農業に影響を及ぼす外来雑草の生態と被害、その対策について

農業に影響を及ぼす外来雑草の生態と被害、その対策について

近年、日本の農業や自然環境に重大な影響を与える外来雑草が増加しています。

日本農業新聞では、再生力の強い「ナガエツルノゲイトウ」の分布が広がっていること、外来雑草の定着や薬剤抵抗性を獲得していることについて、いくつかの記事で触れられています。

[論説]発見相次ぐ「新顔雑草」 侵入防止へ具体策急げ
[ニュースあぐり][vs雑草]“繁殖力最悪”どう防ぐ? ナガエツルノゲイトウ
[vs雑草]外来雑草定着、薬剤抵抗発達も 水田畦畔で全国調査

外来雑草は、輸入飼料や堆肥を通じて侵入し、全国の畑や河川敷などで分布を拡大しているケースが多いです。外来雑草が農地に侵入すると農作物の生産性に深刻なダメージを与えます。

本記事では、外来雑草の中で農業や生態系に影響を及ぼすものとして代表的な外来雑草として、ナガエツルノゲイトウ、アレチウリ、イチビ、ワルナスビを取り上げます。

 

 

代表的な外来雑草

農業に影響を及ぼす外来雑草の生態と被害、その対策について|画像1
農業に影響を及ぼす外来雑草の生態と被害、その対策について|画像1

 

ナガエツルノゲイトウ

ナガエツルノゲイトウは南米原産で、日本では特定外来生物に指定されています。日本では1989年に兵庫県尼崎市で初めて確認されました。現在では、東京や大阪、沖縄など全国25都府県で繁殖が確認されています。

この植物は草丈が1メートルほどの高さにまで成長し、茎は中空で折れやすい特徴があります。この折れた茎片が水路などの流れを通じて移動し、流れ着いた先で新たな繁殖地を形成することから除去が困難とされています。繁殖範囲を広げられるだけでなく、乾燥や塩分、寒冷地にも適応できる植物であり、「最強の雑草」とも言われます。

ナガエツルノゲイトウは稲作に大きな影響を与えることが懸念されています。繁殖力が高いナガエツルノゲイトウが水田や畑に広がると、稲を圧倒し、収穫量の低下を引き起こす可能性があります。

防除法

先述したとおり、高い繁殖力を持ち、根や茎の断片からも再生するため、一度侵入を許すと完全に駆除するのが極めて難しいです。そのため、発見時には根からしっかり掘り起こすことが重要です。また兵庫県淡路島の事例によると、光を100%遮る遮光シートを使って光合成を防ぐことが有効とされています。

ただ、根や茎のちょっとした断片からでも再生するような強い雑草なので、油断は禁物です。全国的に被害が広がっていくのを避けるためにも、見つけ次第、根から掘り起こし、できる限りちょっとした断片も残さないようにする、光を遮って生長させないようにすることが防除のコツといえそうです。

アレチウリ

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アレチウリは、飼料用トウモロコシ畑や大豆畑、河川敷に広く分布するつる性の一年草です。この植物は春から秋にかけて次々に発芽し、急速に成長します。成長すると1本のつるは5〜8mにも達します。この長いつるが他の作物に絡みつき、他の作物の生長を妨げる原因となります。特に、飼料用トウモロコシ畑では、アレチウリのまん延により圃場の作物がすべて薙ぎ倒されるほどの被害をもたらします。

アレチウリは短日性で、8月中旬以降に開花しますが、それまでに繁殖を食い止めないと一気に広がってしまいます。しかし除草剤の使用や機械による防除は効果が限られており、一度侵入を許すと手で除草を行う方法以外では駆除が難しくなります。

防除法

そのため、アレチウリは種ができる前に抜き取ることが最も効果的とされています。種がつく前に根元から抜き取ります。ツルが小さいうちにこまめに抜き取ってください。

除草を行う際、種がこぼれてしまうと繁殖を許すことになるので、種のついたものを取り除く際には袋に入れるなどの方法をとって、繁殖を防ぎます。なお、アレチウリは特定外来生物に指定されています。発芽可能な種子を含む生きた植物体を他の場所に運ぶことは規制されているので、根から抜き取ったものは最終的には可燃ごみとして処分してください。

また、作物の生育を良好にすることも、アレチウリの光合成を抑制して出芽を抑えることにつながるので、作物が健全に生育できるよう栽培管理を心がけることも重要です。そのほか土壌処理型除草剤やベンタゾン液剤の使用も有効です。

イチビ

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イチビはインドや中国を原産とする一年草で、飼料用トウモロコシ畑や畑地など広範囲に発生しています。草丈は1〜4メートルに達し、黄色や橙色の花を咲かせます。イチビには繊維植物として利用されるものと雑草として問題となるものが存在します。

イチビは飼料作物等と競合します。トウモロコシ圃場においては、競合によるトウモロコシの栄養価への影響はほとんどないとされていますが、競合により土壌中の養水分が不足すると減収につながります。また、イチビは成長すると茎が木質化し、非常に硬くなるため、収穫作業の妨げとなります。

そのほか、家畜の飼料に混入すると、イチビの特有のにおいから嗜好性が低下し、飼料としての品質が低下します。

防除法

耕種的防除法として、飼料作物(トウモロコシなど)の適正な栽培管理を行い、適度な密度を保つことでイチビの成長を抑制したり、牧草畑や水田との転換を行うことで発生を抑制する方法があげられます。

もちろん、早期の除草も重要で、土壌処理型除草剤や茎葉処理剤が有効です。特に茎葉処理剤は、作業量が増加したり、飼料作物の踏圧害などの問題はありますが、最良といえます。茎葉処理剤はアクチノール乳剤とバサグラン液剤が有効とされています。『トウモロコシ強害雑草・ イチビの生態と防除』によると、薬剤散布に最適な時期は以下の通りです。

最も生育の進んだイチビが本葉4〜5枚になったときは既に95%以上の個体が出芽しており、この時期に処理すればイチビの密度を大幅に低下させることができる。

引用元:トウモロコシ強害雑草・ イチビの生態と防除

ワルナスビ

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ワルナスビは北アメリカ原産の多年草です。日本では明治初期に千葉県で侵入が確認され、現在では全国に分布しています。古くから道端や空き地などの雑草として知られていましたが、近年では飼料用トウモロコシ畑などでも見られるようになりました。

茎や葉に長く鋭いトゲを有するため、抜き取り作業が難しく、加えて、有効な除草剤も少なく、防除が難しい雑草の一つといわれています。

またワルナスビは地下茎と種子で繁殖するのですが、いずれも強い繁殖力があります。特に、部分的に除草しても、地下茎が残るとそこから再生してしまいます。地下茎の切断面から萌芽することから、ロータリーなどの作業機の使用がワルナスビの拡散・まん延につながる危険性もあります。

防除法

地下茎を完全に取り除くことが重要です。

また、地下茎の繁殖能力は高いものの、細かく切断されたものは深く埋められるほど出芽数が減少することが知られているため、飼料作物を植え付ける前にプラウで深耕して地下深くに埋め込み、出芽を抑制します。ただし、ワルナスビが発生している圃場からトラクターを移動させる際は、機械に付いた土をよく落とし、地下茎がほかの圃場へ移動することのないよう注意が必要です。

耕種的防除法としては、ワルナスビは先述した雑草に比べると草丈があまり高くないため、背の高い作物によって日が遮られると生育が抑制されます。そのため、スーダングラスなど背が高い作物を植え付けるとワルナスビの発生抑制に役立ちます。

特効のある除草剤はありませんが、飼料作物収穫後に再生したワルナスビに対しては、ラウンドアップマックスロードなどのグリホサート剤を茎葉散布すると、次年度の発生を抑制するのに有効です。

 

 

あらゆるの外来雑草、雑草に共通する対策

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雑草防除に共通する対策をまとめます。

早期発見と駆除

雑草、特に外来雑草は、一度定着すると完全に駆除するのが非常に困難です。そのため、侵入初期に早期発見し、徹底的に駆除することが最も重要です。

侵入初期の段階で、根から慎重に掘り起こして駆除したり、適切な時期に刈り取りや除去作業を行ったりすることが、繁殖拡大を防ぐために効果的です。

化学的防除として適切な除草剤の使用が有効ですが、使用する際は、環境への影響を考慮しながら使用することが求められます。また、種子の持ち込みを防ぐため、畑の管理や飼料の使用に注意を払う必要があります。

生態系の管理

外来雑草の侵入を防ぐために、在来植物の生態系も健全に保つことも重要といえます。外来雑草は農業だけでなく、生態系全体に及ぶため、全体的な視点からの対応が求められます。地元の農家だけでなく、自治体や自然保護団体との協力体制を整え、外来雑草の監視を強化すること、長期的な防除計画を策定することが重要です。

 

参照サイト

 

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