病害の原因を突き止めた?!イネいもち病の要となる遺伝子とは

病害の原因を突き止めた?!イネいもち病の要となる遺伝子とは

2017年農業技術10大ニュースより、もうひとつ興味深い内容を目にしました。
主に稲に感染し害を与えるカビ、通称「いもち病菌」から感染の要となる遺伝子が発見されたと言うのです。

イネいもち病の要となる遺伝子の発見は、その菌が稲に与える害を抑えることに繋がるのではないかと期待されています。今回は、感染の要となる遺伝子「RBF1」についてご紹介していきます。

イネいもち病とは

病害の原因を突き止めた?!イネいもち病の要となる遺伝子とは│画像1

まずはイネいもち病についてご紹介します。いもち病は「Pyricularia oyzae」と呼ばれる糸状菌が引き起こす病気です。

夏涼しく、雨の多い年に発生しやすい病気であり、大凶作をもたらすと言われる厄介な病害です。稲の収穫量を大幅に減らすため、日本に限らず世界中を悩ませる代表的な病害です。

いもち病の原因菌はどれも同じですが、発生する部位によって呼び方が変わることがあります。葉に発生した場合には「葉いもち」、穂に発生した場合には「穂いもち」、また「穂首いもち」「枝梗いもち」「もみいもち」といった具合です。

いもち病の特徴は病斑です。初期段階では、褐色の小さな斑点が見られることが多く、場合によっては淡いピンク色、多数の白斑が見られることもあります。「急性型病斑」と呼ばれる状態になると、斑は紡錘型になります。いもち病菌は斑の上で胞子を形成します。それにより色味はネズミ色に変化し、その周辺は菌の生成する毒素によって黄色く変色します。

冷夏長雨に発生しやすいいもち病ですが、日照が多くなるから回復する、というわけでもありません。日照が多くなれば病斑の拡大は止まりますが、その周辺部は枯死します。まずは植物がいもち病に侵されないように対策を練らなければなりません…。

いもち病の対策には農薬散布や病害耐性を持つ品種を育てることが挙げられています。しかし厄介なことに、“農薬や耐性を持った品種に対する耐性”を持ついもち病菌の変異株が発生する可能性があります。根本的な原因を解決しなければ、いたちごっこになってしまうのです。

 

 

遺伝子「RBF1」とは

病害の原因を突き止めた?!イネいもち病の要となる遺伝子とは│画像2

今回発見された遺伝子「RBF1」は、岩手生物工学研究センターと東京大学生物生産工学研究センターの協力の下、農研機構が発見したものです。

もともと稲を含め植物は、自己防御機能が備わっており、発病を阻止する力を持っています。

しかしいもち病菌は植物の持つ自己防御反応を避けて感染しているようでしたが、その仕組みは今まで解明されてきませんでした。そこで研究グループは、いもち病の遺伝子、感染した際に活性化する約200個の分泌タンパク質を“つくる”遺伝子の中から、もっとも活性化が著しい遺伝子に着目し、機能解明に取り組んだのです。そこで発見されたのが「RBF1」です。

わかりやすく解説するために一部説明を省略しますが、いもち病菌はイネの細胞に侵入し、RBF1遺伝子からつくられたRbf1タンパク質を分泌します。その後、侵入した菌糸の脇にBIC(イネの細胞内膜が集まった突起物であり、侵入菌糸の脇に形成されることは報告されていた)が形成されることで、防御反応が抑制され、感染が進むことが明らかになりました。そのうえRBF1が欠損している菌は、イネに感染することができなかったのです。

防御反応を抑制する要因とされているBICは、エフェクタータンパク質と呼ばれる一群のタンパク質を細胞内に移行するのに寄与します。このタンパク質は、病原となる微生物などが植物に感染する際に分泌するタンパク質なのですが、感染対象となる植物の生理機能を細胞内外でかく乱することで感染を成立させるものです。RBF1遺伝子を欠損しているいもち病菌に感染させると、BICはうまく形成されません。するとエフェクタータンパク質群が細胞内に移行しにくくなり、イネは生理機能を乱されずに済むため、自己防御反応から感染を防ぐことができます。

 

 

遺伝子の発見が、今後の農業にどう繋がるか

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感染の要となるRBF1遺伝子の発見により、この遺伝子の働きを阻害する物質を見つけることで、新たないもち病防除法が確立されると期待されています。どのように遺伝子が活性化され、BICの形成につながるのか、研究グループは引き続きRBF1遺伝子の機能解明を進めています。

最後に、遺伝子の発見が今後の農業にどう繋がるのか、期待できるケースを病害虫関連以外のものでご紹介します。東京農業大学は、ダイコンの根が大きくなる過程で働く主要な遺伝子群を同定しました。大根の全ゲノム配列を解読することで、根が丸々と太ったダイコンを形成するしくみや生理機能に迫りました。そして根が大きくなるタイミング、太ることを促す遺伝子群の同定に成功したのです。この研究によって、ダイコンに限らず、植物の根(貯蔵器官)がどのように発達するか、そのメカニズムを解明につながることが期待されています。

このように野菜の形を形成する仕組みや生理機能も、遺伝子を調べることで解明することができます。遺伝子の発見は、病害虫対策を目的とした開発だけでなく、新しい品種の開発にもつながるのです。

 

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