化学物質を有効成分とする農薬の分類について。

化学物質を有効成分とする農薬の分類について。

用途による分類

化学物質を有効成分とする農薬の分類について。|画像1

 

農薬は一般的に用途別に分類されます。一覧は以下の通りです。

  • 殺虫剤
  • 殺菌剤
  • 殺虫殺菌剤
  • 除草剤
  • 植物成長調整剤
  • 殺そ剤
  • その他(農薬肥料、展着剤、忌避剤、誘引剤)

殺虫剤

害虫を防除する薬剤のほか、殺ダニ剤、殺飛虫剤、貯穀害虫防除、畑地くん蒸に用いられるくん蒸剤も殺虫剤に含まれます。

殺菌剤

病原細菌、病原糸状菌を防除する薬剤で、ウイルス病防除剤も含まれます。

殺虫殺菌剤

殺虫剤と殺菌剤を混合した薬剤です。

除草剤

有害な雑草を防除する薬剤です。

植物成長調整剤

農作物の成長や発育をコントロールする薬剤で、品質の向上や収量の増加、収量の安定化など、生産の省力化を目的に使用されます。

殺そ剤

野ねずみを駆除するために用いられます。

農薬肥料

農薬と肥料を混合したものです。

展着剤

農薬が植物の葉や害虫に付着しやすくするための補助的な薬剤です。展着剤自体に薬効はありません。

忌避剤

鳥獣の嫌がる臭いや味、色で鳥獣を寄せ付けないようにするものです。忌避剤自体に対象の動物を殺す作用はありません。

誘引剤

主に昆虫類が特定の臭いや生フェロモンなどに引き寄せられる性質を利用したもので、害虫の発生を前もって察したり、交尾行動をかく乱して繁殖を防いだりといった用途で用いられます。

 

 

剤型による分類

化学物質を有効成分とする農薬の分類について。|画像2

 

農薬にはさまざまな剤型があります。剤型とは薬剤の形を指し、財形の違いは有効成分が効き始めるまでの時間や持続時間、効力などの違いにつながります。

農薬の剤型はドリフト(農薬の飛散)に影響を与えます。後述する「粉剤」は微粉(45μm以下)となるように製剤化したものであり、ドリフトが生じやすいです。そのため、ドリフト防止のため、粒剤や「DL粉剤」へと切り替わっています。

DLはdrift lessの略称で、ドリフトを軽減するために開発されました。一般的な粉剤の平均粒子径は15μm前後ですが、DL製剤は平均粒子径が20μm〜25μmです。

剤型による分類は以下の通りです。

  • 粉剤
  • 粒剤
  • 粉粒剤
  • 粉末
  • 水和剤
  • 水溶剤
  • 乳剤
  • 液剤
  • 油剤
  • エアゾル
  • ペースト剤
  • くん煙剤
  • くん蒸剤
  • 塗布剤
  • マイクロカプセル剤

粉剤

微粉(45μm以下)となるように製剤化したもの。

粒剤

細粒(300〜1,700μm)となるように製剤化したもの。

粉粒剤

微粉、粗粉、微粒および細粒が混ざり合ったもの。

粉末

粉状の製剤のうち、他の剤型に該当しないものの総称。分類としては非常に紛らわしいですが、規格化された粉剤と明確に分けるために剤型名が設けられています。

水和剤

水になじむ性質を持ち、水に混ぜて用いるものを指します。最初から水と混ざった状態の「フロアブル剤」「ゾル剤」、乳化※できる有効成分と水にも溶剤にも溶けない乳化できない有効成分が水に混ざった状態の「サスポエマルション剤」も水和剤に含まれます。

※乳化とは本来混ざり合わないもの同士が、どちらか一方に分散し、均一な状態となっていること(出典:【第1回】乳化と乳化剤 | 乳化剤講座 | 食と健康Lab | 太陽化学株式会社)。

水溶剤

水に溶ける性質の粉状、粒状などの固体の製剤で、水に溶解して用いるもの。

乳剤

農薬の有効成分に乳化剤などを加えた液体の製剤で、水に乳濁※させて用いるもの。

※乳濁液:水と油のようにたがいにとけ合わない液体の一方が他の液体の中に微細粒子となって分散しているもの。エマルジョンともいう(出典:にゅうだくえき【乳濁液】 | に | 辞典 | 学研キッズネット)。

液剤

水に溶ける性質の液体の製剤で、そのまま用いるか、水に希釈したり溶かしたりして用いるもの。

油剤

水に溶けない液体の製剤。そのまま用いるか、有機溶剤に希釈して用います。

エアゾル

内容物が高圧ガス容器からバルブを通して霧状に噴出する農薬の総称です。

ペースト剤

粘状の剤型で、他の剤型に該当しないもの。

くん煙剤

通常、発熱剤や助燃剤を含んだもので、加熱によって有効成分を煙状にして使用します。

くん蒸剤

該当する有効成分などを密閉するなどの条件下で気化させて、殺虫・殺菌などに用います。

塗布剤

農作物などの一部に塗布するなどの方法で使用するものの総称。

マイクロカプセル剤

有効成分を膜物質によって均一に被覆したもの。水に懸濁されているため、外見は水和剤と同様に液状です。膜物質で覆うことで農薬の有効成分が光による分解や揮散によって消失するのを抑えます。

 

 

化学組成による分類

化学物質を有効成分とする農薬の分類について。|画像3

 

農薬の大部分が化学物質を有効成分とする「化学農薬」です(対して、微生物剤や天敵などは「生物農薬」と分類されます)。化学組成による分類は多岐に渡りますが、大まかに分けると以下のように表せます。

  • 殺虫剤 有機リン系、カーバメート系、ピレスロイド系、ネオニコチノイド系など
  • 殺菌剤 銅、有機リン系、ベンゾイミダゾール系、ジカルボキシイミド系、ストロビルリン系、抗生物質など
  • 除草剤 フェノキシ系、アミド系、スルホニルウレア系、ジニトロアニリン系、トリアジン系、カーバメート系など

化学組成による「〜系」といった分類のほか、有効成分が作用するしくみ(作用機構、たとえば神経系に作用するものなど)別の分類など、あらゆる形で分類されるため、まどろっこしく思えるかもしれません。

ですが、化学組成や有効成分名で使用する農薬を捉えることは、害虫が薬剤に対して抵抗性を獲得したり誤った使い方で農薬が残留基準値を超えてしまったりといった自体を防ぐことにつながります。

たとえば「スミオチン」という農薬の場合、「スミオチン」は商品名であり、一般名(日本国内で登録する際につけられる有効成分の名称)は「MEP」です。

「スミオチン」という農薬の、国際標準名(ISO(国際標準化機構)により承認された有効成分名、「ISO一般名」とも呼ばれる)は「フェニトロチオン」です。このフェニトロチオンは先述した系統でいうと有機リン系の殺虫剤です。

最も注目すべきは一般名(および国際標準名)です。

農薬のラベルには使用上の注意が記載されています。用法・用量の指示にしたがって使用されているとは思いますが、農薬の商品名が違っても、有効成分が同じ場合に注意が必要です。ローテーション散布を行う際、有効成分が同じ場合では、ローテーションの意味がなくなってしまうからです。

 

参考文献:日本植物防疫協会編『農薬概説2021』(日本植物防疫協会、2021年)

参照サイト

  1. 農薬には、どのような種類があるのでしょうか。|農薬はどうして効くの?|教えて!農薬Q&A|JCPA農薬工業会
  2. 農薬の適正使用について/とりネット/鳥取県公式サイト
  3. 農薬の剤型による分類 | 日本農薬株式会社
  4. 防蟻剤製剤について
  5. 粒子を細かく、均一に ―分散― | 日本化粧品工業会
  6. にゅうだくえき【乳濁液】 | に | 辞典 | 学研キッズネット
  7. 農薬の剤型とその特徴
  8. 展着剤の役割と使い方 | 日本農薬株式会社
  9. フェニトロチオン(MEP) Ⅰ.評価対象農薬の概要
  10. ~農薬ラベルの読み上げ運動~
  11. スミチオン乳剤

(2024年3月22日閲覧)

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