2022年9月、農林水産省の公式ツイッターで「開帳型イネ」が紹介され、注目を集めました。国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構(以下、農研機構)が開発したこのイネは一般的なイネと違い、放射線状に広がった葉が特徴です。
開帳型イネとその特徴
放射線状に広がった葉をもつ開張型イネは、野生イネの遺伝子を活用して開発されました。
現在栽培されている一般的なイネの品種は、その時代その時代の農業形態に適した野生イネの個体を選抜することで確立されたものです。栽培に適したイネが確立する一方で、野生イネが本来持っていた多様な遺伝子が失われました。放射線状に広がる葉に関連する遺伝子は、栽培に適したイネが確立する過程で失われた遺伝子の中から見出されたものです。
開帳型イネの特徴について、農研機構のプレスリリースにはこう記されています。
開張型イネは、従来の品種に比べて効率的に太陽光を遮ることで水稲群落下の雑草の生育を元品種の半分以下に抑制します。
また、開張型イネは生育後半に広がった葉が直立するため、従来品種と同じように収穫することができます。
野生イネと栽培イネの違い
現代の野生イネと栽培イネを比較すると、栽培イネは野生イネに比べて草丈が小さくなった代わりに穂が大きくなりました。野生イネの米には色がついていますが、栽培イネは白米が一般的です。野生イネの種子は、自然に地面に落ちるのですが、昔の人々が種子の落ちにくい系統を積極的に選んだ結果、現代の栽培イネは種子が自然に落下することはありません。そして野生イネは開いた形の穂を持ちます。
穂の開閉は何に影響しているのか
2013年2月24日に公表された石井尊生『OsLG1遺伝子は栽培化されたイネの閉じた穂形態を制御する』(Nature Genetics、2013年)では、野生イネと栽培イネの穂の開閉について記されています。
野生イネの種子の先端には「芒(のげ)」と呼ばれる細長い器官があり、これは自然環境下において、鳥獣から種子を保護する役割や、細かい棘があることから動物の毛にからんで遠くへ種子を運搬させる役割があるとされています。動物や風雨など、さまざまなものが芒に触れることで種子が脱落します。
上記研究で、閉じた穂をもつ系統を交配により作り出し、どのような現象が起こるか調査した結果、穂が閉じることで芒どうしが重なり合い、種子の脱落が一時的に抑えられることで種子が落ちにくくなった、とあります。また、そのことにより採集しやすくなったともあります。
加えて穂の開閉は繁殖にも関係しています。穂が閉じた状態だと、下位の長い芒が開花している器官を覆い、外からの花粉を受け取りにくい構造になります。野生イネは多様な環境に対応するために、他の植物から花粉を受け取る繁殖様式の性質を残しているのですが、閉じた穂の系統の受精様式のほとんどは自殖(自家受精による生殖)だったことがわかっています。
開張型イネに期待されること
開帳型イネは生育初期に葉が広がることで、従来の品種に比べて効率よく太陽光を浴びることができます。これは良好な生育につながります。そして先で紹介した開帳型イネの特徴のように、葉が広がり地面を覆うことで、イネの群落下の雑草の生育を抑えることができます。これは雑草防除にかかる費用や労力削減につながります。
参考文献