今さら聞けない「ネオニコチノイド系農薬問題」。脱ネオニコへの動きについて。

今さら聞けない「ネオニコチノイド系農薬問題」。脱ネオニコへの動きについて。

ミツバチ大量死の原因といわれている「ネオニコチノイド(以下、ネオニコ)系農薬」。本記事では、ネオニコ系農薬の何が問題となっているのか、「脱ネオニコ」への動きについて紹介していきます。

 

 

ネオニコ系農薬とは

今さら聞けない「ネオニコチノイド系農薬問題」。脱ネオニコへの動きについて。|画像1

 

ネオニコ系殺虫剤は、平成5年頃から使われている殺虫剤の総称であり、農薬取締法に基づき、7つの化学物質がネオニコ系殺虫剤として登録されています。

  • イミダクロプリド
  • アセタミプリド
  • ニテンピラム
  • チアメトキサム
  • チアクロプリド
  • クロチアニジン
  • ジノテフラン

これらには昆虫の神経伝達を阻害する活性があり、さまざまな害虫に広く適用され、また脊椎動物への急性毒性(短期的な影響)が低いことや環境中で分解されにくい(残効性)などの特徴から、長く活用されてきました。

問題になった理由とは

しかし近年、ネオニコ系殺虫剤による脊椎動物の免疫機能、生殖機能の低下といった慢性毒性(長期的な影響)が報告されるようになりました。

有名な「ミツバチ大量死」については、ネオニコ系殺虫剤との直接的な因果関係は科学的に立証されていないのが現状ですが、ネオニコ系殺虫剤の使用が広まった同時期に、世界各地でハチの大量死が相次いで報告されています。ハチは農業において花粉媒介という重要な役割を担っています。そのためヨーロッパでは、2000年代初頭にネオニコ系殺虫剤を規制する動きが始まりました。

先で述べた通り、近年は脊椎動物に対する影響についても報告されています。例えばEU(欧州連合)でEFSA(欧州食品安全機関)は、イミダクロプリドとアセタミプリドに「低濃度でも人間の脳や神経の発達に悪影響を及ぼす恐れがある」とまとめています。

日本でも、2012年に東京都医学総合研究所などが論文を発表。ラットの培養細胞を用いた実験を行い、「この2種類が微量でも人間の脳の発達に悪影響を及ぼす可能性がある」と指摘しています。

 

 

脱ネオニコへの動き

今さら聞けない「ネオニコチノイド系農薬問題」。脱ネオニコへの動きについて。|画像2

 

ミツバチ大量死や人間の脳や神経の発達への悪影響について、研究が進められているネオニコ系殺虫剤。科学的に立証されていない部分もありますが、いち早く使用規制を始めたヨーロッパのように、今後、ネオニコ系殺虫剤の使用が規制される可能性もあります。

日本では2020年6月、環境省が農薬登録の新たな影響評価として、野生ハナバチ類(ニホンミツバチなど)への毒性を追加すると発表しました。農薬全般への制度改正ではありますが、ネオニコ系殺虫剤の使用制限に関する内容だと考えられています。

なお、来年度から「再評価制度」が始まります。これは、これまで単に登録延長されていた農薬が、15年ごとに最新の科学基準に基づき再評価されるものです。もちろん野生ハナバチ類への影響も再評価の一部です。

現在ある農薬の全てがすぐに再評価されるわけではありませんが、再評価によって既存の農薬が使えなくなったり、使用が制限される可能性も。そのため「脱ネオニコ」に移行する準備をしておいてもいいかもしれません。

殺虫活性の高いネオニコ系殺虫剤を使わない栽培は決して簡単なものではありませんが、ネオニコ系殺虫剤の代替剤(益虫やハチ類に影響の少ない殺虫剤)を使う、物理的、生物的防除策を組み合わせる、害虫が発生しないよう耕種的防除(病害虫が発生しやすい環境条件を排除することで、病害の発生を抑制する方法)を行うなどの方法で、脱ネオニコの準備を進めてみてはいかがでしょうか。

 

参考文献

  1. 「ネオニコチノイド系殺虫剤」って何ですか? – 埼玉県環境科学国際センター
  2. ネオニコチノイドとは? – 一般社団法人 アクト・ビヨンド・トラスト
  3. ミツバチに毒性懸念の農薬、人間の脳にも影響か:日本経済新聞
  4. 現代農業9月号(一般社団法人農山漁村文化協会、2020年9月)

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