農林水産省は環境保全型農業の一環として、有機農業の取り組みを推奨しています。それに関連したホームーページの中で、有機農業のため、自家採種に取り組むようになった農家の事例が紹介されています。
事例:自家採種を通じた有機農業の取組 (1)環境保全に向けた農業の推進:農林水産省
自家採種は、タネを採る手間がかかり、畑に合うようになるまで時間がかかるなどのデメリットもありますが、畑に合うようになればタネにかかる費用は減り、病気になりにくい生命力の強い品種を栽培できるようになるメリットもあります。
本記事では、自家採種のデメリットについても紹介しながら、畑に合ったタネを得るためのポイントについて紹介していきます。
覚えておきたい!一般品種・在来種は自家採種できます
自家採種について紹介する前に、改正種苗法と自家採種の関わりについて説明させてください。種苗法改正の目的は、日本で開発された品種が海外に流出するのを防ぐため。農水省が公開した改正種苗法の全体像によると、その内容は
- 輸出先国の限定(海外持ち出しの制限)
- 国内栽培地域指定(指定地域以外での栽培を制限)
- 登録品種の増殖を行うには許諾が必要
- 登録品種の表示の義務化
などが挙げられていますが、これらは「登録品種」に対する内容です。
品種登録されたことがない「一般品種」、地方で長年栽培されてきた「在来種」は自家採種の制限の対象ではありません。
とはいえ、自家採種を始めようと考えている人の中で、タネが制限対象かどうか気になる人は、農水省のWebサイト「農林水産省品種登録ホームページ」でまずは確認してください。
自家採種のデメリット
やはり時間と手間がかかるところです。タネが畑になじむまで、また形や色、味が魅力的なものを選び抜く作業には時間と手間を要します。F1種とともに栽培するとよく分かるのですが、はじめのうちは、生育スピードが安定し、形も揃うF1種のほうが質が良く感じられることでしょう。また、すでに自家採種を行っている農家から質のいいタネを譲り受けたとしても、タネをまいた最初の年は思うように育たないことも少なくありません。好ましい品質になるまでには早くても3年、4〜10年はかかると考えたほうがいいです。
とはいえ、気の長い作業を続けることで得られるものはあります。自家採種を繰り返していくうちに、畑の環境、土地に合っていき、徐々に品質が安定していきます。
自家選抜・自家採種のポイント
自家選抜・自家採種そのものは決して難しいものではありません。ですが先でも述べたように、ある程度の年数が必要になること、そして自分が求めるものを選び続ける「根気」は必要です。しかしそこを乗り越えることができれば、これらの手間は「楽しみ」に変わっていくはずです。
農文協編『農家が教える 自然農法: 肥料や農薬、耕うんをやめたらどうなるか』(2017年、農山漁村文化協会)に掲載されている北海道の事例では、そこで育てているミニトマトの品種が得られるまでにおよそ10年かかっています。このミニトマトは元々、大玉トマトのF1品種のタネから育てられました。大玉トマトのタネをまいたところ、ほとんどが大玉の中、いくつか中玉とミニの株が出てきました。ミニトマトを得るために、そのミニの株から採種して育てたところ、再び大玉と中玉とミニに分かれます。そこから大玉は大玉で、中玉は中玉で、ミニはミニで採種していき、生長や着果、味のいいものを選抜していったといいます。なお大玉は4、5年、中玉は6年ほどで形質が揃うようになりましたが、ミニは冒頭で述べたように10年かかっています。それでも、自分が求めるタネを選ぶ楽しさ、自分が求めるものにうまく育った時の楽しさは、市販のタネでは味わうことができません。
気軽に、焦らず取り組む
なお、はじめて自家選抜・自家採種を行う際は、あまり難しく考えすぎず、純粋に「自分が食べてみておいしかったもの」「形がいいと感じたもの」などを選びましょう。長い期間を要することが避けられない分、作業を続けるためには気を張りすぎないのがおすすめです。
性質の揃ったものばかりを選抜して自家採種を繰り返すとタネができにくくなることもありますが、そのようなことが起きても焦らず、そういう場合には生育のいいものを選ぶようにしましょう。
タネ採りしやすい作物から始めてみる
「タネ採りのしやすさ」だけに焦点を絞ると4つのレベルに分けることができます。
最もタネが採りやすいのは「タネそのものを食べる」作物です。穀類やイモ類、マメ類はそれそのものをまくか植えるかだけで済むので取り組みやすいです。
次に採りやすいのは「完熟した実を食べる」作物。スイカやカボチャ、メロンなどが該当します。これらは食べる時にタネを取ればいいので簡単です。
ここから段々と時間や手間がかかってきます。ナスやピーマン、トマトやキュウリなどは「完熟するまで待つ必要がある」作物です。タネを採る際は、収穫の時点でタネを採るのに良さそうな株に目星をつけておき、その選んだ株が完熟するまで待ちます。
最も手間がかかるのは葉菜類やネギ類など、タネを採るのに「花を咲かせる必要がある」作物です。これらは花が咲くまで畑に残しておかなければなりません。
生育力の強い作物にするために
自家採種は、自然農法などの農薬や肥料を使わない栽培を行う農家さんの間でよく取り入れられています。その土地、畑に慣れたタネは農薬や肥料がなくても、病気知らずでたくましく育っていくとされています。そんな作物を得るためには、タネを採る前に意識しておきたいことがあります。
まずタネ採りのもととなる「母本」は、そのタネに求めるものに見合った厳しい環境で育てます。どういうことかというと、例えば、無農薬、無肥料でもよく生育するタネを得たければ、母本は無農薬、無肥料の土壌で栽培することはもちろんのこと、不耕起で雑草も生えているような厳しい環境でも育つ、たくましいものであることが望まれます。
もちろん、その環境で母本が弱ってしまってはタネが採れなくなってしまうので、弱りすぎない程度に環境を調整する必要はありますが、力強く生育する作物を得るためには、母本から鍛えていかなければなりません。
参考文献
- (1)環境保全に向けた農業の推進:農林水産省
- 改正種苗法について〜法改正の概要と留意点〜 – 農林水産省
- 誤解の多い「自家増殖(自家採種を含む)の原則禁止」の意義と反対の理由|種苗法改正のポイント|minorasu(ミノラス) – 農業経営の課題を解決するメディア
- 農文協編『農家が教える 自然農法: 肥料や農薬、耕うんをやめたらどうなるか』(2017年、農山漁村文化協会)