農薬を安心・安全に使用するために知っておきたい基礎知識②。農薬はどのように分解されているのか。

農薬を安心・安全に使用するために知っておきたい基礎知識②。農薬はどのように分解されているのか。

本記事では、農薬を安心・安全に使用するために知っておきたい農薬の基礎知識と題し、農薬がどのように分解されているのか、ご紹介していきます。

 

 

農薬はどのように分解されているか

農薬を安心・安全に使用するために知っておきたい基礎知識②。農薬はどのように分解されているのか。|画像1

 

殺虫剤や殺菌剤、除草剤など目的によりさまざまな農薬がありますが、いずれも、目的に対して効果を発揮した後は速やかに分解されることが望まれます。

田や畑に使用された農薬は、動植物や土壌微生物による生物的な分解と、太陽光線による光分解や水による加水分解といった非生物的な分解によって、比較的速やかに分解され、時間とともに消失していきます。

生物的な分解と非生物的な分解では、動植物や土壌微生物による分解、すなわち生物的な分解が最も大きな影響を与えます。村尾澤夫、荒井基夫共編『応用微生物学 改訂版』(培風館、1982年)では“残留性の少ない、微生物分解を受けやすい農薬が安全性の高い農薬ということになる”とあります。

光分解

土壌中では生物的な分解が主としたものになりますが、太陽光が十分に入射する水中や土壌表面、大気中などでは光化学反応による分解が主体になります。刊行年は古いですが、『植物防疫VOL44』(1990年11月、日本植物防疫協会)の記事「農薬の光分解」によると、光化学反応は

  • DIRECT PHOTOLYSIS(化合物の分子自身が光エネルギーを吸収することで起こる場合)
  • INDIRECT PHOTOLYSIS(共存する物質を介して起こる場合)

に分けられます。

端的にいえば,ある物質が純水中で光分解される場合がDIRECTPHOTOLYSISで,その溶液に他の物質を添加してはじめて光分解される場合がINDIRECTPHOTOLYSISである。

引用元:中川昌之「農薬の光分解」9ページ『植物防疫VOL44』(1990年11月、日本植物防疫協会)

記事によると、農薬の多くが、地表で光化学反応を起こすと考えられる領域の光(290〜450nm)を吸収するとのこと。

地表で光化学反応を引き起こすと考えられる光の領域は290~450nmである(Crosby,
1969)。この波長光の吸収は98.6~63.5kcal/molの励起エネルギーに相当し,これは種々の共有結合の解離エネルギーに匹敵する。したがって,この波長領域に吸収スペクトルを持つ物質はDIRECTPHOTOLYSISを起こす可能性があり,実際,多くの農薬がこの領域の光を吸収する。

引用元:中川昌之「農薬の光分解」9ページ『植物防疫VOL44』(1990年11月、日本植物防疫協会)

上記にある「励起」とは、量子力学において原子や分子が外からエネルギーを与えられ、エネルギーの低い安定した状態からエネルギーの高い状態へと移ること。続く“種々の共有結合の解離エネルギーに匹敵する”とは、電子を共有することでできる結合(共有結合)を切断するのに必要なエネルギーに匹敵する、ということです。

土壌表面や大気中に届く領域の光を農薬が吸収することで、DIRECT PHOTOLYSISが引き起こされます。

また光分解を促進する物質(光増感物質)の影響を受けてINDIRECT PHOTOLYSISを起こす場合もあります。光増感物質にはカルボニル化合物(アセトン)、クロロフィルなどが挙げられ、加えて自然環境にも天然の光増感物質が広く存在しています。

加水分解

加水分解とは

化合物に水が作用して起こる分解反応。塩(えん)を水に溶かすと酸と塩基に分解する反応があり、加水解離ともいう。有機化合物ではエステルやたんぱく質などが水と反応して酸とアルコールや、アミノ酸などができる反応などがある。

出典元:小学館 デジタル大辞泉

のこと。

農薬によって分解の程度は異なり、速やかに分解するものもあればゆっくり分解するものもあります。

動植物や微生物による分解

農薬の一部は、植物体内に吸収されて植物が持つ分解酵素によって代謝分解されたり、植物が生育し、肥大することで薄まるなどの形で分解されていきます。

微生物は、一種類の農薬に対して多種類の分解菌が存在し、それらは

  • 農薬を、自分の体を作るのに必要な材料(酸素、炭素、窒素など)とエネルギー源として利用できる微生物(農薬資化性菌)
  • 共代謝※によって分解する微生物

に分類されます。

※共代謝について
微生物がある有機物を分解するとき、それを増殖のための基質やエネルギー源として使っていない場合の代謝(引用元:土壌・地下水における微生物の分布

農薬資化性菌は、農薬の構成成分を増殖に利用することができるため、同じ種類の農薬を連続散布すると、増殖して土壌中の菌密度が上昇し、農薬を分解する働きも良くなります。

共代謝によって農薬を分解する微生物の場合は、農薬の分解によってエネルギーが得られるわけではないため、農薬を分解しても菌密度の上昇にはつながりません。よって農薬を分解する働きも大きくは変わりません。ただ、これらの微生物が農薬を分解した際に生じる中間代謝物が他の微生物によって分解されていきます。複数の微生物の共代謝により、農薬は最終的に無機化されていきます。

複数の微生物によって農薬が分解されていく過程からもわかるように、土壌微生物の多様性はとても重要です。

 

 

安心・安全に使うために

農薬を安心・安全に使用するために知っておきたい基礎知識②。農薬はどのように分解されているのか。|画像2

 

生物的、非生物的な分解により、田畑に使用された農薬は時間をかけて消失していきますが、これは農薬のラベルに記載されている使用方法(使用時期や使用濃度など)を守って使用するからこそ。

また土壌微生物による分解でも書きましたが、土壌微生物の多様性が保たれていることも重要です。農薬の適切な使用のみならず、農薬以外の防除法を取り入れたり、土作りを行うなどして、農作物を育てる環境そのものを整えることも大切です。

 

参考文献

  1. 村尾澤夫、荒井基夫共編『応用微生物学 改訂版』(培風館、1982年)
  2. 安全・安心の農業使用のための発信情報|農薬をご使用になる方へ|農薬工業会
  3. 農薬の基礎知識 詳細:農林水産省
  4. そのまま食べても大丈夫?|教えて!農薬Q&A|農薬工業会
  5. 農薬の光分解 – 日本植物防疫協会
  6. 【高校理論化学】結合エネルギーと解離エネルギー|受験の月
  7. Q17:水に薄めた薬剤は取り置きできないのですか?|住友化学園芸
  8. 土壌・地下水における微生物の分布
  9. 日本の農業を土から変える「微生物」。|食|RADIANT – 立命館大学研究活動報
  10. 土壌における農薬分解菌の生態 – 島根大学学術情報リポジトリ

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