寒さの厳しい冬に、安定的に野菜を栽培するのは容易ではありません。
もちろん“ハウス栽培”といった冬の気温の影響を受けずに済む栽培方法もありますが、暖房費が膨大になることも否めないため「ハウス栽培は儲からない」という意見も聞きます。
しかし今回提案したいのは、寒冷期にこそ野菜栽培を行う方法です。もちろん野菜の種類によっては栽培の向き不向きもありますし、寒い冬にぐんぐん生育する野菜の栽培・・・というわけでもありません。ただ寒冷期だからこそ味わえる野菜の魅力を、消費者に伝えることはできます!
雪下や越冬野菜に注目
雪下野菜や越冬野菜という言葉を聞いたことありませんか?
北の寒い地域では、昔から「雪に野菜を埋める」という保存方法が親しまれていました。
てっきり収穫した野菜を雪の下に保存するだけだと思っていたのですが、秋のうちに育った野菜を収穫せず、越冬させ(最長で半年ほど埋めたままの野菜も!)、春先の雪解けのタイミングで収穫します。「新鮮さが命!」という点は越冬野菜でも変わらないため、スーパーマーケットで購入する消費者のところまで到達せず、直売所でしか販売されていない野菜も多く見られますが、甘さが増し、野菜によっては独特の青臭さが軽減し食べやすくなる、とも言われています。
もちろん雪下野菜の栽培は簡単なものではありません。
そもそも積雪の中、農作業を行うのはかなりの重労働です。人の手や除雪機を使い、雪をのけてから収穫しなければならないため、手間はどうしてもかかります。また雪が降るタイミングによっては、野菜が痛む場合もあります。
だからと言って降雪、積雪のタイミングを私たちが測ることはできませんよね。野菜が成熟しきる前に雪が降ると野菜が痛んでしまうため、積雪のタイミングに合わせた種まきには経験と勘が必要かもしれません。もちろんスマート農業が発展している昨今、タイミングのコントロールはデータ蓄積により簡便になるのかもしれませんが…。
寒さによる植物の科学的変化とは
少々難しいかもしれませんが、寒い季節にも野菜栽培が可能な雪下、越冬野菜。特に今回お伝えしたいのは、寒さによって生じる野菜の変化についてです。
雪下野菜は保存という意味合いだけでなく、野菜の風味に変化をもたらす科学的な特徴があるのです。
東北農業研究センターの資料等によると、雪下野菜には「低温馴化」と呼ばれる現象が生じると言われています。これは“体内のでんぷんが糖化することにより耐凍性が高まる”というもの。材木を対象にした実験ですでに解明されていた生理現象なのですが、それと同じような変化が雪下野菜にも生じています。
植物は光合成によって糖分や栄養分を生成しますが、低温下では根の養分吸収を抑え、水分含量を減らします。代わりに糖分や栄養分を体内に蓄えて低温状態に備えるのです。
ある実験では、大根、キャベツ、白菜などを対象に、ハウス内で栽培し低温状態に晒さなかったものと雪中保存したもので、野菜の糖度や細胞液の濃度変化を調べています。
雪中保存したキャベツと白菜において、外気の温度低下に応じて糖度変化が示され、かつ面白いことに外の葉の糖度は徐々に減少するのですが、芯や茎など活発な細胞分裂が見られる部分の糖度は増加しました。また大根はハウスで栽培したものには糖度変化は認められませんでしたが、雪中貯蔵したものは貯蔵開始40~50日間で徐々に糖度が増加しました。低温に晒されたことで細胞液の浸透度が低下し、その結果、周辺の水分が細胞組織へと取りこまれます。そのことがみずみずしく甘い野菜につながるのです。
ちなみに野菜の種類によって最適な貯蔵条件や貯蔵可能期間は異なります。
しかし傾向として、根菜は比較的長期間保存ができることがわかります。
↓貯蔵温度0℃で、湿度条件が玉ねぎのみ(70~75%)、他90~95%の場合。
・玉ねぎ 6~8ヶ月
・人参 5~6ヶ月
・かぶ 4~5ヶ月
・白菜 3~4ヶ月
・ニラ 1~3ヶ月
・キャベツ 3ヶ月
・大根 2~3ヶ月
・レタス 20~28日
寒冷期に農業するなら
まず当たり前のことかもしれませんが、寒さに比較的耐性のある野菜を育てることが大事なのではないでしょうか。
先の野菜別貯蔵可能期間を見ていただいてもわかると思いますが、長期間の越冬に耐えられない野菜もあります。冬だから野菜栽培ができないわけではありませんが、寒冷地でも育てやすい野菜を選ぶことも重要ですね。例えば秋冬が旬な野菜といえば小松菜やルッコラ、ターサイなどが挙げられます。特にターサイは霜があたると甘みが増すと言われています。寒さに強い野菜だからこそ、寒い環境が美味しさを引き出すんですね。
また今回は雪中野菜をご紹介しましたが、冬場に農業収入を得るのであれば、温度に左右されないハウス栽培もやはりおすすめです。
ハウス栽培といえば「温度調整のための暖房費がバカにならない」という噂がありますが、北海道の道立総合研究機構上川農業試験場では“暖房を使わない栽培技術”が開発されています。「無加温栽培技術試験」では、ハウスの天井に用いるフィルムを二重膜構造し、送風機によって膜と膜との間に空気を送り込むことで熱を蓄えやすくしています。
外気が-26.2度だった際には、野菜周辺の温度を-2.8度に留めることに成功しています。送風機の振動による積雪防止策にも注目ですね。
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