農薬は作物を病害虫から守り、健全な生育を促進します。そんな農薬を適切に施用することは作物の健康と収量を確保するために重要です。また農薬の効果を最大限に発揮させるためにはその使用方法を理解することも大切です。
たとえば農薬にはさまざまな剤型があり、作物や環境条件に応じて最適なものを選択する必要があります。また、農薬を散布する際は薬剤を正しく希釈することも大切です。
本記事では、さまざまな農薬の剤型とそれぞれの特性、薬剤の適切な希釈・混合の方法について取り上げます。
さまざまな剤型
農薬を選ぶ際には、まずその剤型に注目する必要があります。剤型とは、農薬の物理的な形態を指し、散布方法や作物への影響に大きく関わります。一般的に、農薬の剤型は以下の2つに分けられます。
水に希釈して使用するもの
剤型 | 備考 |
水和剤 | 粉末状の農薬原体に分散剤や界面活性剤を加えて水で懸濁させたもの |
フロアブル剤 | 水和剤の一種。固形の有効成分を微粒子状にして水に分散させたもの |
顆粒水和剤 | 水和剤に少量の水を加えて顆粒化し、乾燥させたもの |
ドライフロアブル剤 | 水和剤の一種で、顆粒状の製剤。水中に投入されると速やかに崩壊して分散する |
水溶剤 | 水に溶ける粉状や粒状の固体製剤。水に溶かして使用する |
顆粒水溶剤 | 水溶剤に集合剤などを加え、顆粒状にしたもの |
乳剤 | 水に溶けにくい農薬原体を有機溶剤中に乳化した液体製剤。水に乳濁させて使用する |
EW剤 | EMはEmulsion oil in waterの略称。水に不溶な有効成分を乳化剤で水中に乳化させて作られた液体製剤 |
液剤 | 水溶性の有効製剤を液体の製剤としたもの。薬の有効成分が水に溶けるため、水に薄めても透明。そのため、水と間違えないように着色剤を入れているものもある |
ME液剤 | MEはmicro emulsionの略称。水に溶けない有効成分を少量の有機溶剤や界面活性剤で水に分散させたもの |
マイクロカプセル剤 | 微粒子(マイクロカプセル、農薬原体が高分子の薄膜で覆われている)を水に懸濁させたもの |
そのまま使用するもの
剤型 | 備考 |
粉剤 | そのまま使用される粒径300~1700µmの細粒。さまざまな製造方法があり、たとえば農薬原体を粘土などの鉱物質に練り込んだものや、農薬原体を多孔性鉱物質にしみ込ませたものなどがある |
ジャンボ剤 | 粒剤の一種。タブレット状のものもあれば、粒剤・錠剤・粉末などを水溶性フィルムで包んだパック状のものもある |
油剤 | 水に溶けない有効成分を有機溶剤に溶かしたもの |
ペースト剤 | ペースト状の製剤 |
くん煙・くん蒸剤 | 加熱によって有効成分を煙状の微細な粒子として空中に拡散させ、作物や病害虫に効力を発揮させるもの |
一般的な剤型の特性
それぞれの剤型には、散布方法や適用環境に応じた特性があり、目的に合った選択が重要です。
たとえば、農薬の有効成分を粉末状に加工し、水で懸濁させた「水和剤」や、「フロアブル剤」は液体状のため、広い面積に均一に散布する場合に適した剤型です。特に病害虫防除に効果的な剤型で、作物表面に均等に付着させることができます。
ただし、水和剤においては有効成分が沈殿しやすいため、散布中に撹拌が必要です。
一方、粉末状の農薬である「粉剤」は、水の便が悪い場所など水源が限られている場所や作物の根元に直接散布したい場合に便利な剤型です。
特にイネに散布すると葉鞘や株元によく付着するため、紋枯病やウンカ類などに効果を発揮します。ただし、細く縦にまっすぐ伸びたイネの葉に対しては十分に薬剤が付着するものの、一般に葉が大きく生えている方向もバラバラな野菜や果樹では散布むらが大きくなることから、野菜や果樹へはあまり有効でなく、粉剤の使用は不適といえます。
また、風が強いと飛散しやすく、ほかの作物やヒトの体への付着、環境汚染などが起こりやすいので、使用する際は風のないときに使用する必要があります。
そのほか、長期間にわたって薬効を持続させたい場合、薬剤の再散布を避けたい場合には、有効成分がコーティングされた「マイクロカプセル剤」が便利です。
剤型に関する注意点
水和剤や粉剤において先述したように、水和剤は有効成分が沈殿しやすいために散布中の撹拌が必要であるとか、粉剤は風が強いと飛散しやすいので原則風のない日に散布するとか、剤型ごとに注意点があります。
たとえば油性成分を含む「乳剤」は、害虫の体表のクチクラが水を跳ねるような害虫であっても薬剤が付着しやすいため、薬剤が付着しにくい害虫へも有効な剤型ですが、自動車や建物の塗装面に付着するとそれらの塗料を溶かす可能性があります。そのため、周囲への飛散に注意が必要です。
また薬剤成分は同じで、剤型が複数ある製剤が販売されていますが、登録が異なる、それぞれの剤型によって適用病害が異なる場合があることにも注意が必要です。
農薬を使用時には必ず、農薬登録情報を確認してください。なお、農林水産省が公開する「農薬登録情報提供システム」など、登録情報を調べるのに役立つウェブサイトは多々ありますのでぜひご活用ください。
農薬を効果的に使用するために(薬剤の希釈)
薬剤の正しい希釈と混合は、農薬を効果的に使用するうえで重要です。水和剤、フロアブル剤、液剤、乳剤といった薬剤は、水で所定の倍数に希釈する必要がありますが、希釈にかかる手間から適当に、目分量で希釈するのはNGです。
病害虫に対する防除効果、薬害、収穫物への残留性などを考慮し、所定の倍数に希釈して使用する必要があります。ラベルに記載された希釈倍数を厳守してください。
たとえば、「1000倍希釈」と記載されている場合には、薬剤1リットルに対して水1000リットルを加える必要があります。
なお、水和剤の場合は、①所定の薬剤を容器に入れ、②それをごく少量の水でココアを練るようによく練り、③水を加えて撹拌し、④そこから適正な希釈倍数になる量の水を入れて溶かしていきます。少量の水でココアを練るようにして練る工程を飛ばして、いきなり所定量の水を入れると溶けにくいので注意してください。また、有効成分が沈殿しやすいことから散布虫もよく撹拌します。
一方、乳剤やフロアブル剤の場合は、所定の水に所定量の薬剤を入れてよく撹拌します。
※それぞれの剤型の詳しい使用方法、希釈方法、使用上の注意等は、製品販売元のホームページなどでご確認ください。
参考文献:米山伸吾他『新版 仕組みを知って上手に防除 病気・害虫の出方と農薬選び』(農文協、2022年)
参照サイト
(2024年9月9日閲覧)