要です。最低賃金以上を確保するなど、賃金の適正化を図るだけでなく、就業規則に基づいた労働条件の設定や労働・社会保険等への加入など、安心できる雇用環境を整備することも重要です。
農地の集約化や大規模化
農地の集約化や大規模化も人手不足解消の一助となります。小規模農家では機械化のコストや労働力不足が問題となりますが、農地を集約し大規模化することで、大型機械の導入が可能になり、作業効率の向上とコスト削減が期待できます。
冬の仕事に関する対応
前述した通り、季節によって異なる仕事量は農業ならではの課題です。せっかく若い世代の雇用を考えていても、閑散期となる冬に仕事を提供できず、安定した収入を見込めないとなると、農業従事者や後継者を確保するのが難しくなります。
島根県が公開する資料では、冬の仕事がない場合の取り組みとして、農業法人による多角的な経営事例が紹介されています。たとえば、単に野菜づくりに励むだけでなく、産直販売やレストランでの販売活動を行ったり、農業以外の事業に取り組む事例、仕事に従事する「半農半X」方式を取り入れるなどの例があげられています。
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