農薬は農林水産省に登録されたものだけが製造・輸入・販売でき、使用基準については「農薬取締法」によって厳しく規制されています。安全性評価に対しても厳しい評価基準が設けられていますが、消費者の農薬に対する印象は「不安」を示すものが多いのが現状です。
国際環境NGO「グリーンピース・ジャパン」が行った1,000人に対するアンケート調査「有機農産 物と農薬に関する消費者意識調査」では、斑点米の原因であるカメムシの防除に農薬が使われることに対するアンケートで、
- 農薬をかけない方法があるなら、そういうお米でも選びたい 47%
- 茶碗1杯に2~3粒混じっても農薬をかけない方がいい 39%
- 見た目も大事で農薬をかけてもいい 14%
という結果になりました。かつて形のそろった野菜が求められてきましたが、昨今の消費者は「見た目より安全」に意識を向けています。
農薬で考えられるリスク
人が摂取しても問題ないかどうかを確認し、使用基準にも厳しい規定がある農薬ですが、リスクが0というわけではありません。農薬に暴露することで、
- 接触や吸入によって皮膚や眼、呼吸器への悪影響
- 食物を摂取することによって起こる悪影響
- 輸送中の事故
- 誤飲、誤食等
のリスクが挙げられます。
農薬が不安視される現状
ただ冒頭で述べた消費者の農薬に対するアンケート結果と食品安全の専門家のリスク認識をすり合わせてみると、農薬よりもリスクの高いものはたくさん隠れています。例えば「健康への影響に気を付けなければならないと考える項目はどれですか?」という設問に対し、19の項目が用意されました。
- 病原性微生物
- 残留農薬
- 食品添加物
- カビ毒等
- 食品容器等からの溶出化学物質
- ダイオキシン類
- 自然界の金属元素(カドミウム等)
- フグ毒・きのこの毒等自然毒
- BSE(牛海綿状脳症)
- アクリルアミド等
- 動物用医薬品の畜産物への残留
- タバコ
- 偏食や過食
- アレルギー
- 飲酒
- 輸入食品
- 健康食品・サプリメント
- 遺伝子組み換え食品
「選択肢(19項目)の中から気を付ける必要があると思うものを、その必要性の大きい順に10個選んでください」という設問に対し、必要性が大きいと考えられた選択肢には以下のような差がありました。
一般消費者
- 病原性微生物
- 残留農薬
- 食品添加物
- カビ毒等
食品安全の専門家
- タバコ
- 病原性微生物
- 偏食や過食
- アレルギー
農薬はリスク0なわけではありませんが、「農薬=害悪」というわけでもありません。消費者に農薬の安全性や使用意図を伝えるよう心がけることで、消費者の農薬に対する不安を軽減することはできるでしょう。
また農薬が過度に不安視されてしまう理由には、
- メディアやインターネット
- 情報が不足している
- 情報理解力が不足している
ことも挙げられます。特にマスメディアは情報源として大きな影響力があるにも関わらず、根拠や出典なしに「農薬は危険」といった文言が広まることがあります。またこのような情報が人々に到達した際、その分野に関する知識や情報が不足していれば、その情報を鵜呑みにしてしまう人も少なくありません。
農薬の安全性評価
農薬の登録制度
農薬の登録制度とは、国(農林水産省)に登録されたものだけが製造・販売・使用等できる制度です。農林水産省に登録されたもの以外を使用することはできません。この登録には、
- 農薬の品質や安全性についての試験成績を農林水産大臣に申請する
- 申請した内容をもとに食品安全委員会にて「一日摂取許容量」が設定される
- 「一日摂取許容量」をもとに厚生労働省にて残留農薬基準等が設定される
など、さまざまな機関を通じて、農薬の品質面や消費者に対する安全面など、あらゆる角度から評価され、ようやく製造・販売・使用等にたどりつきます。
ポジティブリスト制度
ポジティブリスト制度とは、農薬等が設定した基準値を超えて残留している農作物や食品の製造・輸入・販売を原則禁止にするための制度を指します。先述した「農薬の登録制度」にあるように、厚生労働省は農薬や飼料添加物等について残留基準を設定しています。
残留農薬に対するリスク評価
残留農薬等が認められる農作物や食品の製造・輸入・販売を原則禁止するポジティブリスト制度を紹介しましたが、ここからは残留農薬のリスク評価がどう行われているのかを紹介します。農薬のリスク評価には、
- 動植物を使用した、試験農薬の吸収、代謝、排泄の試験
- 実験動物を使用した、毒性の有無、強さの試験
の大きく2つに分けられます。1,であれば、土壌や水分でどのように農薬が分解されるのか、残留量がどれくらいで減っていくのかを調べることができます。2,の場合は生体を用いることで、人への危険性を予測したり、発がん性や遺伝子等への影響を調べることができます。
とはいえ近年は、省庁や地方自治体等の公的機関が障害者雇用を水増ししていたことが発覚したり、大学の裏口入学や入試操作が発覚したり、企業の品質不正が発覚したりと、謳われていることが本当なのかどうか容易に信じることができない出来事が多発しています。そのため、消費者が「農薬=害悪」と捉えてしまうのも無理はないのかもしれません。生産者はそんな消費者の不安を取り除くために、農薬の使用意図や背景を理解し、誠意をもって栽培を続けましょう。不安を抱えた消費者から問われたとき、真摯に答えることができれば、彼らの不安感を軽減することはできます。
農薬登録の流れ
最後に農薬登録の流れの図を紹介します。
大まかな流れとしては、
- 申請を受けた農林水産省が、農薬の登録可否を問う検査指示をだす
- 提出された試験成績をもとに検査機関が総合的に検査
品質が適正かどうか
毒性の有無
農作物や土壌に対する残留性など - 検査機関が農林水産省に結果を報告する
- 農林水産省が農薬登録可否を決める
あらゆる視点から検査され、ようやっと登録許可が降りるという流れです。この複雑な流れがあるからこそ、農作物を守り、人体に悪影響がない農薬を使用することができるのです。
参考文献