農薬を使用する際は、農薬取締法に基づき、その薬剤の登録内容をよく理解し、適正に使用する必要があります。
農薬取締法の目的は、第一章第一条に記載されています。
第一条 この法律は、農薬について登録の制度を設け、販売及び使用の規制等を行うことにより、農薬の安全性その他の品質及びその安全かつ適正な使用の確保を図り、もって農業生産の安定と国民の健康の保護に資するとともに、国民の生活環境の保全に寄与することを目的とする。
引用元:農薬取締法第一章第一条
上記目的に基づき、使用方法を厳守しない場合や農薬登録時に定められた使用回数や使用量、使用時期などを厳守しない場合は、農薬取締法違反となります。
そこで本記事では、農薬ラベルに記載されている内容に着目。薬剤を理解し、適正に使用することができるよう、解説していきます。
農薬ラベルに記載されていること
農薬ラベルの表面と裏面に記載されている内容を以下に示します。
なお農薬の中にはラベルが巻物状になっているものもあります。ラベルに記載する文字の大きさについて、農林水産省は約2.8mm以上にするよう推奨していますが、それが物理的に難しいものもあるため、下記で紹介する「登録番号」と「最終有効年月」以外はそれより小さくしてもよいことになっています。
まずは表面から。
<表面>
内容 | 備考欄 | |
RACコード※1 | 農薬の効き方の違い(作用機構分類)を表す | 現時点で表示義務はない |
名称 | 農薬の名前(商品名) | |
一般名※2 | 農薬の種類を表す名前 | 例:「マンゼブ水和剤」など |
農薬の種類 | 殺菌剤、殺虫剤、殺虫殺菌剤、除草剤など | |
登録番号 | 農薬が登録されている証 | 登録番号がない農薬は使えない |
製造場の名称および所在地 | 製造メーカーとその所在地 | |
剤型(ざいけい) | 目的、用途に応じて適切な形に製造したものの形 | 例:粉剤、粒剤、水和剤、水溶剤など |
有効成分※3 | 効力をもつ成分 | 農薬の使用回数は成分ごとに数える |
内容量 | 容器の重量を含めない量 | |
有毒性 | 毒性・危険物の表示を示したもの | 毒物、劇物は印鑑がないと買うことができない |
※1
RACコードは、農薬業界の国際的な組織「世界農薬工業連盟」の対策委員会が、すべての農薬を作用する仕組みごとに分類し、番号と記号を振ったもの。これらのコードは3つの対策委員会がそれぞれの管轄の農薬について作成しています。
- 殺虫剤はIRACコード
→殺虫剤抵抗性対策委員会(Insecticide Resistance Action Committee;IRAC)が作成 - 殺菌剤はFRACコード
→殺菌剤抵抗性対策委員会(Fungicide Resistance Action Committee;FRAC)が作成 - 除草剤はHRACコード
→除草剤は除草剤抵抗性対策委員会(Herbicide Resistance Action Committee;HRAC)が作成
このコードを見れば、農薬の系統が一目でわかります。
RACコードは一般社団法人農山漁村文化協会が運営するデータベース「ルーラル電子図書館」でも確認することができます。有料・会員制のサービス(2021年現在、年会費税込26,400円)ではありますが、「登録農薬検索コーナー」で農薬の情報を調べることができます。
※2
農薬ラベルには商品名だけでなく農薬の一般名(種類名)も記載されます。その農薬がどのようなものなのかを知るには、商品名よりも一般名の方がわかりやすい場合があります。商品は別でも中身は同じ、ということもあります。一般名は大抵「有効成分+剤型」の表記になっています。
※3
農薬の使用回数は有効成分ごとに数えます。例えば「商品名は違うが有効成分が同じ」殺菌剤Aと殺菌剤Bがそれぞれ生育期間中に3回使用できるとします。その場合、Aを1回使ったら、Bは2回しか使うことができません。AとBをそれぞれ3回ずつ使えるわけではない、ということです。
<裏面>
内容 | 備考欄 | |
適用病害虫と使用方法※4 | 使える作物、効果のある病害虫、希釈倍率、使用回数、使用方法など | |
効果・薬害等の注意 | 使用時の注意事項やポイントなど | 例:〇〇(害虫名)の卵と蛹には効きにくいため、繰り返し散布すること |
保管方法 | 適切な保管方法について | |
最終有効年月 | その農薬の使用が有効な期間について | |
安全使用上の注意 | 使用上の注意など | 例:散布時にはマスクを着用すること |
※4
適用病害虫や使用方法は、いち作物ごとに確認しましょう。例えば、茎ブロッコリーとブロッコリーは「ブロッコリーに使える農薬を探せばよいだろう……」と考えてしまいそうですが、それぞれ異なる農薬が登録されています。どちらか一方には使えない農薬もあるので、必ず確認するようにしましょう。
農薬を保管する際、注意すべきこと
誤飲や誤用、品質の悪化を防ぐために、保管する際は以下の注意事項を必ず守りましょう。
- 使用者以外が入れないよう、保管場所には必ず鍵をかける
- 誤用を避けるため、農薬の種類ごとに区別して保管する
- 誤飲や誤用を防ぐため、他の容器には絶対に移し替えない
- 毒物・劇物の農薬は、鍵のかかる専用の場所を設けて保管し、「医薬用外毒物」「医薬用外劇物」などと表記する
- 収穫物などの食品とは区別して保管する
- ラベルに記載された内容を遵守し、保管する 等
注意事項をより詳しく知りたい場合には、ぜひ参考文献6、7を確認してください。当たり前のことですが、ラベルに記載されている内容を守り、あらゆるヒヤリハット事例を想定して、保管・管理を行いようにしましょう。
参考文献
- 農薬取締法(最終改正:令和2年12月1日施行)
- 農文協編『今さら聞けない 農薬の話 きほんのき』(2019年、一般社団法人農山漁村文化協会)
- (参考)農薬の作用機構分類コードについて
- 農薬ラベルの読み方|日本農薬株式会社
- 農家の悩みや課題に応える農業情報サイト|ルーラル電子図書館
- 農薬保管・輸送マニュアル|全国農業協同組合
- 農薬の保管・管理・廃棄等|農薬をご使用になる方へ|農薬工業会