日本の農業経営体は個人であっても団体であっても減少傾向にあります。
令和3年度の食料・農業・農村白書を見ると、日本の「基幹的農業従事者」(15歳以上の世帯員のうち、ふだん仕事として主に自営農業に従事している者)は、2005年は224万人いたところ、2010年には205万人、2015年には175万人、そして2020年は136万人と年々減少しています。
加えて、2020年の基幹的農業従事者数は65歳以上が全体の70%(95万人)を占める一方で、若年層(49歳以下)の割合は11%(15万人)となっています。
農業経営体の数も減少傾向にあります。2005年には200万経営体でしたが、2010年には167万、2015年には137万、2020年には108万となっています。
2020年の108万経営体のうち、約96%が個人経営体です。2015年より個人経営体について細分化され、主業経営体、準主業経営体、副業的経営体の3つに区分されています(以下、主業、準主業、副業)。
- 主業経営体
65歳未満の世帯員(年60日以上自営農業に従事)がいる農業所得が主の個人経営体 - 準主業経営体
65歳未満の世帯員(同上)がいる農外所得が主の個人経営体 - 副業的経営体
65歳未満の世帯員(同上)がいない個人経営体
経営体ごとの数を2015年と2020年で比較すると
2015年 | 2020年 | |
農業経営体全体の数 |
137 |
107 |
団体経営体 |
3.7 |
3.8 |
主業経営体 |
29 |
23 |
準主業経営体 |
25 |
14 |
副業的経営体 | 79 |
66 |
(単位:万)
数値だけで見ると少し分かりにくいので、全体の数に対する団体経営体、主業、準主業、副業の割合を%で表すと、
2015年 | 2020年 | |
団体経営体 |
3 |
4 |
主業経営体 |
21 |
21 |
準主業経営体 |
18 |
13 |
副業的経営体 | 58 |
62 |
(単位:%)
となります。農外所得が多い準主業経営体の数は減少傾向にありますが、副業的経営体が占める割合がやや増加しているのが分かります。
コロナ禍で新しい兼業農家が生まれた!?
株式会社アグリメディアのシンクタンク・アグリメディア研究所がサポート付き貸農園「シェア畑」の利用者を対象に行ったアンケート調査によると「リモートワークで本業を行い、空いた時間で農産物を直売所で販売し副業収入を得る」という働き方が生まれつつあります。
上記研究所は、「5年後、いかに農と関わっているか」という質問に対して「移住して、もっと本格的な農業をしている」「移住はしないが、もっと本格的な農業をしている」と回答した層を“趣味の域を超えた農業に関心を示す層”と定義。その層のリモートワークとの関連性を調べました。その結果についての記載を引用します。
リモートワークがゼロの人(736件)の場合、本格農業層はわずか6.9%に過ぎなかったが、リモートワークが週5回の人(=完全リモート、117件)の場合は14.6%に達した。リモートワークが週1~2回の人(147件)は9.6%、週3~4回の人(133件)は12.9%なので、リモートワークの回数と本格農業への関心度には相関関係があることがわかる。
なお、完全リモートを実施している人の職種の多くはIT系です。リモートワークが実施しやすい職種の人たちの間で「コロナ前より貸農園に通う回数が増えた」「農業のハードルが下がった」という声が挙がっています。
他の仕事で生計を立てながら、農業を生活に取り入れるライフスタイルは“半農半X”と呼ばれています。農林水産省は「農家」を“経営耕地面積が10a以上の農業を営む世帯又は農産物販売金額が年間15万円以上ある世帯”と定義していますが、今後、半農半Xと呼ばれる層の農との関わりが趣味の領域を越え、「農家」の領域に入る可能性が示唆されています。
ちなみに農林水産省の定義では「兼業農家」は“世帯員の中に兼業従事者が1人以上いる農家”を指します。基本的には「農家」のため、農業や農村との縁が強いのが半農半Xの人たちとの違いとして挙げられます。
とはいえ、定義づけられた「兼業農家」とは違い、農村との縁が薄い、またはない地域で生活基盤を築いてきた半農半Xの人たちが「農家」の領域に入るようになれば、「農家」の平均年齢を押し上げたり、その数を増やしたりする可能性に期待が高まります。
「兼業」の注意点といえば……
半農半Xなライフスタイルという意味での兼業農家に期待が高まりますが、兼業農家を営むには注意点もあります。
本業と農業をバランスよく両立するようにしましょう。
農家・農業求人サイト「あぐりナビ」が2017年に全国の男女81名(年齢不問)を対象に行ったアンケートによると、「兼業をしている場合、週の休みはどのくらいか?」という質問に対して、回答結果が
- 週2回 16名
- 週1回 32名
- 週0回 33名
となっています。
もちろん、休みの定義は人それぞれ。というのも、回答者のコメントを見てみると「農作物は生き物と同様に365日世話が必要になるため、休日はない」という人もいれば、「本業の休みに農業の時間を当てている」そのため、休みがないという人もいるからです。
「休まないと体がもたないので週1回の休みを取り入れている」「家族で農業を行っているため週1回は休みが取れる」といったコメントもありました。
しかし、いずれにしても本業と合わせて働く時間を設ける必要はあるでしょう。
実際に兼業農家として働いている人の記事が農業総合情報メディア「マイナビ農業」に掲載されていました。
農家は“専業一択”じゃない 最高に楽しい兼業農家という生き方|マイナビ農業
兼業農家、半農半Xに興味がある人は、“先輩”兼業農家に学んでみてはいかがでしょうか。
参考文献