生物農薬市場の今。微生物の農業利用が高まる理由とは。

生物農薬市場の今。微生物の農業利用が高まる理由とは。

生物農薬とは、「有害生物の防除に利用される、拮抗微生物、植物病原微生物、昆虫病原微生物、昆虫寄生性線虫、寄生虫あるいは捕食性昆虫などの生物的防除資材」(引用元:日本植物防疫協会『農薬用語辞典』2009)のことで、生きた状態の微生物や昆虫などが生物農薬として製品化されています。

利用される生物には

  • 天敵昆虫
  • 天敵線虫
  • 微生物

が挙げられます。

生物農薬の例でいうと、天敵昆虫であれば、テントウムシやカブリダニなど、害虫を餌として食べる「捕食性昆虫」と、ハチやハエなど、害虫となる生物に産卵し、孵化した幼虫がその生物を餌にして殺す「寄生性昆虫」があります。天敵線虫は昆虫に寄生するものが利用され、微生物は虫や病害の原因となる微生物やウイルスを殺すものが挙げられます。

近年、そんな生物農薬の市場が成長傾向にあるといわれています。

 

 

生物農薬市場は成長傾向にある

生物農薬市場の今。微生物の農業利用が高まる理由とは。|画像1

 

生物農薬の利用が高まっている

生物農薬は、経済的かつ環境的に持続可能な農業生産に利用する資材として、自然環境への有害な影響が少ない、比較的安全なものとして知られています。

従来の農薬は、標的となる生物の他に、益虫となる昆虫や鳥類、哺乳類にも有害である可能性が示されていますが、生物農薬は標的となる生物やその生物と密接に関わる生物にのみ作用する点から、周辺の生態系や環境に害が少ないとされています。

また、世界的に有機製品の需要が高まっていることから、有機農業が増加し、そこで利用できる生物農薬の需要も高まっています。

生物農薬市場の成長予測

株式会社グローバルインフォメーションの市場調査レポート「世界の微生物殺虫剤(生物農薬)市場:成長、動向、および予測」によると、アジア太平洋地域が生物農薬市場の成長を牽引しています。特にインドは、有機農業の数が80万人を上回るほど多く、また農産物の残留合成農薬への消費者の意識の高まりもあり、今後も有機農業の導入が増加されることやそれに伴い生物農薬の使用が増えると予想されています。

 

 

日本の生物農薬利用の現状

生物農薬市場の今。微生物の農業利用が高まる理由とは。|画像2

 

農林水産省はSDGs(Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標))や環境を重視する国内外の動きをふまえ、有機農業の拡大などを織り交ぜた「みどりの食料システム戦略」を策定しています。

農林水産省では、食料・農林水産業の生産力向上と持続性の両立をイノベーションで実現する「みどりの食料システム戦略」を策定しました。

引用元:みどりの食料システム戦略

この背景には、地球温暖化による影響があります。地球温暖化の影響で、高温や豪雨、台風等が発生しやすくなり、作物の収量が減少したり品質が低下したりするなど、生産現場に影響が出ています。また病害虫がまん延し、その対応で薬剤防除を行った結果、薬剤抵抗性がついた病害虫が発生するといった事態も生じています。

こうした背景から、「みどりの食料システム戦略」は生産環境の改善だけでなく、環境負荷の軽減も目的としています。

農薬利用に関する目標には、化学農薬のみに依存しない体系や従来の殺虫剤に変わる新規農薬等の開発により、“2050年までに、化学農薬使用量(リスク換算)の50%低減を目指す(引用元:みどりの食料システム戦略)”とあります。そしてその中の具体的な取り組みに、生物農薬の活用技術の開発が挙げられています。

化学農薬とは違う防除法として期待が高まる生物農薬。今後、市場がどのように動いていくのか注目です。

 

参考文献

  1. 農薬はどうして効くの?|教えて!農薬Q&A|農薬工業会
  2. 生物農薬の現状と未来について
  3. 生物農薬市場、2021年から2026年の間、14%のCAGRで成長見込み|株式会社グローバルインフォメーション|PR TIMES
  4. 微生物農薬市場 消費者の残留農薬への意識の高まりが成長を後押|ニュース|農薬|JAcom 農業協同組合新聞
  5. 「農業生物製剤市場」タイプ別、作物の種類別などグローバルな需要を分析|ニュース|生産資材|JAcom 農業協同組合新聞
  6. 達山和紀、山本広基、江川 宏、坂本積『各種農薬の土壌微生物に及ぼす影響』(島根大学農学部研究報告 第13号)
  7. みどりの食料システム戦略
  8. 「みどりの食料システム戦略」の 検討状況と策定に当たっての考え方 令和3年1月 農林水産省

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