消費者からはしばしば農薬の安全性を不安視する声が聞こえます。とはいえ、農薬は病害虫や雑草による被害の予防や対策、除草作業などの農作業の負担を減らすなど、防除にかかる費用を抑えたり、作業の省力化につながる、農業にとって重要な資材です。
そこで本記事では、農薬を安心・安全に使用するために知っておきたい農薬の基礎知識をご紹介していきます。
農薬の安全性を確保する「登録」の流れ
主な農薬に殺虫剤、殺菌剤、除草剤などがありますが、これらは使い方を間違うと目的を果たす以上に生物や環境に影響を与えてしまいます。
そのため農薬は「農薬取締法」に基づき、製造、輸入、販売、使用に至る全ての過程で規制され、その中心にある「登録制度」により、製造、輸入、販売する場合、農林水産省の登録を受けることが義務づけられています。
また農作物への残留性や生物や環境への影響に関する基準が設定され、この基準を超えないよう使用方法が定められることで、安全が確保されます。
農薬の製造者や輸入者が農薬の登録を受ける際の流れを簡略的にまとめると以下の図のような流れになります。
FAMICでは
- 農薬の薬効
- 薬害
- 安全性
- 製品の性質
について検査が行われます。
消費者が最も気になるであろう「安全性の検査」では
- 農薬を使用する人への安全性
- 農薬が使用された農作物を食べた場合の安全性
- 農薬が散布された環境に対する安全性
に関連する検査が行われています。
もちろんFAMICだけが安全性の確認を行うわけではありません。上記で紹介した登録の流れにもあるように、登録申請者、すなわち農薬の製造者や輸入者が、信頼できる試験機関に依頼し、登録を申請する農薬の品質や安全性を確認するための試験結果等を整え、FAMICに提出します。FAMICはその結果から総合的に判断して、上記の安全性について検査を行います。
提出する試験成績は、薬効、薬害、毒性、残留性の4項目に分けられます。中でも毒性は急性毒性(短期間に多量の農薬を摂取した場合の毒性)や慢性毒性(少量だが長期間に農薬を摂取した場合の毒性)を調べるものや動植物体内で農薬が分解される経路等を把握するものや環境への影響など幅広く試験が行われます。
詳細は、農林水産省が公開する「農薬の基礎知識」の「3.農薬の登録制度とは (4)検査の内容 ウ 安全性の検査 表3」に記載されていますので、ぜひご覧ください。
残留農薬について
田や畑で使用された農薬は、動植物や土壌微生物体内で分解されたり、太陽光による光分解、水による加水分解など、さまざまな形で分解され、時間とともに減少していきます。ただし、そのごく一部が収穫物に微量に残留することも。そのため農薬が使用された農作物を食べた際、健康に影響が生じないよう、残留農薬の毒性評価は必要不可欠です。
毒性評価は
- 一日摂取許容量(ADI:Acceptable Daily Intake)
- 急性参照用量(ARfD:Acute Reference Dose)
が設定されます。
ADIは“現在の科学的知見からみて健康への悪影響がないと推定される一日当たりの摂取量(引用元:(2)残留農薬の毒性評価 農薬の基礎知識 詳細:農林水産省)”を指し、ARfDは
「人がその農薬を24時間かそれより短い時間口から摂取した場合に健康への悪影響がないと推定される一日当たりの摂取量」を指します。
……と、小難しい用語が登場しましたが、農業従事者が着目すべきは残留基準値ではなく、登録されている農薬の使用方法を守ることだと考えます。
農薬の半減期(散布直後の農薬濃度が半分になるまでの期間)は、ほとんどが数日から100日の範囲にあり、ラベルに記載された使用方法に従って使えば、農薬は比較的速やかに分解されていきます。
また消費者は農作物を食べる前に洗ったり皮をむいたりしてから食べるはずですが、残留基準値の試験ではそのような行程はありません。消費者が農作物を食べる前の行動から考えると、実際の残留基準値は余裕をもって設定されているといえます。消費者が残留農薬を摂取したとしても、実際の残留基準値よりも少ない量しか摂取することはありません。
ただし、これらはあくまでもラベルに記載された使用方法にしたがった場合の話。使用方法に従わずに使用すると、基準値を上回ってしまいます。農薬の特徴を把握し、適切な使用を心がけることが、農薬を安心・安全に使用するための大前提です。
農薬についてもっと知りたい人、新しい情報を知りたい人は……
本記事の参考文献としても活用しましたが、農林水産省と農薬工業会のホームページは内容が充実しているのでおすすめです。
農薬コーナー:農林水産省
農薬をご使用になる方へ|農薬工業会
また新しく登録された農薬や失効したもの、安全性についての最新情報などを素早く知りたい人は、農薬工業会の「Q. 農薬の最新の登録内容や、登録の失効や安全性の情報はどうすれば知ることができますか。」(下記URL)に、情報を知るのに役立つホームページがまとめられているので、こちらもチェックしてみてください。
参考文献