化学的に合成された肥料や農薬を使用しない有機栽培や、環境に配慮した栽培を実践する人の間で「お酢」が活用されています。
お酢、すなわち酢酸は、安全性や防除効果が確認され、農薬登録を受けなくても使用できる特定農薬の一つであり、化学農薬が浸透する前から殺菌剤や忌避剤として活用されてきました。近年の研究では、植物を乾燥に強くする効果があることもわかっています。
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台風や豪雨で弱った野菜を回復させる!?
そんなお酢には、台風や豪雨で弱った野菜を回復させる効果もあると言われています。
台風や豪雨で野菜が弱る原因
まず、台風や豪雨の後、野菜が黄色くなることがありますが、これは台風や豪雨で圃場に水が溜まることで毛細根がダメージを受けることが原因です。
根が痛んだり腐ったりすると、植物は水はなんとか吸い上げられてもミネラル分が吸えなくなってしまうのだとか。葉緑素を保つには窒素以外にも、葉緑素の生成や光合成を助けるマグネシウムや塩素といったミネラル分が必要です。しかし天候が回復して蒸散が始まると、ダメージを受けた根は水ばかり吸い上げてしまいます。
しかもこの際、比較的水溶けやすい窒素ばかりが植物に届けられるので、実は台風や豪雨後に水を吸い上げ始めた農作物は窒素過多の状態にあります。
光合成を助けるミネラル分の不足は、植物の品質にも悪影響を及ぼします。植物の細胞壁は炭水化物を材料にして作られています。炭水化物は光合成で生成されますが、光合成不足になることで炭水化物が作れなくなり、ゆえに細胞壁の合成が追いつかず、野菜はふやけたようになってしまいます。
弱った野菜がお酢で回復する仕組み
ではどのようにして、お酢がこのような農作物を回復させるのでしょうか。
2020年9月に刊行された『現代農業9月号』によると、お酢がエチレンやアブシジン酸のように栄養成長を一時的に抑制するとありました。栄養成長は、根から水や養分の吸収が活発になり、枝や葉が伸びて光合成が始まる時期の成長を指しますが、この際、植物の細胞分裂は盛んになります。細胞壁を作り出すためにたくさんの炭水化物が消費されますが、お酢を与えることでそれを一時的に抑制すれば、炭水化物の消費量は減ります。植物は元来、栄養に乏しい厳しい環境では根が発達します。栄養成長を抑制し、細胞壁生成に消費されていた炭水化物が根の修復に回ることで回復が見込めます。この処置を行う場合には、酸度4.5%の食酢を30〜50倍に薄めたものを葉面散布します。
濃度を薄めると植物活力剤に!?
なお酸度4.5%の食酢を100倍以上に薄めたものの葉面散布は栄養成長を促進します。千葉県野田市ではお酢がもつ植物活力剤としての効果を利用して、市内産の玄米を原料とした玄米黒酢を水稲に散布する米作りを行っています。一般的な食酢よりもアミノ酸やミネラルが豊富なのだとか。
濃い濃度なら除草効果あり
お酢は雑草対策にも役立ちます。強い酸性やアルカリ性は植物を枯らすのに効果的です。お酢を濃い濃度で用いれば、その強い酸性成分が雑草を根から枯らします。『現代農業9月号』では、濃度を調節することで選択的に除草する実験の概要が掲載されていました。
農薬を使用していない、雑草が優勢な圃場で、酢酸を濃度別に複数回噴霧し、イネと雑草がどのように影響を受けるか、という実験です。酢酸は酸度15%、10%、5%、2.5%で、酸度10%以上だとイネにも被害が出てしまったが、2.5%ではコナギやホタルイなどの雑草は枯れてもイネに被害はありませんでした。
もちろん、散布時間帯や希釈倍率によって効果が変わってしまったり、草種の葉齢によっても効果が異なるため、噴霧すればいいというわけではありませんが、酢酸に耐性がある農作物であれば、噴霧するだけで選択的に除草できるのは魅力的な話です。
なお原液〜50倍程度のお酢はコケの除草にも効果的です。
酢酸除草を行う際の注意点
先で“散布時間帯や希釈倍率によって効果が変わ”ると書きました。散布した後に雨が降ってしまうようだったり、朝や夕方など露がある時間帯、曇天時は効果が落ちるので避けましょう。また先の実験では、圃場環境が15℃以下になると、酢酸が低濃度であってもイネに障害が出たとありました。イネの開花期に散布すると不稔が発生しやすいともあったので、実際にお酢を活用する場合には、除草目的であっても薄い濃度から始めることをおすすめします。
参考文献
- 現代農業9月号(一般社団法人農山漁村文化協会、2020年9月)
- 栄養週期栽培の施肥の特徴 – 日本巨峰会
- 除草剤を酢から作れば安全!酢の除草効果やデメリットについて紹介|生活110番
- 植物の近くに酢を置いたら枯れました。原因を教えて下さい。|みんなのひろば 一般社団法人日本植物生理学会