農薬は防除対象に該当する病害虫や雑草に対して目的の効果を発揮する一方で、対象以外の作物や昆虫、使用者自身、周辺の環境に悪影響を及ぼす可能性があります。対象以外への影響を少なくするためには、農薬を適正に使用することが鉄則です。
そこで本記事では、ほ場周辺の環境(近隣の作物や住居環境、水環境など)に影響を及ぼす可能性のある農薬の「飛散」に着目し、飛散防止のために心がけておきたいことについて紹介していきます。
農薬の飛散防止対策
たとえば広域に農薬が散布される場合、散布方法によってはほ場外に農薬が飛散してしまう可能性があります。農薬の飛散は、周辺の作物や周辺の生態への影響のみならず、住民や器物に対して問題が生じる原因となります。また水環境の汚染の一因ともなることから、人の生活環境の保全や陸域、水域の生態系保全、環境負荷低減の観点で配慮が必要となります。
昨今、環境負荷低減の観点から、化学農薬以外の選択肢も加えたIPM(総合的病害虫・雑草管理)の実践が推奨されています。農薬を全く使わないというわけではありませんが、農薬を使用する場合には以下の心がけが大切です。
- 農薬散布は無風および風の弱い時に行う
- 風の弱い時には風向きに注意して行う
(飛散の影響のある作物や器物等が風下にある場合には注意して散布を行い、場合によっては散布を見合わせること) - 散布する方向(ノズルの向きなど)に注意する
- 適正な圧力で散布できるノズルを使う
(病害虫防除では微細な散布粒子が好まれるが、ノズルの圧力を高めて必要以上に微細にすると飛散しやすくなる) - 適正な散布量で散布する
- 病害虫の発生に応じて、農薬を散布する範囲を最小限にする
- 周辺ほ場の農業従事者に対して、事前に、農薬使用の目的、散布する日時、使用する農薬の種類などについて連絡する
そのほか、問題が生じにくい農薬を選ぶことはもちろん、周辺作物に対する残留基準などの情報が把握できる農薬を選ぶと安心度が高まります。飛散が生じることが考えられる場合には、周辺ほ場との境界に農薬を散布しない区域を設けたり、ソルゴーなどの植物を栽培したりして緩衝地帯を設けたり、小規模な畑であれば一時的に被覆したりといった対策が有効です。
また農薬散布時には、自身のほ場の作物に意識を向けること以上に、周辺ほ場で栽培されている作物への影響を考慮することが重要です。
農薬散布以前に確認しておきたい事項は以下の通りです。
- 実行する散布方法ではどれだけ農薬が飛散するのか
- 農薬の飛散が及ぶ範囲に別の作物が栽培されているか
- 周辺の作物において散布予定の農薬の基準値がどれくらいか
- 周辺の作物において農薬検出のリスクはどれくらい高いか
これらについて事前に確認し、散布計画を立てる必要があります。そして状況に応じて、使用予定だった農薬の種類を変更したり、農薬の形状や散布に用いる器具を飛散が少ないものに変更したりします。
どうしても飛散が避けられない場合には、散布日の変更や周辺の農業従事者と連絡を取り、収穫日を変更してもらう、ほ場を被覆するなど飛散防止対策をとってもらうなどして飛散による影響を抑えます。
また、農薬使用時には以下の内容について記録し、一定期間保管してください。
- 農薬を使用した年月日
- 農薬を使用した場所
- 対象農作物
- 気象条件
- 使用した農薬の種類
- 単位面積あたりの使用量(または希釈倍率)
参考文献:日本植物防疫協会編『農薬概説2021』(日本植物防疫協会、2021年)