農業生産されている野菜の中でどのような品目が売れているのでしょうか。本記事では過去のデータをもとに、農業所得が高い野菜と、生産品目を売れる品目から選ぶ際に注意しておきたいことについて紹介していきます。
農業所得が高い野菜とは
農林水産省が「農業経営統計調査」という資料を公開しています。この調査は平成19(2007)年に廃止されていますが、この調査では野菜、果樹、花き、豆類の品目別経営収支(全国、主産県別)が公開されています。
この資料によると、露地野菜において、平成19年度の10a当たり農業所得(1〜5位)は以下の通りです。
1位 シシトウ 142万8千円
2位 ナス 122万6千円
3位 キュウリ 118万5千円
4位 大玉トマト 903万円
5位 ピーマン 895万円
同資料はこの結果において、果菜類は根菜類や葉茎菜類に比べ、多収量で販売価格が高い水準にあることから農業粗収益が高い、と記しています。
施設野菜において、平成19年度の10a当たり農業所得(1〜5位)は以下の通りです。
1位 ミニトマト 202万8千円
2位 イチゴ 189万8千円
3位 ナス 169万4千円
4位 シシトウ 146万3千円
5位 キュウリ 134万4千円
施設野菜も果菜類が中心で、かつ露地野菜に比べ10a当たり農業所得が高い水準にあることが分かります。
売れる品目を選ぶ前に知っておきたいこと
上記データで表される数字だけ見ると、「果菜類>根菜類や葉茎菜類」「施設野菜>露地野菜」といった印象を受けるかもしれませんが、売れる品目はそれだけ生産量も多く、労働時間が長かったり、生産以外の経費の割合が多い、なんてこともあります。
近年はスマート農業が浸透したことにより、省力化や生産効率の向上に取り組みやすいとは思いますが、売れる品目が要する労働時間や経費の割合について知っておいて損はありません。
作業にかかる労働時間
農林水産省が令和4(2022)年10月に公開した「野菜をめぐる情勢」という資料より、まずは資料が公開された時点での国内生産量の多い野菜、産出額の高い野菜をご紹介します。
国内生産量に占める割合の大きい品目はキャベツ、タマネギ、ダイコンで、この3品は国内生産量の約4割を占めています。令和2(2020)年の野菜の産出額2兆2,520億円のうち、以下の10品目で野菜の産出額全体の約6割を占めています。
- トマト
- イチゴ
- ネギ
- キュウリ
- キャベツ
- タマネギ
- ナス
- ホウレンソウ
- ダイコン
- レタス
平成19年度の資料同様、トマト、キュウリ、ナスが上位を占めています。
そんな生産量、産出額ともに高い野菜の中には、作業労働時間も長いものが含まれています。「野菜をめぐる情勢」の資料より、以下の作業内容を含む10a当たりの労働時間を見てみると……
作業内容)「育苗」「耕起・整地」「田植え、播種・定植」「除草、防除」「管理」「刈取、収穫」「乾燥、調整・出荷」「その他」
米 22時間
キャベツ 83時間
レタス 132時間
ホウレンソウ 220時間
ダイコン 100時間
ニンジン 123時間
タマネギ 63時間出典元:野菜をめぐる情勢
国内生産量の約4割を占めるキャベツ、タマネギ、ダイコンは作業労働時間もなかなかに長いことが分かります。特に野菜においては機械化の遅れから、「刈取、収穫」「乾燥、調整・出荷」に時間を要している、とあります。
経営にかかる費用
同資料より、10a当たりの粗収益、経営費、農業所得を見てみると……
野菜作経営(令和2年・全農業経営体・全国・1経営体当たり)の状況
露地野菜作経営 |
施設野菜作経営 |
水田作経営 |
|
農業粗収益(10a) |
10,737千円 |
17,183千円 |
3,450千円 |
農業経営費(10a) |
8,678千円 |
13,316千円 |
3,271千円 |
農業所得(10a) |
2,059千円 |
3,867千円 |
179千円 |
作付述べ面積 |
162.1a |
44.8a |
241.3a |
引用元:野菜をめぐる情勢
水田作経営と比べると、野菜作経営(1経営体当たり)は10a当たりの農業所得は高いことが分かります。しかし同資料によると、野菜の卸売価格に占める流通経費(選別・荷造労働費、包装・荷造材料費及び出荷運送費)の割合は約3割で、平成29(2017)年は平成26(2014)年に比べて約1割増加している、とあります。
野菜の卸売価格に占める流通経費の割合
単位:(円/100kg)
合計 |
生産者受取収入 | 選別・荷造労働費 | 包装・荷造材料費等 | 出荷運送費等 |
卸売手数料 |
|
平成26 |
13,891 |
8,487 | 1,143 | 1,585 | 1,598 |
1,078 |
平成29 |
15,739 |
9,745 | 1,347 | 1,687 | 1,747 |
1,213 |
参考資料:農林水産省「食品流通段階別価格形成調査(平成26年度、平成29年度)」から推計
先の表の参考資料「食品流通段階別価格形成調査報告 平成29年度」で調査対象となっているのは以下の青果物16品目です。
- ダイコン
- ニンジン
- ハクサイ
- キャベツ
- ホウレンソウ
- ネギ
- ナス
- トマト
- キュウリ
- ピーマン
- サトイモ
- タマネギ
- レタス
- ばれいしょ
- ミカン
- リンゴ
「食品流通段階別価格形成調査報告」では小売価格に占める流通経費や販売収入に占める集出荷・販売経費等の割合が記されています。
小売価格に占める流通経費の割合が最も高かったのはニンジン、次いでタマネギ、ばれいしょで、販売収入に占める集出荷・販売経費等の割合もまた、最も高かったのはニンジンで、次いでハクサイ、ダイコンです。
小売価格に占める流通経費の割合(降順)
ニンジン 64.5%
タマネギ 62.5%
ばれいしょ 60.5%
販売収入に占める集出荷・販売経費等の割合(降順)
ニンジン 46.4%
ハクサイ 46.1%
ダイコン 43.9%
販売収入に占める集出荷経費の割合(降順)
ホウレンソウ 29.8%
ネギ 27.9%
リンゴ 23.4%
販売収入に占める販売経費の割合(降順)
タマネギ 24.1%
ハクサイ 23.6%
ニンジン 23.3%
出荷先別の受け取り価格
先では作業労働時間や卸売価格に占める流通経費などをご紹介しましたが、販売先によって生産者受取価格にも変化が生じます。
同資料では、生産者が集出荷団体に販売した価格をもとに、生産者の出荷先別の生産者受取価格の割合を算出しています。品目別でみた生産者受取価格の割合は以下の通りです。
生産者が小売業者に直接販売した場合
キャベツ 85.6%
レタス 82.2%
ホウレンソウ 82.1%
生産者が消費者に直接販売した場合
タマネギ 87.3%
レタス 84.7%
トマト 84.4%
タマネギは流通経費や販売経費の割合が高い分、消費者に直接販売した方が受取価格が高くなる、といった数値が出ています。
まとめ
農業所得が高くても、作業労働時間や必要経費がかかってしまうものがあったり、販売先によって生産者受取価格が変わったりします。農業所得で表される数字ではなく、地域や土壌に合った品目やどのような経営をしていきたいかが生産品目を決める上で大切といえます。
参考文献