「水」は農作物になくてならないものですが、長雨や豪雨になると作物にダメージを与えます。畑が水浸しになり作物が枯れてしまうだけでないのが湿害の怖さです。湿害の原因を知り、土壌改良の視点からも湿害対策をしておきましょう。
■明渠(めいきょ)・暗渠(あんきょ)でしっかり排水
湿害とは「過剰な水分によって土壌が空気不足となり作物が生育障害を起こす現象」と定義されています。土壌の空気不足の原因は2つあり、一つは雨などの多量の水が畑へ流入して土の中の通気性が悪くなり根が酸素不足となる状態です。もう一つは酸欠に起因する生理現象です。酸化還元電位が低下し、脱失作用による窒素不足と有害物の蓄積が起こり、生理障害による枯死を招きます。
湿害を起こしやすい畑は、地下水位が高いことや作土層の下の耕盤によって水が浸透しにくく、土の水分量が多い状態です。特に粘土質の土壌は乾きにくい性質なため、少量の雨でも加湿状態が続きます。
借りられる農地といえば水田であることが多く、転換直後は上記の二つの湿害が起きやすい状態となっています。排水管理と耕起によって通気性を良くし、土の物理性改良をしていきます。地下に埋め込むタイプは暗渠排水といい、設置されている場合は暗渠方向に対して直行するように畝を立てると排水性が良くなります。
畑の中央や額縁状に掘った溝は明渠排水といい、畝立てした時の畝間も明渠の役割をします。土に水がたくさん含まれる前に表面から排除させるためには、4~6mの間隔で深さ30cm程度の明渠をつくるのが理想的です。よくあるのが畑の中央部分に水が停滞してしまうことです。これは長年のトラクターの耕起によって端に土が寄せられ畑全体がすり鉢状になったことが原因です。排水口付近が高くなっていないか確認し、溝は高低差や凹凸がないよう均平にしておきます。
次に、作土が浅く耕盤によって地下へ水が浸透しない場合は、心土破砕機(しんどはさいき)をトラクターにつけて耕盤を掘り下げ、水ぬけをよくします。しかし再度水田として使う場合は、水持ちが悪くなることもあり、その後の利用状況も考慮して行うほうがいいでしょう。
溝掘りは重労働であり、営農に必要な面積となると管理機、溝堀機、小型ユンボなどある程度機械の使用が必要になります。作業によっては費用もかかりますが、病気、害虫発生、栄養不足の予防につながることなので、条件の良い畑を使えない場合は、排水溝の役割は大きいと言えます。
次に、通気性の低下とは違う原因―「酸素が足りない為に起きる湿害」の予防対策について見てみましょう。
土の中が酸欠になるのは植物の根、ミミズや昆虫類などの小動物、微生物が呼吸することによって酸素が消費されることが原因です。最も酸素を消費するのは、有機物を分解する微生物で、酸素が完全に無くなった後、今度は窒素肥料中の酸素分子が消費され肥料分が失われてしまいます。
さらに酸素不足がすすむと「還元化」によって、鉄、マンガン、イオウなどが有害なものに変化し蓄積して植物の根へ障害を起こします。春先以降は気温や地温が上昇し、植物や微生物の活動が活発化して酸素消費量が増え、ますます酸素濃度が低下しやすくなります。このような状態における生育不良を肥料不足と判断して窒素肥料を施しても改善されません。また、通気性の低下した土へ湿害対策として有機物の投入量を増やすと、微生物による有機物分解が進み酸素消費量が増して被害を悪化させることもあります。
■土壌中の気相率を高める
地下水位を下げ停滞水を迅速に排除した後、耕起によって土の通気性を改善していきます。畑利用に適した土は気相率30%、液相率30%、固相率40%が理想とされています。湿害を起こす土は三相のうちの気相率が低く、圧密化して透水性が悪いために植物の根の伸長や生育に悪影響を与えます。
気相率は耕起や畝立てにより改善されますが、過湿状態でロータリ耕起を行うと、土が練り返されてしまい圧密化して粘土状の塊が形成され、耕起前よりも土の通気性が悪化していまいます。また、逆に乾きすぎた状態でロータリ耕起を行うと大きい土塊と微粉になり、気相率はあまり改善されません。
トラクター作業は、過湿時をできるだけ避け、作業に適切な水分条件が整った状態で、ロータリでの深い耕起を丁寧に行います。次にロータリの爪の数を増やしたり、水田代かき用のドラブハローを使用し、高い回転数でやや浅い部分を耕起します。
この作業は連続で何度も行うよりも、適切な水分条件で少数回行うほうが効果は高く、より多くの空気を土に含ませることができます。耕起後は、土中の好気性生物が働き始め、孔げきという土の隙間をつくるようになり、また冬季であれば霜柱によって縦方向に貫通した隙間を作るので、自然の力によって気相率は向上し、土の物理性と同時に生物性も変化します。
自然の力は機械にはできない土の変化をもたらします。秋にしっかり耕起することで自然の力が働きやすくなり、春の耕起時における土の通気性が大きく変わってきます。
■湿害対策後に施肥を行う
土の物理性、生物性が改善された状態であれば、土壌改良を目的とした堆肥の施用も効果を発揮して年次経過とともに土壌構造が発達します。また肥料成分の欠乏や過剰といった濃度障害も軽減されていくため、作物の肥料管理がしやすくなります。
湿害の発生メカニズムと対策のまとめ
・水分過剰→酸素濃度低下→根の呼吸活動が低下→根腐れ、生育不良
・土壌の酸化還元電位低下→脱窒作用で窒素不足→葉の黄化、生育不良
・有害物質蓄積→代謝阻害による枯死
・湿害の予防策としては、排水管理と耕起により土壌物理性を改善させることが重要
・耕起時の土の水分条件と適期作業が効果を上げるポイント。
・気相率の改善後に堆肥や肥料を入れることで湿害の悪化を防ぐ。
農業は土地条件、土壌条件、天候による影響が大きく、作業のタイミングと経年変化を考慮した湿害対策をとることが大切です。
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