雑草抑制の味方・イトミミズの生態とその効果

雑草抑制の味方・イトミミズの生態とその効果

水稲栽培において、雑草は稲の生育を妨げ、収量や品質に悪影響を及ぼすことがあります。主な雑草対策として農薬や機械による除草があげられますが、近年、有機栽培や環境保全型農業の広がりとともに、農薬を使用しない雑草抑制方法が注目されています。

そこで本記事では、雑草抑制において重要な役割を果たす存在として注目を集める「イトミミズ」について、その生態と雑草抑制への効果、そしてその効果を最大限に引き出すための土壌管理方法を紹介していきます。

 

 

イトミミズとは

雑草抑制の味方・イトミミズの生態とその効果|画像1

 

イトミミズは、主に水田に生息する水生ミミズの一種です。国内においては、エラミミズやユリミミズなど、5種類程度が確認されています。体長は10cmほどになるものもあり、直径は1mm程度。体色は淡紅色から濃紅色までさまざまです。

水田の表面(田面)で観察すると、イトミミズが頭を土の中に入れ、尾部を水中に突き出して活発に動いている様子を目にすることができます。イトミミズの動きは非常に俊敏で、手でつまもうとしても素早く土壌中に潜り込んでしまうため、捕獲して観察する際には土壌ごとすくい取ることがおすすめです。

 

 

イトミミズがもたらす効果

雑草抑制の味方・イトミミズの生態とその効果|画像2

(出典元:イトミミズ|zivo

 

イトミミズは、微生物や有機物を含む泥を摂取し、不要なものを糞として排出します。イトミミズが頭を土の中に入れて泥を摂取することで、下層の土壌は表層に移ることとなり、土壌や底泥が物理的に撹拌されます。また、イトミミズの口よりも小さな粒子のみが食べられ、糞として排出されることから、表層は粒径が小さく、有機物含量の高い土壌が堆積することになります。

これにより、雑草抑制において次のような重要な役割を果たします。

トロトロ層の形成

イトミミズの摂食と排泄活動により、水田表面に「トロトロ層」と呼ばれる泥の層が形成されます。この層は、イトミミズの体を通過した微粒子が堆積することで生成されます。このトロトロ層には、水稲栽培の主な雑草の種子が含まれないことが知られています。トロトロ層が厚く形成されることで、雑草種子がさらに発芽しにくくなるため、有機栽培の圃場で特に有効です。イトミミズが形成するトロトロ層には機械除草の効果を高める役割もあります。

雑草種子の埋没

また、雑草の種子は水田で一定以上の深さの土中にあると発芽できません。イトミミズの摂食と排泄には、下層の土を表面に運び上げる働きがあります。これにより雑草の種子が深さ数cm以上に埋没することで、雑草の発芽が抑えられます。

生態系の改善

イトミミズによって田んぼの土壌が撹拌されると養分が均等に分布します。これにより、土壌中の窒素やリンが溶け出し、表面水に供給されます。この養分は植物プランクトンの栄養源となり、ドジョウやカエルなどの生息環境を向上させるため、田んぼ全体の生態系が豊かになります。

 

 

イトミミズが豊富になる土壌条件

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イトミミズが十分に生息し、その効果を最大限に発揮するには、特定の土壌条件を整えることが必要です。

まず、イトミミズは水分の多い環境を好むため、水田の湛水管理が重要です。特に冬期湛水は、イトミミズの生息密度を高める効果があり、宮城県の調査では慣行水田の約7倍の密度が確認されています。

また、イトミミズは有機物を餌とすることから、堆肥や米ぬかなどの有機物を施用することがイトミミズの密度を増加させるうえで効果的です。有機物が多ければ、イトミミズの活動は活発化し、土壌の撹拌量の増加につながります。

化学肥料や農薬の使用は控えることが推奨されますが、参照サイトの結果より、イトミミズ類の密度に一部の農薬が負の影響を与えるとはいえ、化学肥料や農薬が与える影響は小さいともいわれています。なお、化学肥料の窒素成分はイトミミズの増殖に正の効果を与えるとされていますが、適切な量を使用することが重要です。

 

 

まとめ

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農業の現場で持続可能な栽培方法が求められる中、イトミミズの活用はその一助となる可能性があります。イトミミズは水田の雑草抑制にとどまらず、土壌改良や生態系の向上にも寄与する頼もしい存在です。特に有機栽培においては、農薬や除草剤に代わる自然の力として注目されています。

その効果を最大限に発揮するためには、湛水管理や有機物の施用など、イトミミズが生息しやすい環境を整えることが欠かせません。

 

参照サイト

(2024年11月15日閲覧)

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