今さら聞けない農薬のしくみ。殺虫剤はどのように効く!?

今さら聞けない農薬のしくみ。殺虫剤はどのように効く!?

化学農薬は、病害虫や雑草が発生してからの対処に役立ちます。

化学農薬を用いずに病害虫や雑草を発生させないようにするための対処には、耕種的防除法、物理的防除法、生物的防除法といったさまざまな対処がありますが、これらの方法は、コストや労力への配慮も必要とする農業経営において負担がかかると感じられることもあります。

その点、化学農薬はコスト面や省力化、目的の病害虫・雑草に対してピンポイントで効果を発揮するといった、省力・低コストで安定的な農作物の栽培には重要な存在です。

本記事では、そんな化学農薬のうち、殺虫剤がどのようにして目的の害虫に作用しているかをご紹介します。

なお、農薬の用途と剤型別の分類については以下の記事を参照してください。

化学物質を有効成分とする農薬の分類について。

 

 

殺虫剤はどのように効くのか

今さら聞けない農薬のしくみ。殺虫剤はどのように効く!?|画像1

 

殺虫剤の効き方を大まかに分類すると以下の通りです。

神経に作用するもの
筋肉に作用するもの
生育および発達に作用するもの
呼吸(エネルギー)に作用するもの
消化管に作用するもの
その他

神経に作用するもの

神経に作用するものは、神経細胞の興奮や抑制に係る「チャネル」に作用します。どのように作用しているのか、神経伝達の流れから順を追って見ていきます。

光や痛みなど、見たり触れたりした際に受けた刺激は、「シグナル」(その刺激の生化学的な情報)として神経系統を通り、中枢神経(脳)まで伝達され、そこから刺激に対する行動を指示するシグナルが別の神経系等を経て筋肉などに伝えられます。

神経細胞の節目では、化学的な伝達物質の放出や受容体結合といった形でシグナルが伝達されていきます。

細胞膜にはNa+(ナトリウムイオン)チャネルやK+(カリウムイオン)チャネル、Cl-(塩素イオン)チャネルなどといった分子量の小さいイオンを通す孔(チャネルタンパク)がありますが、たとえば刺激が与えられることでNa+チャネルが開いて、細胞内にナトリウムイオンが流れ込んだり、アセチルコリンが受容体に結合して、その刺激によってカルシウムイオンが放出されたり、といった形で伝達が起こります。

神経伝達の流れや細胞内外の物質の移動については、下記のウェブサイトでわかりやすく解説されています。ぜひ参照してください。

【高校生物】「活動電位」 | 映像授業のTry IT (トライイット)
【高校生物】「自律神経の神経伝達物質」 | 映像授業のTry IT (トライイット)
細胞内外間の物質の移動(2)|細胞の基本 | 看護roo![カンゴルー]

神経に作用する殺虫剤はこのような害虫の神経系の働きを、伝達物質を異常に蓄積したり、受容体が働かないようにしたりすることで阻害・撹乱します。

たとえば、神経伝達物質であるアセチルコリンの分解を阻害したり、特定のチャネルに結合するなどしてチャネルを開いた状態にさせるものや、活動電位を抑制させるために特定のチャネルに結合して特定のイオンの流入を阻害するもの、逆に特定のチャネルに結合することで流入させるもの、アセチルコリン受容体に結合してイオンの流入を阻害するものなどがあります。

筋肉に作用するもの

昆虫が筋肉を伸縮させる働きに重要な役割を果たすのがカルシウムイオンです。筋細胞中の筋小胞体というカルシウムイオンを蓄える細胞内小器官からカルシウムイオンが細胞質内に放出されると筋肉は縮みます。逆に取り込まれると弛緩した状態になります。

筋肉伸縮のメカニズムについては、下記のウェブサイトでわかりやすく解説されています。ぜひ参照してください。

【高校生物】「収縮メカニズム」 | 映像授業のTry IT (トライイット)

筋肉に作用するものは、このカルシウムイオンを制御する受容体(リアノジン受容体モジュール)に作用して、Ca+イオンチャネルを開いて筋肉を持続的に収縮させることで、摂食行動などを停止させて死に至らしめるものがあります。

生育および発達に作用するもの

キチンの生合成を阻害するものが代表的です。

昆虫などの外骨格はタンパク質とキチン質を主成分としています。脊椎動物の表皮と違い、硬い外骨格をもつ昆虫は、成長するために脱皮をくり返す必要があります。キチンは新しい表皮を合成する中で利用されますが、この生合成が阻害されると、昆虫は脱皮がうまくいかずに死んでしまうか、脱皮できても新しい表皮ができないために脱皮不全などを起こして死んでしまいます。

殺虫剤には脱皮不全を引き起こすものだけでなく、むしろ脱皮を促進することで表皮を異様に厚く硬くするといった脱皮異常を引き起こすタイプの殺虫剤もあります。

そのほか、昆虫ホルモンを制御して、昆虫の変態を阻害するものもあります。昆虫の変態は、幼若ホルモンと脱皮ホルモンのバランスで制御されます。このタイプの殺虫剤、たとえば幼若ホルモンと同様な作用をもった薬剤では、昆虫ホルモンのバランスを乱して孵化を阻害したり、脱皮を妨げたりします。

呼吸(エネルギー)に作用するもの

動物や植物は生体維持に必要なエネルギー源ATP(アデノシン三リン酸)を呼吸によって生産します。ATPの生成にはさまざまな生化学的過程があります。

呼吸に作用する殺虫剤は、このさまざまな過程に作用してATP合成を阻害します。

呼吸の流れに関しては、下記のウェブサイトでわかりやすく解説されています。ぜひ参照してください。

生物基礎 | 高校講座より「呼吸」(PDF)

消化管に作用するもの

消化管内がアルカリ性の昆虫に作用するのが、バチルス・チューリンゲンシス(Bacillus thuringiensis:BT)という細菌が生成する、殺虫活性を示す結晶タンパク質です。この結晶タンパク質は、BTが芽胞を形成する際に生産されます。この結晶タンパク質は昆虫のアルカリ性消化液で活性化され、中腸上皮細胞を破壊します。ただし、この結晶タンパク質は消化管の中がアルカリ性でない昆虫では毒性を現しません。

そのほか、作用機構が不明あるいは不明確な殺虫剤もあります。

 

参考文献:日本植物防疫協会編『農薬概説2021』(日本植物防疫協会、2021年)

参照サイト
殺虫剤はなぜ効くのですか。|農薬はどうして効くの?
(2024年4月14日閲覧)

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