農薬は、農薬取締法により
「農作物(樹木及び農林産物を含む。以下「農作物等」という。)を害する菌、線虫、だに、昆虫、ねずみその他の動植物又はウイルス(以下「病害虫」と総称する。)の防除に用いられる殺菌剤、殺虫剤その他の薬剤(その薬剤を原料又は材料として使用した資材で当該防除に用いられるもののうち政令で定めるものを含む。)及び農作物等の生理機能の増進又は抑制に用いられる植物成長調整剤、発芽抑制剤その他の薬剤をいう。」
引用元:農薬の基礎知識 農林水産省
と定義されています。
農薬はその安全性に関する不安がよく取り上げられています。病害虫予防・対策に役立つ農薬ですが、長期間使うとどのような影響があるのでしょうか。
長期間使用により考えられる影響
農薬が効きにくくなる
除草剤などの農薬を長期間使用することにより、農薬を散布されても生き残る個体が発生し、その農薬の効果が見込めなくなる可能性があります。農薬が効かない雑草、菌などは抵抗性雑草や耐性菌と呼ばれます。
日本で最初に抵抗性が報告された雑草には、除草剤のひとつ「パラコート」に抵抗を示したハルジオンが挙げられます。水田に生える雑草には、除草剤の主成分スルホニルウレア系化合物に抵抗性を示す雑草が出現しています。殺虫剤の主成分として使用されているネオニコチノイドに耐性をもつ害虫も出現しています。
農薬が効きにくくなることへの対策
長期間使い続けることで抵抗性や耐性が出現します。その対策には
- 同じ作用機構の農薬の使用回数を減らす
- 作用機構が異なる農薬をローテーションで使用する
などが挙げられます。
長期間使用で土壌への蓄積はないのか
農薬を長期間使用することで、土壌に農薬が蓄積してしまうのではないかという不安もあるのではないでしょうか。確かに、葉や根元に散布したり塗布したりした農薬は、最終的に地表面に落ちます。長期間使用すれば、土壌に影響が出るのではと思われることでしょう。しかし、そもそも農薬は農薬登録されるための厳しい審査をクリアしなければ販売されることはありません。そのため、土壌中で農薬がどのように消失するかについても調べられています。
まず、農薬の土壌中半減期(土壌中に残る農薬の最高濃度が半分に消失する期間)が180日を超える農薬は登録が保留されます。半減期が100日を超える場合には、後作物残留試験を行わなければなりません。この試験は、農薬を散布した後に栽培する作物中にどのくらいの量の農薬が吸収されるかを評価するものです。この試験で基準値を超えた農薬が検出された場合には、その農薬の登録が保留されることになります。
農薬工業会の「教えて!農薬Q&A」によれば、長期間使用しても土壌中の農薬量は使用回数に比例して増加するわけではなく、比較的速やかに農薬量は落ち着くとされています。消失することが前提として製造されている農薬。そこまで危惧する必要はなさそうです。
農薬が使われる理由
除草剤など、用途別にさまざまな種類のある農薬は、病害虫から農作物を保護するだけでなく、収量や品質を維持する役割も担います。特に病害虫防除に関しては、農薬を使うことで物理的防除よりも少ない労力で農作物を守ることができます。とはいえ先で紹介したように、長期間使用によって抵抗性、耐性をもった病害虫が出現する可能性もあります。使用するのであれば、用法用量を守って適正に使いましょう。
参考文献
1,農薬の基礎知識 詳細 農林水産省
2,農薬を長い間使い続けると、害虫、菌類や雑草に対して効果がなくなるというのは本当ですか。 農薬工業会
3,技術情報 除草剤抵抗性雑草とその防除 公益財団法人日本植物調節剤研究会
4,生態系への影響 一般社団法人アクト・ビヨンド・トラスト
5,散布された農薬は土壌中にたまっていくのではないですか。 農薬工業会