2019年10月30日、ドイツ製薬大手のバイエルが第3四半期の業績を発表する中で、買収したアメリカ総合化学会社モンサントについて以下のような発表を行いました。
10月11日現在、アメリカでのラウンドアップ損賠訴訟の原告が約4万3千人に達した
「ラウンドアップ」とはモンサント社が開発した除草剤です。この「ラウンドアップ」の話題について、日本は無関係・・・というわけにもいきません。何かと話題を呼ぶ除草剤「ラウンドアップ」についてまとめました。
「ラウンドアップ」とは
モンサント社が1970年に開発した除草剤「ラウンドアップ」。農業者だけでなく、家庭菜園の手入れなどにも使われる除草剤ですが、発がん性があると疑われているものでもあります。
世界保健機構(WHO)の専門機関、国際がん研究期間(IARC)は2015年3月、ラウンドアップの主要成分グリホサートは5段階の発がん性分類リストの上から2番目、「発がん性が疑われる」2Aカテゴリーに分類されると報告書を出しました。
ただし、このカテゴリーの信憑性に異論を唱える科学者もいます。また「製品ラベル通りに使用すればグリホサートは安全である」と示す科学的証拠が増えているとして、モンサント社はIARCの評価を否定。WHOに報告書の撤回を求めています。
「ラウンドアップ」の損賠訴訟
ラウンドアップの発がん性に対する損賠訴訟がはじめに起きたのは2018年8月。米国で「学校の校庭整備のために使用したラウンドアップが原因で、悪性リンパ腫を発症した」と末期がん患者がモンサント社に損害賠償を求めました。
この裁判では、「グリホサートにがんを引き起こす可能性がある」と示されたモンサントの秘密文書が明らかになりました。そのため、「モンサント社が、がんの可能性を知りながらも警告しなかった」として損害賠償が認められ、カリフォルニア州サンフランシスコ市は2018年8月10日、モンサント社に2億8,900万ドル(約320億円)の損害賠償金の支払いを命じました。
上記の件を含む3件の訴訟の一審判決で、高額な賠償金の支払いを命じられているモンサント社ですが、「グリホサートはがんを引き起こさないという800を超える科学的研究とレビューがある」と主張し、控訴しています。
モンサント社は、同じような裁判を約5千件抱えているといいます。アメリカとカナダでは、モンサント社の親会社バイエルとともにラウンドアップを販売したホームセンターに対しても、損害賠償を求める訴訟が起きています。
日本と「ラウンドアップ」
なお、日本では店頭でラウンドアップを手にすることができます。
ラウンドアップの商標権、生産・販売権は日産化学工業が保有しています。日産化学工業のHPを見ると、農薬化学品事業の主要製品の中に「ラウンドアップマックスロード®」があります。
ラウンドアップには、モンサント社が開発した遺伝子組み換え作物(ラウンドアップ耐性農作物)とセットで販売する狙いがあったと言われています。そんな狙いを頭に入れた上で、モンサント社のホームページを見ると、ラウンドアップの話題が日本にも関係していることが分かります。
実は日本は「遺伝子組み換え作物の輸入大国」と言われています。モンサントのホームページには「日本の政府機関によって「SmartStaxトウモロコシ」の食品、飼料、環境への安全性が審査、承認された」とあります。これにより、アメリカ、カナダで生産されたSmartStaxトウモロコシは、日本に輸入できるようになりました。
「SmartStax」とは遺伝子組み換え種子のブランドであり、ラウンドアップを含む複数の除草剤耐性を持ちます。
ホームページには以下のような文面もありました。
「世界有数のトウモロコシ輸入国である日本の、SmartStaxトウモロコシの承認は、食品・飼料市場を確保するために重要なものである」
「米国農務省によると、日本のトウモロコシ輸入は、世界のトウモロコシ輸出の20%を占めている」
日本はモンサント社にとって、重要な取引相手なのだと分かります。
安全性に関する研究は二分している
冒頭で「IARCがラウンドアップの主要成分グリホサートの発がん性を指摘した」とご紹介しました。が一方で、モンサント社が訴えるように「グリホサートに発がん性はない」という報告書も存在します。
先にご紹介するデータは古いものですが参考としてご紹介します。2000年5月に日本農薬学会に受理された『グリホサートの毒性試験の概要』によると、
- 毒性試験の結果は「普通物」に相当
- 眼に対する刺激性 軽度〜中等度
- 皮膚に対する刺激性 軽度
- 変異原性(復帰変異、DNA修復、染色体異常)試験 陰性
- 催腫瘍性、繁殖能力に対する影響、催奇形性等(マウス、ラット、ウサギを使用)いずれも認められない
という結果が出されています。
また遺伝子組み換え作物の食品としての安全性においても同様の結果が報告されています。
2004年にサウスダコタ大学のグループが行った研究では、4世代にわたってマウスにラウンドアップ耐性大豆を給餌しましたが、「悪影響を見出すことができなかった」とあります。
2005年、東京都の健康安全研究センターも、2世代にわたる同様の実験を行いましたが、「有意差を見出せなかった」とあります。
これらの結果はすなわち、「2〜4世代ほどの世代数では「遺伝子組み換え大豆」への危険性を見出せない」ということです。
2019年1月には、モンサント社のHPに「There is No Evidence that Glyphosate Causes Cancer(グリホサートの発がん性には根拠がない)」という文面が発表されています。ここで紹介されている論文の考察には
「国際的な試験ガイドライン、GLP(Good Laboratory Practice/優良試験所基準)で規定された条件下でグリホサートの遺伝毒性試験を行ったところ、グリホサート遺伝毒性発がん物質の特性を示さないことがわかった。すなわち発がん性の懸念はない」
「グリホサートに関する40年以上の研究に、発がん性を引き起こすメカニズムについて説得力のある根拠はない」
とあります。
ラウンドアップとどう向き合うべきか
安全性に関する研究結果が二分化している以上、「ラウンドアップを使ってはいけない」と断言することもできません。ですが、もしラウンドアップや除草剤等と向き合うことになったときには、世界と日本の関心、対処の違いについて触れていただきたいです。
それを使うか、使わないかを自分で判断できるよう、一つの事象をあらゆる側面から見ることを心がけましょう。
参考文献
- ラウンドアップ損賠訴訟 原告は4万3千人に急増 有機農業ニュースクリップ
- ラウンドアップでがんに モンサントへ3億ドルの賠償命令 有機農業ニュースクリップ
- 日産化学/農業化学品事業
- ご家庭で使える安心な除草剤|ラウンドアップ マックスロード
- 世界中が禁止するラウンドアップ 余剰分が日本市場で溢れかえる
- SmartStax Corn Receives Japanese Import Approval
- Brake, D. G.; Evenson, D. P. (2004). “A generational study of glyphosate-tolerant soybeans on mouse fetal, postnatal, pubertal and adult testicular development”. Food and Chemical Toxicology 42: 29–36. PMID 14630127.
- 東京都健康安全研究センター情報誌 くらしの健康 第8号 (2005年6月)「生体影響試験が教えてくれること」
- グリホサートの毒性試験の概要 – モンサントカンパニー製品安全性センター