今さら聞けない農薬のしくみ。殺菌剤はどのように効く!?

今さら聞けない農薬のしくみ。殺菌剤はどのように効く!?

本記事では、化学農薬のうち、殺菌剤がどのようにして目的の病原菌に作用しているかをご紹介します。

なお、農薬の用途と剤型別の分類については以下の記事を参照してください。

化学物質を有効成分とする農薬の分類について。

 

 

殺菌剤はどのように効くのか

今さら聞けない農薬のしくみ。殺菌剤はどのように効く!?|画像1

 

殺菌剤は主に以下の3つの作用を示します。

  1. 病原菌を対象に、直接殺菌性や静菌※性を示すもの
  2. 病原菌が感染する仕組みを対象に、その感染を阻害するもの
  3. 病原菌への作用ではなく、作物に抵抗力を与えるもの

※医療分野や食品工業分野において細かな定義は異なるものの、滅菌、殺菌、静菌、除菌には以下の違いがある。

滅菌 病原体・非病原体を問わず、すべての微生物を死滅または除去すること
殺菌 病原菌を含めた有害微生物を死滅させること
静菌 微生物の増殖を阻害または阻止して活動を抑制すること
除菌 目的の対象物から微生物を除去すること

病原菌に直接効果を発揮

病原菌に直接効果を発揮する場合には、以下のように分けられます。

  1. 病原菌が核や細胞壁、細胞膜などの体組織を生合成するのを阻害するもの
  2. 呼吸系を阻害するもの
  3. 増殖を阻害するもの
  4. そのほか複数の作用を示すもの

1.が作用すると、病原菌は正常な成長や増殖などを行うことができなくなります。たとえば遺伝情報を担う核酸の合成を阻害することで、遺伝子自体を減少させたり、遺伝情報を基に生合成されるタンパク質の生成を妨げたりすることができます。結果として、病原菌の増殖を抑えることができます。

もちろんそのほかに細胞膜や細胞壁の主成分の合成を妨げるものもあります。

また病原菌もヒトと同様、酸素を取り込んで糖などを酸化し、エネルギーを得ています。2.は病原菌がエネルギーを獲得する過程の特定の部分を妨げることで、エネルギーを合成できなくするものです。

3.の代表的なものには細胞分裂時の紡錘糸の形成を抑制し、有糸分裂※を妨げるものがあります。

※細胞分裂の過程については以下のウェブサイトによる解説を参照してください。

【高校生物】「中心体の働き」 | 映像授業のTry IT (トライイット)

1.〜3.の代表的な農薬をまとめました。ここで紹介する内容はほんの一部です。

グループ名 有効成分 主な農薬

核酸合成を阻害

フェニルアミド系

メタラキシルなど リドミルなど

カルボン酸系

オキソリニック酸

スターナ

芳香族ヘテロ環系 ヒドロキシイソキサゾール

タチガレン

細胞壁合成を阻害

ポリオキシン

ポリオキシン

ポリオキシン

カルボン酸アミド系

マンジプロパミドなど

レーバスなど

細胞膜合成を阻害

ホスホロチオレート

イソプロチオラン フジワンなど
トリアゾール系 ヘキサコナゾール

アンビルなど

呼吸系を阻害

ピラゾールカルボキサミド

ジフルメトリム ピリカット
ストロビルリン系 アゾキシストロビンなど

アミスターなど

細胞分裂を阻害

ベンゾイミダゾール系

ベノミルなど ベンレートなど
フェニルウレア ペンシクロン

モンセレン

また1.〜3.が特定の部分に作用するものなのに対し、4.に相当するものは複数の部分に作用して効果を示します。多くは病原菌の細胞内の酵素の活動を妨げ、胞子が発芽するのを抑制したり、菌糸が侵入するのを阻害したりといった効果を発揮します。

特定の部分に作用するものは作用点が1つしかないため、薬剤に対する抵抗性がつきやすいという難点がありますが、4.は作用点が複数あることから抵抗性がつきにくいメリットがあります。4.の代表的な農薬には「ボルドー」や「オーソサイド」などがあげられます。

病原菌が感染する仕組みを対象にしたもの

まずイネいもち病菌を例に、病原菌が感染する仕組みをご紹介します。イネいもち病菌はイネ体内に侵入する際、付着器と呼ばれる器官を形成し、体内に細い菌糸を伸ばします。

この際、メラニン色素を蓄積させることで付着器の圧力を上げて菌糸を侵入させているのですが、このメラニンの生合成を抑えると菌糸は侵入できなくなります。よって、このタイプの殺菌剤は病原菌への直接的な殺菌作用はないものの、感染を抑えられるというわけです。

主な農薬には「コラトップ」「アチーブ」「サンブラス」などがあります。

作物に抵抗力を与えるもの

今さら聞けない農薬のしくみ。殺菌剤はどのように効く!?|画像2

 

「プラントアクティベーター(植物活性剤)」「プラントディフェンスアクティベーター(植物防御活性剤)」などと呼ばれる農薬です。病原菌に作用するのではなく、植物自身の抵抗力を高めて病気にかかりにくくします。

代表的なものに「プロベナゾール」と呼ばれるものがありますが、これは植物自らが産生する抗菌性物質の産生力を増強するなどの効果を発揮します。

主な農薬には「オリゼメート」「ブイゲット」「アリエッティ」などがあります。

 

参考文献:日本植物防疫協会編『農薬概説2021』(日本植物防疫協会、2021年)

参照サイト

(2024年5月22日閲覧)

農薬カテゴリの最新記事