2018年4月1日に廃止された「主要農作物種子法※1」や「種苗法」の問題※2等で話題になっている野菜のタネ。特に種苗法における「農家の自家増殖原則禁止」には異議を唱える人も少なくありません。
そんな中、現時点では自家増殖の「禁止品目」として含まれていない固定種・在来野菜のタネ採りに注目が集まっています。
そこで本記事では、固定種・在来野菜に関心がある人にぜひやっていただきたい自家採種についてご紹介していきます。
※1
食糧難の時代に制定された、主要農作物であるコメや大豆、麦などの種子の安定供給を支えてきた法律。
※2
植物の新品種の創作に対する保護を定めた法律。農林水産省は、日本の優良品種の海外流出問題を解決するために改正を検討中。2020年2月19日の日本農業新聞で「改正案が了承された」とある。
自家採種しやすい野菜
自家採種しやすい野菜は上から順に
- タネや種イモを食べる野菜(穀類・栄養繁殖野菜) ダイズ・サトイモなど
- 完熟した作物を食べる野菜(完熟果菜類) トマト・スイカなど
- 完熟させる前に収穫する野菜(半熟果菜類) ナス・キュウリなど
- 葉菜類 キャベツ・ホウレンソウなど
- 根菜類 ダイコン・ニンジンなど
と言われています。
タネや種イモを食べる野菜は、収穫したものがそのまま種苗になるので取り組みやすいです。一方、根菜類はタネ採りに最適な株を選抜するために、収穫前に一度掘り出して形質を確認する必要があるため、少々手間がかかるという点で取り組みにくく感じるかもしれません。
自家採種のやり方
果菜類の場合、完熟させた果実からタネを採ります。タネを採るための実を決め、種子が成熟するまで枝につけたまま完熟させます。果菜類の中にはタネの周りにゼリー状の部分がついているものもあります。水で洗い流して、ゼリー状の部分を取り除きましょう。
葉菜類や根菜類の場合には、生育の良い株は収穫せずに残しておき、そのまま育てて花を咲かせます。他家受精(たかじゅせい:異株間で受精する)植物の場合には、受粉・受精のために複数の株を残します。花が咲き、株全体が枯れるまで放置した後、成熟したタネを採ります。
工夫したいポイント
優れた株を選ぼう
どの野菜であっても、元気に生育している株を選びましょう。
根菜類の場合は少々手間がかかりますが、収穫前の、株が出来上がりつつあり収穫まで成熟させる前の時期に抜き取り、タネ採りに適した形質の株を選んで植え替えます。
選抜基準を決めよう
元気に生育している株を選ぶことが大切ですが、自身がどのような品種に育てたいかも重要です。
大きさなのか収量なのか、病害虫に強いものを育てたいのか、暑さや寒さに耐性があるものを育てたいのか、人によって育てたい品種の基準は違います。選抜の基準をあらかじめ決めておきましょう。
交雑させないようにしよう
葉菜類や根菜類、特に他家受精する野菜(キャベツやハクサイ、ブロッコリーなど)は交雑しやすい特徴があります。交雑させてしまうと、元に戻すのに時間と労力が必要になるため、交雑させないよう工夫を凝らす必要があります。
交雑を防ぐための方法として、距離をとったり、ハウス内などに隔離してタネを採る方法もありますが、現実的なのは採種する株を防虫ネットなどで囲む方法です。なおネットの外側に同じ品種の作物を数株残しておくと、それらの株が昆虫のおとりとなり、採種する株に異種類の花粉がつくのを防げます。
また採種を行う場合には、防虫ネットの周辺部に咲いた花ではなく、ネットの内部で実をつけたものから採種するようにしましょう。交雑しやすい品種の場合、ネットの外側から昆虫が吸蜜することで交雑が起こる可能性があるからです。
それから、ホウレンソウなど花粉媒介を風に頼る植物(風媒花(ふうばいか))の場合、株同士の距離が遠い場合でも、他品種と交雑する恐れがあります。周囲に他品種の株がないことを確認した上で、採種する株の周辺に背の高い作物(ムギ類など)を植えると、それらが障壁となり、交雑防止に役立ちます。
参考文献
- 『NHK趣味の園芸 やさいの時間』2013年8月号, 2013年7月20日, NHK出版
- 自家採種で在来野菜を守ろう ~方法と利用〜 みんなの農業広場
- 『現代農業2月号』, 2019年2月1日, 一般社団法人 農山漁村文化協会