日本の総人口は2008年の1億2808万人をピークに減少を続けている一方、高齢化率は上昇しています。農村部は都市部よりも速く減少が進むと予想されています。
そんな中、農業界では高齢などを理由に離農する農家も少なくありません。離農する農家が増えることは、遊休農地や耕作放棄地の増加につながります。
耕作が行われなくなった農地にはさまざまな利用方法が検討されています。
関連資料はこちら→長期的な土地利用の在り方に関する検討会:農林水産省
集積・集約化やスマート農業への活用などが、その第一段階として挙げられていますが、その次の段階にあるのが「粗放的な利用」です。「粗放」は“綿密でなく、あらっぽいこと。大まかでしまりがないこと。また、そのさま。(出典元:小学館 デジタル大辞泉)”を意味しますが、「粗放栽培」「粗放的栽培」「粗放農業」は
一定の耕地に労力や資本をあまりかけないで作物をつくる農業。
を意味します。
粗放栽培できそうな品目を植えることで、農地としての利用を続けられます。そこで本記事では、粗放栽培できる品目で、栽培の手間がかかりにくいだけでなく、獣害対策の手間もかかりにくいオススメの作物についてご紹介していきます。
定番のシソ&シソの仲間・エゴマ
シソは比較的簡単に栽培できる植物です。β-カロテンなどの栄養が豊富で、青ジソは香味野菜として、赤ジソは梅干しの色付けやジュースとして利用することができます。ヒトにとっては用途の幅が広いシソですが、動物は好んでは食べません。特にシカは香りの強い植物を嫌う傾向にあるため、シソは特に狙われにくいです。
シソの仲間であるエゴマもオススメです。エゴマ油に豊富に含まれるα-リノレン酸は認知症や心筋梗塞などの予防効果があると注目されていることもあり、消費者からの認知度は高まりつつあります。
漢方としても利用されるナツメ
落葉高木のナツメは、栄養豊富で、乾燥させたものは漢方としても利用されます。乾燥させたものや濃縮エキス、お茶などにして加工する事例が多いですが、生食することもできます。生の果実は梨やリンゴのような甘さがあります。
ナツメは温暖で乾燥した土地を好みますが、あまり土質を選ばず、寒さにもある程度強いです。竹のように根を伸ばし、芽をたくさん出すので、それを移植すれば増やすことができます。
ただし日向を好むので、日のあたる場所で育てる必要があります。水はけが悪い土地との相性も悪いので、土地の排水性には注意を払う必要があります。また枝にトゲがあることから鳥害はありませんが、山際に近い場所で栽培するとイノシシやシカによる被害が発生しやすいので、場所によっては栽培初期に金網柵の設置と排水対策を行う必要があります。
動物はその毒性から好まないトチノキ、ミツマタ
消費者の間での認知度は低いかもしれませんが、トチノキやミツマタも遊休農地を活かせるオススメの作物です。
トチノキは蜜源植物(ミツバチが蜂蜜を作るために花から蜜を集める植物)として知られている他、アクを抜いた種子を利用したトチ餅などの食材、木材としても利用されます。
ミツマタは紙の原料として知られています。現在、紙の原料として使われているミツマタの約9割は輸入に頼っています。
トチノキは実に毒性成分「サポニン」を含んでおり、ミツマタは全株有毒の植物です。ミツマタの種子はネズミや鳥による食害を受けることがありますが、それ以外の動物、シカやサルなどからの食害の心配はありません。
農水省が公開する資料にも役立つ作物がたくさん!
農水省が公開している『耕作放棄地への導入作物事例』には、先で紹介した以外の作物の事例が掲載されています。作物ごとの特性もまとめられているので、気になる方はぜひご覧ください。
参考文献
- 長期的な土地利用の在り方に関する検討会:農林水産省
- 獣害対策の基本知識|栽培技術|最前線WEB – タキイ種苗
- ナツメ(棗) – 庭木図鑑 植木ペディア
- 果樹研究所:一押し旬の話題:なつめ|農研機構
- トチノキ – 秋田県立大学
- 和紙の原材料
- 耕作放棄地への導入作物事例 – 農林水産省
- 農文協編『季刊地域 秋号(47号) 2021年 11 月号』(2021年、農山漁村文化協会)