農政の基本理念や政策の方向性を示す「食料・農業・農村基本法」は平成11(1999)年に制定されました。90年代の経済情勢と世界貿易機関(WTO)体制の下での自由貿易の進展等を背景に制定された「食料・農業・農村基本法」に基づき、現在の農業施策は実施されています。
現在、世界的な食料情勢や地球環境問題など、日本の農業を取り巻く情勢は変化しています。そのため、制定から約20年経過した「食料・農業・農村基本法」の見直しに向けた議論が行われています。
産経新聞が2023年4月27日に公開した記事では、農林水産省が農村政策について“現行法に規定された「都市と農村の交流」※を一歩進め、特定の農村地域のファンである「農的関係人口」による集落機能の補完を提起”、とあります。
※
第三十六条 国は、国民の農業及び農村に対する理解と関心を深めるとともに、健康的でゆとりのある生活に資するため、都市と農村との間の交流の促進、市民農園の整備の推進その他必要な施策を講ずるものとする。
2 国は、都市及びその周辺における農業について、消費地に近い特性を生かし、都市住民の需要に即した農業生産の振興を図るために必要な施策を講ずるものとする。
農的関係人口とは
まず「関係人口」とは、移住した「定住人口」でも、観光に来た「交流人口」でもない、地域と多様に関わる人々を指す言葉です。
関係人口といっても地域との関わり方はさまざまです。
あくまでも観光としてその地域を訪れる人は、比較的関係性が薄く、地域との関わり方は交流人口に近いものがありますが、特定の地域に年に数回訪れ、行きつけの宿や店などがある人たちは関係人口といえます。
ある特定の地域外の人で、その地域に継続的に関わる人を指すので、地域イベントに参加する人たちや地域と積極的に交流する人たちもまた関係人口です。関わり方によってはその地域の「ファン」と言い表すこともできます。
関係人口は大きく分けると4つに分類されます。
- 行き来する者
- 何らかの関わりがある者(過去の勤務や移住、滞在等)
- 地域内にルーツがある者(近居)
- 地域内にルーツがある者(遠居)
総務省による『関係人口』ポータルサイトでは、定住人口、交流人口、関係人口の違いを表した図が紹介されているので、ぜひ見てみてください。
そして農的関係人口は、農業や農村へ関わる関係人口を指します。
農的関係人口に期待されること
農林水産省は「食料・農業・農村基本法」の見直しの中で、「農的関係人口」の概念を打ち出し、消費の拡大やボランティアなどによる集落機能の補完などを進めることを話題にあげました。
農的関係人口がその地域に訪れることで期待されることには以下のことがあげられます。
- 観光業などを通じた、その地域での消費拡大
- 地域の祭りなどに参加してもらうことによる文化の継承
- 二地域居住や「半農業半X」といった働き方をする人が地域住民と共同で農業生産に関わる作業を行うことによる農業生産、農業インフラの保全・管理
また農的関係人口は、地域外の人たちとの交流それ自体がその地域の刺激となったり、外部の視点を取り入れることができたり、といった利点があります。農業生産においては、人手不足のカバーにもつながります。
地域が農的関係人口を増やすためには
農的関係人口を増やすためには、やはり地域の魅力を発信すること、つながりを継続させることが重要です。
農村関係人口の創出・拡大に向けた取組を行う福島県は、これまでの取組成果をまとめたパンフレットを作成しています。その中で印象的だったのが、地域住民にとって当たり前なことが地域外の人にとって魅力的なことがある、という1文です。
地域の魅力を発信する企画を作成する場合には、地域内の人にとって当たり前の景色や植物の存在が地域外の人に魅力的に映る可能性がある、という点もふまえて作成すると、思いもよらぬ成果が得られるかもしれません。
農的関係人口を増やすには、実際に足を運んでもらうことが一番ですが、オンラインでのつながりといった現代ならではの技術も積極的に活用していきたいところです。情報発信を行う際には、農的関係人口の人たちに向けたチラシやパンフレットといった印刷物の他、SNSを活用した情報発信もおすすめです。
参照サイト