農薬の散布は農作物の病害虫から守るために欠かせない作業ですが、適切なタイミングや散布方法を知らないまま行うと、農薬の効果を最大限に引き出すことができないうえ、環境や農作物に悪影響を与えることがあります。
本記事では、農薬散布の基本として、散布に適したタイミングや効果的な散布方法、そして安全に作業を行うための注意点について紹介していきます。
農薬散布のタイミング
正しいタイミングで農薬を散布することで、薬剤の効果を最大限に引き出すことができます。
気温と湿度を考慮した時間帯
農薬散布は、できるだけ早朝や夕方の気温が低い時間帯に行うことが推奨されます。
一方で、日中の気温が高い時間帯に散布することは避けます。理由は、気温が高いと葉の表面についた薬剤の水分が蒸発し、高濃度の薬剤が散布された状態になるから。薬害が発生しやすくなるため、日中の気温が高い時間帯の散布、また気温が30℃以上のときは散布を避けます。
天候の影響
天候も散布のタイミングを決める上で重要な要素です。雨が降りそうな日は、農薬散布を控えます。雨により農薬が流れ落ちてしまい、効果が失われてしまうからです。しかし、もし散布後に多少の雨が降っても、薬液が作物に一度吸着して乾けば、再散布する必要はありません。
また、散布時に風が強いと薬液が他の場所に飛散しやすくなります。薬液が風で飛ばされると、散布したい場所に十分な薬液が届かないだけでなく、周辺の作物や環境に被害を及ぼす可能性があります。そのため、風が穏やかな日に散布することが望ましいです。
病害虫の発生タイミングも散布時期を決める要因に
病害の防除においては、発生初期に畑全面に散布してください。病害の発生規模が小さくとも、病原菌はすでに畑全面に飛散している可能性が高いからです。病害の防除は予防が基本ですから、初期段階では畑全面に散布します。
一方、害虫の場合は小規模な発生が部分的に見られる場合には、その部分だけに散布しても構いません。ただし、あちこちで少しずつ発生している場合には、畑全面に散布してください。
農薬散布のコツ
農薬はただ散布するだけでは十分な効果が得られません。効果的に散布するためのいくつかのポイントがあります。
噴口の向き
噴口の向きに注意を払います。なぜなら、病原菌は葉の表面だけでなく裏面にも侵入し、害虫も葉の裏側に潜んでいることが多いからです。葉の裏側にもしっかり薬剤が行き渡るようにするために、噴口を上向きにして、下から吹き上げるように散布すると効果的です。
なるべく細かい霧状にする
薬液はなるべく細かい霧状にして散布します。そうすることで、葉の表面に均一に薬液が付着し、効果が高まります。
上下左右に動かし、まんべんなく散布する
噴口の向き、そして薬液の状態をなるべく細かい霧状にしたうえで、上下左右に動かしながら散布を行います。そうすることで葉全体にまんべんなく薬液を付着させることができます。噴口が一か所に集中しないよう心がけながら、葉から薬液が滴り落ちるくらいにたっぷりと散布し、葉の両面に十分な薬液が付いている状態を心がけてください。
害虫にかける際には
どんなに速効性のある殺虫剤であっても、殺虫剤の有効成分が害虫の体内に取り込まれて害虫が死ぬまでには1〜3日間かかるとされています。殺虫剤の中にはすぐに効果が現れないものもあります。そのため、害虫が葉から落ちるまで殺虫剤を散布し続ける必要はありません。
散布しておよそ1週間後に害虫が発生していないか確認し、効果を判断してください。
薬液の調整・混合するときのポイント
作物によっては薬剤の付着が悪い場合があります。たとえばネギやキャベツといった作物は薬液が付着しにくいため、展着剤を加えることで均一に薬剤が付くようになり、効果の向上を図ることができます。
薬剤を混合する際は、基本的には最初に展着剤、次に次に液剤、乳剤、水溶剤、ドライフロアブル、フロアブル、水和剤の順に混ぜることが推奨されています。ただし、展着剤が不要とされる剤型(乳剤やフロアブル剤など)があったり、展着剤を最初に入れることを推奨しない薬剤があったり、薬剤によっては展着剤を混合することで薬害が発生する例もあるので、まずは各々の薬剤に記された注意書きを参考にしてください。
なお、省力化のために殺虫剤と殺菌剤を混合して散布することが少なくありませんが、薬害防止の観点からは現地での混用は避け、混合剤の使用が推奨されています。
農薬を散布する際の注意点
農薬を散布する際は、安全に作業を行うため、また環境や他の作物に悪影響を与えないために、以下の点に留意してください。
農薬の安全な取り扱い
まず、農薬の容器には使用上の注意が明記されています。これらの指示を厳守することが何より重要です。使用する量、濃度、散布タイミング、回数などが指定されているため、これに従うことが原則です。使用上の注意に従わないと、農作物への薬害や残留農薬の問題が生じたり、使用者自身の健康に危険が伴います。
なお、農薬の取り扱いや使用基準違反には罰則や罰金が科せられます。
また、作業中に適切な装備をすることも使用者自身の健康を守るために必要です。
散布を行う際は、雨合羽やゴーグル、マスクなどを着用し、薬液が皮膚や目に触れないようにしましょう。特に、アレルギー体質の人や薬液を吸い込むことで体調を崩しやすい人は、防護服やマスクの装着が必須です。
飛散防止、近隣への配慮
農薬を散布する際は、周囲への影響にも注意を払う必要があります。隣接する畑や住宅、養魚池などに薬剤が飛散しないように工夫します。特に風が強い日は、薬液が思わぬ場所に飛散する可能性が高いため、基本的には農薬散布は避けます。
なお、食品衛生法では、農薬が他の作物に飛散して、その薬剤が検出されるとその作物の出荷が規制される可能性があります(0.01ppmを超えて検出されると、食品衛生法違反になり、出荷できなくなる)。
散布を行う日には風向きに注意し、風下に人がいないか、他の作物がないか確認することが重要です。また、トラブル防止のためにも、散布前には近隣住民に薬剤散布の予定を知らせてください。
耐性菌の防止
農薬を繰り返し使用すると、病害虫が薬剤に対して耐性を持つことがあります。これを防ぐためには、同じ薬剤を連続使用しない、作用点の異なる薬剤を交互に使用する、できれば薬剤の使用回数そのものを減らすなどの工夫が必要です。
参考文献
- 米山伸吾他『新版 仕組みを知って上手に防除 病気・害虫の出方と農薬選び』(農文協、2022年)
- 日本植物防疫協会編『農薬概説2021』(日本植物防疫協会、2021年)
参照サイト