近年では、害虫の天敵等を利用した生物的防除や被覆資材等を利用した物理的防除など、農薬のみに頼らない、環境に配慮した防除のあり方が注目を集めていますが、これまで病害虫や雑草から農作物を守るために農薬は使われてきました。
化学的に合成された肥料や農薬を使用しない、遺伝子組換え技術を使用しない「有機栽培」においても、病害虫による影響で農作物に重大な損害が生ずる可能性がある場合には、あらかじめ定められた有機栽培でも使用できる農薬が使用できます。
そこで登場するキーワードに「特定農薬」があります。
「農薬」と「特定農薬」の違いとは
農薬とは
まず、農薬取締法において農薬は以下のように定義されています。
農作物(樹木及び農林産物を含む。以下「農作物等」という。)を害する菌、線虫、だに、昆虫、ねずみその他の動植物又はウイルス(以下「病害虫」と総称する。)の防除に用いられる殺菌剤、殺虫剤その他の薬剤(その薬剤を原料又は材料として使用した資材で当該防除に用いられるもののうち政令で定めるものを含む。)及び農作物等の生理機能の増進又は抑制に用いられる植物成長調整剤、発芽抑制剤その他の薬剤をいう。
引用元:農薬の基礎知識 詳細:農林水産省
冒頭で述べた“害虫の天敵”も「農薬」とみなされます。
特定農薬とは
一方、特定農薬は改正農薬取締法第2条第1項において以下のように定義されています。
その原材料に照らし農作物等、人畜及び水産動植物に害を及ぼすおそれがないことが明らかなものとして農林水産大臣及び環境大臣が指定する農薬
引用元:特定農薬とは?:農林水産省
改正農薬取締法では、無登録農薬の製造や使用を禁止しています。そのため、それまで病害虫防除のために使われてきた木酢液や除虫菊なども規制されることになりました。
しかし、安全性が明らかになっている薬剤や天敵にまで農薬登録を義務付けることになると「過剰規制」になってしまうことから、特定農薬という仕組みが作られました。安全性と薬効が確認されれば、特定農薬として指定されます。
特定農薬は「特定防除資材」とも呼ばれています。これは、この制度の趣旨を分かりやすくするため、また「農薬」がもつ悪いイメージを払拭するために認められた通称です。
特定農薬にはどんなものがあるのか
現在、食酢、重曹、天敵、エチレン、次亜塩素酸水が特定農薬に該当します。特定農薬として検討中のものもあり、今後はその種類が増える可能性があります。
食酢
食酢は殺菌剤として利用されてきました。
- 稲のもみ枯細菌病
- ばか苗病
- ごま葉枯病
への薬効が認められています。
重曹
食品、添加物等の規格基準、飼料および資料添加物の成分企画等に関する省令などに当てはまる炭酸水素ナトリウム、重炭酸ナトリウム、重炭酸ソーダのことを指します。殺菌剤として利用されてきた重曹は、以下の薬効が認められています。
- 野菜類等の灰色かび病
- うどんこ病
- さび病
天敵
昆虫綱及びクモ綱に属する動物(人畜に有害な毒素を産生するものを除く)が特定農薬として認められています。使用場所と同一都道府県で採取されたものに限り、特定の離島においては離島内で採取されたものに限られます。
エチレン
発芽抑制剤、成長促進剤として利用されてきたエチレンは、以下の薬効が認められています。
- ばれいしょの萌芽抑制
- バナナ等の果実の追熟促進
次亜塩素酸水(塩酸又は塩化カリウム水溶液を電気分解して得られたものに限る。)
水に塩化カリウムを加え、電気分解することで得られる酸性電解水には高い殺菌力があり、以下の病害防除に役立ちます。
- 水稲のいもち病、苗立枯病
- キュウリのうどんこ病
- イチゴの灰色カビ病 など
参考文献
- 農薬の基礎知識 詳細:農林水産省
- 特定農薬とは?:農林水産省
- 【有機農業関連情報】トップ ~有機農業とは~:農林水産省
- そのまま食べても大丈夫?|教えて!農薬Q&A|農薬工業会
- 農薬は本当に必要?教えて!農薬Q&A|農薬工業会
- 窪田新之助,山口亮子,『図解即戦力 農業のしくみとビジネスがこれ1冊でしっかりわかる教科書』,2020年7月3日,株式会社技術評論社
- 特定農薬(特定防除資材)として指定された資材(天敵を除く。)の留意事項について