農薬コスト低減に向けた取り組みの1つとして「ジェネリック農薬」があげられます。
ジェネリック農薬とは、農薬の有効成分の特許が失効した後、当初その成分を開発したメーカーとは別のメーカーが製造する、当該有効成分を含む農薬のことです。
ジェネリック医薬品は開発期間や開発コストを大幅に抑えることができるのが特徴です。なぜなら当初その成分を開発したメーカーによって、製品としての有効性や安全性が確認されているからです。
このような背景から、ジェネリック農薬は先発農薬より安価で供給できます。そのため、農薬コスト低減に向けた取り組みとして注目を集めています。
なお、ジェネリック農薬には以下の場合もあります。
製造条件の違いにより、先発メーカーが製造する原体と後発メーカーが製造する原体は、有効成分は同じでも、副成分(原体混在物)の組成が異なる場合がある。
出典:参考資料1:ジェネリック農薬の評価の考え方 内閣府食品安全委員会 第2回農薬専門調査会総合評価第二部会 会議資料詳細より)
一般的に、先発農薬とジェネリック農薬は有効成分が同じでも、製剤の手法が異なることがあげられます。そのため、上記のように副成分の組成が異なることがあります。また一般的に、製薬各社はその手法を開示していません。手法の違いと非開示は先発農薬のブランド価値を高めています。
ちなみに、開発された有効成分の特許権を有する者が、特許が失効した後も継続して製造・販売する農薬は「オフパテント農薬」とよばれ、ジェネリック農薬とは区別されます。
日本のジェネリック農薬普及率
ジェネリック農薬は日本国内ではまだまだ身近なものとはいえないのが現状です。
日本国内でジェネリック農薬に類する有効成分はアセフェート、プロパモカルプ塩酸塩、マンゼブ、グリホサートイソプロピルアミン、フェンメディファム、プロピザミドのみです。
<日本で登録されているジェネリック農薬>
有効成分名 |
アセフェート | プロパモカルプ塩酸塩 | マンゼブ | グリホサートイソプロピルアミン塩 | フェンメディファム | プロピザミド |
農薬の分類 |
殺虫剤 | 殺菌剤 | 殺菌剤 | 除草剤 | 除草剤 |
除草剤 |
後発品数 | 9剤 | 1剤 | 8剤 | 54剤 | 2剤 |
1剤 |
※後発品数は令和4年9月末時点のもの。
先発農薬とジェネリック農薬の間で価格競争は起こりますが、同じ有効成分の商品が存在することは、供給や流通の安定化につながります。また一般的に先発農薬とジェネリック農薬では製剤の手法が異なり、副成分の組成が異なることが多いのですが、これにより製剤に必要な副資材等の製造・供給元が複数化すると、これも同じ有効成分の農薬が安定的に供給されることにつながります。
また人口減少が著しい日本では実感しにくいかもしれませんが、発展途上国においては食糧生産の安定化がさしせまって重要な課題となっています。発展途上国の中には、先発農薬の価格が受け入れられない経済環境下にある国もあります。安価に供給されるジェネリック農薬の存在意義は大きいものです。
ジェネリック農薬の普及には課題も
たとえば、日本の場合、栽培体系が多様なこともジェネリック農薬の普及を妨げる要因といえます。
日本で最大の栽培面積を誇る水稲は、アメリカやインド・中国で栽培されているトウモロコシやダイズ、コメの栽培面積の20分の1程度の規模しかありません。それに加え、農業従事者は複数の作物を栽培していることが多い傾向にあります。春から秋にかけて高温多湿となる日本特有の気候において、多種多様な病害虫・雑草が発生します。
確かにジェネリック農薬は安価かもしれませんが、農業従事者からしてみれば、さまざまな作物に利用することができ、害虫・病害・雑草と幅広く対応できる農薬のほうが求められるといえます。
日本で登録されているジェネリック農薬の適用作物を見てみると、1作物にしか農薬登録されていない製品ばかりではないものの、たとえばフェンメディファムは、適用作物の種類が少ないことがわかります。
加えて、ジェネリック農薬を製造・販売するメーカーからみた課題もあります。
日本国内では農薬登録を行うためには、作物残留試験や薬害試験など、あらゆる試験を実施する必要がありますし、登録申請にかかるコストも膨大です。そのうえ、日本は作物の栽培体系が多様なうえ、多種多様な害虫・病害・雑草に農薬登録を行う必要があります。
ジェネリック農薬がアメリカやインド・中国で行われる大規模単一栽培に使用されるのと比べて、投資回収率は格段に低いといえます。
参照サイト
(2024年3月5日閲覧)