雑草は、農業の厄介者のひとつと言えます。雑草には「農地で栽培される目的の作物以外の植物」「土地に真っ先に生えてくる植物」などと説明することができますが、近年、雑草に対する見方が変わりつつあります。
雑草が農地に与える影響とは
雑草は生育旺盛なため、農作物の生育を阻害することが多々あります。その一方で、古くから人の営みに関わってきた植物でもあります。例えば農地によく生えているドクダミやハコベは「薬草」として親しまれてきました。畜産のエサに利用されることもあります。
また、いち植物である雑草は他の植物同様、温度や光などの影響を受けて生育しますが、農地の管理状況にも影響されて育ちます。そのため雑草の種類や生え方で、
- そこがどのような土地、環境なのか
- そこでどのような農業が行われているのか
がわかるとも言われています。
「バロメーター」の役割も担う雑草ですが、農作物の生育を阻害する場合には、そのまま放置するわけにはいきません。農作物以上に土の養分や水分を吸ってしまったり、雑草が生い茂ることで農作物に日が当たらなくなったりするようだと、やはり雑草は「厄介者」になってしまいます。病原菌の温床になることもあるため、除草が必要になる場合も。
近年の雑草対策
近年の雑草対策は、生えてきた雑草を根こそぎ取り除くのではなく、雑草が生えにくい環境に整えることを重視しています。
定番の雑草対策
雑草が生えてくる理由には、
- 水分が豊富である
- 土壌のpHが低い
- 土壌に残留した窒素成分が多い
- 土壌中の微生物が少ない
など、さまざまな理由が挙げられます。
定番の雑草対策には「草むしり」や「除草剤」などが挙げられます。
草むしりは、雑草が繁殖していくのを防ぐために重要な作業です。雑草に花が咲けば、種ができ、また新たな雑草が生えてしまいます。生えた雑草は引っこ抜くのが最優先です(ただし後述しますが、近年では根から引っこ抜くのではなく、根を残して刈り取ることがおすすめされています)。除草剤は雑草だけを枯らせるものです。
ただ、「生えてしまったものを取り除く」こと以上に重要なのが「雑草の生えにくい環境にすること」です。
「生えにくくする」除草シート
植物が生長するのに必要な「太陽光」を遮断し、雑草を自然に生えなくするシートです。
雑草が生えてほしくないところにシートを敷くだけなので、コストもシート代くらいで済みます。人や土への影響が懸念される除草剤や、操作に慣れる必要がある草刈機に比べ、安全性が高く手間がかからないのも魅力のひとつです。
「環境を整えるために」雑草は根から抜かない!
雑草を取り除く際、根から引っこ抜くのが定番だったのではないでしょうか。
しかし根には「養分・水分を吸う」役割の他に、「土をやわらかくする」役割があります。根をぐんぐん張ることで、土を掘り進め、土をやわらかくしているのです。
雑草を根から抜くと、根がなくなったことで土が締まり、その固くなった土でも育つことのできる雑草が生え、それを繰り返すうちに草むしりが大変な作業になる・・・という悪循環が起こると言われています。
また、根が光合成によって出す糖分は土の中の微生物のエサとなります。植物が枯れれば、根自体が微生物のエサとなり、分解され、土の栄養になります。土の中に残っていた根が分解されると、そこだけ空洞のようになるため、土がフカフカになる要因にもなります。
雑草の根は、フカフカな土という物理的条件と、土壌中の生物多様性を整えるという生物的条件をもった農作物を育てやすい土を作り上げてくれるのです。
また土の状態が変われば、その状態の土を好む微生物や雑草が増えていきます。フカフカな土を好む雑草は背も低く、根の張りが浅いものが多いといいます。
雑草が新たなビジネスに!?
根こそぎ取り除くのではなく、生えにくい環境に整えていく雑草対策についてご紹介しました。最後にご紹介するのは、厄介者の雑草を新たなビジネスにしたアイデアについてです。
先に紹介したように、雑草の中には薬草や家畜のエサ、儀式などに使われているものもあります。人の営みに活用されていることを利用して、雑草を収益品目にしてしまった事例があります。
一般社団法人・一志パラサポート協会は、ハウスイチジク栽培の厄介者と化していた雑草のスギナが「漢方」として使われていることに着目。スギナを乾燥させ、玄米と混合したお茶に加工し、「スギナ玄米茶」として販売しています。
農業環境のバロメーターになるだけでなく、収益品目にもなってしまう雑草。雑草に頭を抱えている人は、視点を変えてみるのもいいかもしれません。
参考文献